最近総理大臣がよく代わります。2か月前にも菅さんから野田さんに総理大臣が交代しました。これだけ総理がコロコロ代わると、現職の野田総理には何を成すかと同じくらい、どれくらい長く続けられるかという興味と期待があるのではないでしょうか?

では、長く総理大臣を続けるには何が必要なのでしょうか?今回のコラムでは、この素朴な疑問を定量的に分析してみよう考えてみました。

長く総理を続けるための条件として、直感的には総理の「決断力」「情報収集能力」「人心収攬能力」などがあげられるかもしれません。しかし、これらの多くはなかなか数字として置き換えることが難しく、定量的な分析対象になりにくいものです。

そこで、戦後の歴代総理の就任前、就任後の経歴と内閣に関する実績データから、在任期間の長さにつながる要因を読み取れないかと考え、重回帰分析で説明式を作ろうと試みました。以下に検討対象と、検討の俎上に載せた要因をご説明します。

国会議員であることが総理大臣就任の要件となる現在の憲法施行以降の歴代総理大臣(片山哲から菅直人までの30人)の在任日数を対象(目的変数)にしました。
ちなみにこの30人の平均在任期間は782日(約2.1年)です。
「歌手1年、総理2年の使い捨て」と言ったのは竹下登(在任期間576日)ですが、まさにこれを裏付ける数字です。

次に、在任期間を決定する要因として以下のような指標を検討しました。
まず、就任前の要因指標として、以下の5つを指標としました。年齢を除くいずれも、数値が大きいほど在任期間にプラスの影響を与えるのではと仮定しています。

1)就任時の年齢(若さ)

2)学歴:定性的な要因なので対象30人の最終学歴を勘案し、次のように分類しました。
・旧帝大:11人(吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、鳩山由紀夫など)
・早慶:8人(<早大>竹下登、海部俊樹など、<慶大>橋本龍太郎、小泉純一郎など)
・その他(早慶以外)私大:6人(三木武夫<明治大>、麻生太郎<学習院大>など)
・その他国立大:4人(大平正芳<一橋大>、菅直人<東京工大>など)
・非大卒:1人(田中角栄)

3)官僚出身者か否か:(行政機関内部の経験の有無が影響するかと考え、官僚出身であれば1、そうでなければ0としました)

4)就任時までの議員通算経験年数(国会議員としての経験の長さ)

5)就任時までの閣僚通算経験年数(行政機関の長としての経験の長さ)

就任後に在任日数を決定する要因となる指標を選択するのが難しかったですが、次の指標としました。

6)年当たり平均閣僚任命人数(在任期間中どの程度人の入れ替えを行っているか):

同じ人は1人としてその内閣の通算任命閣僚数をカウントし、通算任命閣僚数÷在任日数×365日で算出しました(但し、在任期間が1年未満の総理は通算任命閣僚数=年当たり平均任命閣僚人数としました)。1内閣の閣僚定員は1999年まで20人、2000年以降は17人ですので、現在、発足時に17名任命してそのまま2年間経過すれば、年当たり8.5人となります。つまり、この数値が少ないほど、同じ人を連続して任命していることになります。

さて、これら6つの要因指標を説明変数として追加・削除しながら相関と回帰分析を繰り返しました。事前にある程度予想していましたが、なかなかこの6つの要因だけで十分に在任期間を説明することが難しいことを痛感しました。

まずは在任期間と各要因間の相関を見たところ、次のような発見がありました。

A)就任時の年齢と在任期間は全く関係がない
年齢と在任期間の相関はほぼゼロと出ました。30人のうち就任時最高齢が72歳(石橋湛山(在任期間65日)、宮沢喜一(在任期間644日))、最年少が52歳(安倍晋三(在任期間366日))ですが、いずれもあまり長期政権に至っていません。

むしろ30人の平均値である63.5歳に近い人のほうが長期の在任期間になるケースが多く見受けられます(佐藤栄作・就任時63歳/在任期間2798日、中曽根康弘・就任時64歳/在任期間1806日)。

