前回は、より良い経営意思決定とは何かについてご紹介しました。そこで今回は、どうしたらより良い意思決定を導けるのかについて考えていきたいと思います。意思決定論では「意思決定は選択である」という基本概念があります。それによると、あるべき意思決定には次の3つの過程を要すると言われています。

①意思決定のフレーム(基本的枠組み)を決める
  何を決めようとしているのか、どの局面で(範囲)で決定をしようとしている のかを決める。
  決定の良し悪しを計る尺度とその優先順位を定義する。
②代替案の抽出と評価
  情報を収集・分析し、代替案を抽出する。
  代替案を、フレームで定めた尺度で評価する。
③選択
  選好に応じて代替案を選択する。

いわゆる意思決定の規範的モデルと呼ばれるものです。最初からフレームというなじみのない言葉がでてきましたが、ここは意思決定のプロセスで最も重要な部分であり、これが正しく終了すると半分は終わったとさえ言われます。

フレームとは写真を撮るとき、ファインダーに収める風景、すなわち「構図」です。意思決定のフレームは、どの範囲で、どの面の課題を解決したいか、その中で決定の良し悪しをどうやって判断するのか、を決めます。

例えば、自動車の設計を考えて見ましょう。車を移動の道具とフレームした旧ソ連の自動車メーカーは、確かに燃費がよく頑丈な車を作りました。一方、アメリカのメーカーは、自動車を家族や恋人、友人と一緒に過ごす移動空間としてフレームしました。果たして、自動車を購入する顧客のフレームは後者でした。その結果、見た目がよく、居心地のよい車を作り、世界に輸出するメーカーに成長たのはアメリカのメーカーでした。
両者とも問題の解決は正しく行われたのですが、フレームの違いが大きな結果の違いを生んだのです。そう、答えは正しくとも、その問題が間違っていれば目的にかなう結果につながる解決や決定ができないわけです。

もうひとつ例をあげてみましょう。1970年代、コカコーラと激しい市場争いをしていたペプシコは、コカコーラのあのくびれたボトルが最大の競争優位だと確信し、それに対抗するボトルを何百万ドルの費用をかけて開発してきました。しかし、それでもなお、くびれボトルに対抗するものにななりませんした。当時のマーケーティング担当副社長だったジョン・スカリー(後のアップルコンピュータのCEO)は、問題の本質はコカコーラのボトルと競争するのではなく、コカコーラのボトルの強みをなくすことだと考え、フレームを切り替えました。その結果、コカコーラのボトルより大きめのパッケージを中心とした戦略を策定し、長年無敵だった「くびれボトル」を駆逐し、シェアを劇的に広げました。このように、フレームを変えることで、問題の本質に迫り、本質的な解を生むこともできるわけです。

会議などをしていて、意見がずれて噛み合っていないと感じた方も多いでしょう。また、提案書や計画書、設計書などを一生懸命に作って経営トップに発表したとき、「そもそもなぜ、その前提を置くのだ?」、「そもそも問題はそこにあるのではない」などと、「そもそも論」になった経験が少なからずあるのではないでしょうか? 意思決定の分野でコンサルティングを行うインテグラートのコンサルタントは、フレームがずれていることに常に注意を払っています。かくいう私も、社内の会議などで「北原さん、この前とフレームがずれましたね」と社員から時々言われます。フレームが後になって変わると、それまでやってきた前提がリセットされ、仕事を最初からやりなおさなければならなくなることがあります。逆に、検討している案に誰も満足できずアイデアが膠着しているとき、フレームを変えることによって、新たな解決案が出る場合もあります。

(北原 康富)

参考文献:「勝てる意思決定の技術」(ダイヤモンド社)