インテグラートは事業投資の計画立案・リスク評価・意思決定・実行管理を支援する製品・サービスを提供しています。事業投資を専門にシステム開発やコンサルティング、研修などを提供する中で、最近、監査役や内部監査部門の方からセミナーのお申し込みやお問い合わせを頂く機会が増えております。その背景としては、日本版スチュワードシップ・コードの策定や昨年の会社法の改正、コーポレートガバナンス・コードの適用開始によって、監査部門の方が置かれている環境が大きく変化しているためと考えられます。そこで事業投資業務が内部監査の対象となっているかを確認してみると、ほとんどの企業で事業投資業務が内部監査の対象となっていないようです。事業投資は企業の業績に対して極めて大きな影響力を持っているにも関わらず、事業投資業務が内部監査の対象となっていないのはどこに原因があるのか、今回のコラムで改めて考えてみました。

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 最初に事業投資について簡単に説明させて頂きます。まず投資とは、事業投資と金融投資に大きく分けられます。事業投資とは、研究開発投資や設備投資、新規事業投資、M&A(企業買収)、既存事業の追加投資などを指し、証券投資のような金融投資とは異なります。事業投資の業務の流れの一例として、以下の例を提示します。()内は、各ステップでよく起こる問題です。
ステップ1:まず事業現場が事業の計画立案を行う。
(→本社に計画の意図が伝わらない。または、故意に伝えない。)
ステップ2:本社スタッフがその事業計画に対して、リスク評価を行う。
(→リスク評価と現場の行動計画が乖離し、リスク評価が数字の遊びになる。)
ステップ3:経営陣がそのリスク評価を踏まえて、意思決定を行う。
(→情報共有が不足している状況で、意思決定が下される。)
ステップ4:意思決定後に、成果実現まで、長期間の実行管理が行われる。
(→意思決定後は現場任せ。意思決定の修正を提言しにくいため、計画修正のタイミングを失う。)
上記の()内のような問題が起こると、中長期の戦略ならびに予想業績が未達に終わる
(こちらの詳しい考察は別のコラムに記載があります。http://www.integratto.co.jp/column/111/)、またはM&Aで買収先ののれん代の減損に見舞われるなど、経営上極めて大きな問題に発展する可能性があります。そのような問題を避けるためにも、インテグラートは事業投資業務も内部監査の対象となることが望ましいのではないかと考えています。(前回のコラムで「のれん」について解説があります。http://www.integratto.co.jp/column/118/
 続いて内部監査の定義とその役割について説明させて頂きます。日本内部監査協会で内部監査は次のように定義されています。「内部監査は、組織体の運営に関し価値を付加し、また改善するために行われる、独立にして、客観的なアシュアランスおよびコンサルティング活動である。内部監査は、組織体の目標の達成に役立つことにある。このためにリスク・マネジメント、コントロールおよびガバナンスの各プロセスの有効性の評価、改善を、内部監査の専門職として規律ある姿勢で体系的な手法をもって行う。(注1)」内部監査の役割は、上記の通り企業の目標達成のために、組織体の運営に付加価値をもたらし、そのために行うアシュアランス(評価・検査)およびコンサルティング業務です。
 それでは、事業投資業務が内部監査の対象となっていない原因はどういったところにあるのでしょうか。先日、弊社社長の小川が日本内部監査協会の研修会で講演する機会があり、その時に内部監査部門の方から出た意見を纏めると、以下のような問題が原因として挙げられます。
問題1:組織上の内部監査部門の位置づけは、経営者直属が89%(社長直属83%、その他の役員直属6%)と圧倒的に多く(注2)、社長が事業投資業務を内部監査の対象としたいか、社長の考え方次第である。
問題2:事業投資は非常に機密性の高い情報を扱うので、内部監査人がその情報にアクセスできる立場にない。
問題3:事業投資業務の監査を行うにも、内部監査人に事業投資の専門知識がないので監査できない。
問題4:事業投資業務を内部監査の対象としている企業はほとんどない。
上記の原因を踏まえて、事業投資業務の内部監査対象化のまず第一歩として行うと良いと考えるのは、「事業投資業務のプロセスの統一」です。事業投資業務は個別対応になりがちで、事業計画のExcelのフォーマットもバラバラということがよく起こりますが、まず「事業投資業務のプロセスの統一」を行うことで、内部監査部門が監査するのは事業投資の内容ではなく、事業投資のプロセスとなり、問題2と3に対して、十分に監査できる状況になかったとしても、まずは事業投資の業務プロセスを監査対象としていくことは可能と考えます(インテグラートの事業投資評価・管理システム「RadMap」を用いると、事業投資業務のプロセスの統一や事業投資計画書のフォーマットの統一も簡易に行えます。)。問題1に関しては、適切かつ効率的な業務プロセスを踏んでいるか、という視点であれば、経営者の中にも事業投資について監査してほしいという要望を持っている方が少なからずいると思われます。内部監査の定義にもコンサルティング活動とあるように、経営者に事業投資業務の内部監査の対象化を提言してみては如何でしょうか。問題4に関しては、事業投資業務の内部監査の対象化が組織体の目標達成・目標からの下方乖離の早期発見に有効であると考えるのであれば、他社に先駆けて実行していくのが良いと考えられます。

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 そのような中でインテグラートが貢献できるのは、事業投資の専門家として、事業投資評価・管理システムの導入やコンサルティング・研修のご提案が可能です。ご興味があれば弊社ホームページよりお問い合わせください。事業投資と内部監査の関わりは今後も深まっていくと思われますので、このコラムがその一助となれば幸いです。

(春原 易典)

(注1)『内部監査の定義』、日本内部監査協会
http://www.iiajapan.com/pdf/guide/IIAJ-final-Definition_of_Interna_Auditing.pdf

(注2)『2010年監査白書』、2011年6月、日本内部監査協会