B)年齢と同様、就任までの議員在職年数および閣僚経験年数もあまり在任期間に影響がない
議員や閣僚としてのキャリアはある程度長いほうが在任期間にプラスに作用すると想定していましたが、これも年齢同様ほとんど相関がないという結果になりました。議員在職年数については吉田茂(議員経験年数1年/在任期間2248日)という異常な例がサンプルに含まれているためかと思い、吉田茂を除いた29人の在任期間との相関を見ましたが、ほぼ同じ結果となりました。閣僚経験については年齢と同様に、経験年数がゼロ(片山哲(在職期間292日)・細川護煕・村山富市(在職期間561日)・鳩山由紀夫)や最長(宮沢喜一(閣僚経験年数10.8年/在職期間644日))よりも平均値(3.8年)に近い人のほうが長期の在任期間となる傾向があります。

C)官僚出身者は在任期間が長くなる
学歴の中で最多数となる旧帝大出身者も比較的在任期間が長い傾向が読み取れましたが、旧帝大出身者の多くが官僚出身者(9人・このうち大平正芳を除く8人が旧帝大卒)であり、二重に影響を評価しているため、影響要因としては官僚出身者か否かに絞りました。官僚出身者と在任期間の相関係数は0.52と比較的高く、吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘など5年を超える在任期間の総理がいずれも官僚出身であることが影響していると思われます。最近官僚悪玉論が幅を利かせていますが、少なくとも過去の実績からみると、官僚出身者が政権も担うことで安定的な効果を生み出してきたことは否定できません。

D)閣僚任命人数が少ない総理ほど在任期間が長い
今回の調査で最も明確に影響を確認できたのがこの事象です。長期政権を成しえた総理は例外なく同じ人を連続して任命し、逆により多くの人を閣僚に任命した総理ほど、在任期間が短くなるという法則が窺えます。対象30人の総理のうち在任期間ベスト3の年当たり平均閣僚任命人数は、佐藤栄作(13.2人/年)、吉田茂(10.6人/年)、小泉純一郎(10.3人/年・在任期間1980日)とほぼ閣僚1人につき平均2年~1年半連続して任命しています。また、これらの長期政権は主要閣僚に同一人物を長期間任命している点も共通しています。佐藤内閣の福田赳夫蔵相/外相(5年2カ月)、吉田内閣の池田勇人蔵相/通産相(3年9ヶ月)、小泉内閣の麻生太郎総務相/外相、谷垣禎一財務相、中川昭一経産相(いずれも3年)などです。逆に、年当たり平均閣僚任命人数が20人(つまり1閣僚平均1年以下で交代)を超える総理17人のうち、在任期間が平均(2.1年)を超えたのは田中角栄(在任期間886日)、海部俊樹(在任期間818日)、橋本龍太郎(在任期間932日)の3人のみです。有能な人材に長期間重要な役職を任せられることが長期政権のポイントと言えるでしょう。

次に、何とか重回帰式を導くべく、説明変数を絞り込むと、以下のような2変数の式を導き出しました。
<在任期間=1576.54日‐年当たり総閣僚任命数×45.36日+官僚出身者は603.31日>単純に言えば、官僚出身者ではない総理は新たな人を閣僚に任命すればするほど、在任期間が短縮し、官僚出身者は任命数と関わりなく1年8カ月長く在任できる、ということになります。

野田総理は官僚出身ではなく、発足時に17人、発足9日後に1名補任(鉢呂経産大臣→枝野経産大臣)し計18名任命してまだ1年経過していないので、この式に照らすと
<1576.54‐18×45.36=760.06日=2.08年>
が予想在任期間となります。但し、このまま衆議院の残り任期一杯のあと1年9カ月閣僚の入れ替えなしで乗り切った場合、年当たり任命数は18人÷約2年=9となりますので、さらに約2年間在任期間が延びるという予測になります。

ただしこれは決定係数が0.46なので総理在任期間の半分も説明できていないことになります。今回は総理大臣の個人的な属性や経歴に要因を絞ったため、それ以外の外的要因(与党の体制や構造など)が相当程度影響していることが言えると思います。

さて、菅前総理の在任期間は452日であり、平均の782日より、かなり短いと言えます。

そこで菅前総理について、上記の定量分析から考えてみると、内閣改造を繰り返したこと(32人・年平均25.8人)が、在任期間を縮める一因だったのではないかと推定できました。

菅前総理の在任期間が短かったのは、震災対応のプロセスなどが要因として言われていますが、今回ご紹介したような、歴代首相との定量的な比較も、要因推定の手法として活用できそうです。

(井上 淳)

(参考資料)
首相官邸ホームページ「内閣制度と歴代内閣」
http://www.kantei.go.jp/jp/rekidai/index.html ほか