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パブリケーション / インテグラート・インサイト・コラム
意思決定理論・考え方に関するトピック
Vol.117(2016.1.28)
「身近に潜む『平均への回帰の錯覚』」
 私たちは、様々な事象の間に因果関係を考え、今後の行動に生かすことを日常的に行っています。この「因果関係を考える」ということについて、最もオーソドックスな方法は、過去の行動とその結果の積み重ねから蓄積されたデータの傾向に基づいて因果関係を推定することでしょう。しかし、データの傾向を見るだけでは因果関係を適切にとらえることができないケースもあります。今月のコラムでは、そのようなケースの一つで、ついつい陥りがちな「平均への回帰の錯覚」をご紹介します。

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 まず「平均への回帰」とは、統計用語で「完全ではない関連性のある2つの測定値の片方が極端な値をとった場合、もう片方はより平均的な値に近づく(帰ってくる)傾向が生じること」です。この定義では少しわかりにくいですが、一例としてある生徒の中間テストの成績と期末テストの成績を考えてみます。この2つのテストの成績には、一般的には一定程度の相関があると言えます。できる(できない)生徒は両方良い(悪い)成績となることが想定されるとともに、2つのテストの間の勉強の仕方や、テスト当日の体調や運によっても左右されるので、完全に連動はしないとしても大まかには対応する傾向が認められるでしょう。この2つのテストで起こる平均への回帰とは、中間テストで予想以上に高い(低い)点数を取った生徒は、期末テストでは『実力が変わらなかったとしても』より平均的な点に落ち込む(浮上する)という現象です。テストの点数を真の実力による部分とランダムに偶然で生じる誤差の部分に分けるとすると、中間テストで極端に良い(悪い)点数というのは真の実力に加え偶然誤差の部分が得点を押し上げる(引き下げる)方向に働いた可能性が高いのです。そのため、仮に2つのテストで真の実力が変わらないとすると、期末テストで偶然誤差の部分がプラスマイナスどちらに働くかは予想できず、期待値はゼロとなります。従って、期末テストではより真の実力に近い平凡な点に落ち着くのが自然なのです。この性質は、例えば身長の高い親の子どもが必ずしもみんな身長が高いわけではない、といった現象にも当てはまります。

 そして「平均への回帰の錯覚」とは、上記で述べた平均への回帰が起こっているにも関わらず、値の変化が別の原因によって引き起こされたと考えてしまう心理的錯覚のことを指します。ここでは、子どものしつけに関する賞罰効果を例にとって説明します。親や教師にとって、子どもを褒めて育てるべきか、それとも厳しく叱ってしつけていくべきか、というのは難しい問題です。学習心理学の様々な研究結果によると、一般的には賞を与えると改善の効果が期待できるのに対し、罰の効果は限定的であり推奨できない、ということが示されています。しかし現実には、家庭や学校教育において罰が多用される傾向にあります。これを検証するため、あるシミュレーション実験が実施されました。実験参加者はコンピューター上のシミュレーションを行い、画面上に登校してくる仮想の子どもたちを叱るか褒めるかして、できるだけ遅刻しないように指導する教師の役割を体験するというものです。このシミュレーションの後、自分が用いた賞罰の効果評定を求められた参加者の多くが「登校時間を早くするために、叱ることが有効であり、褒めることは有効ではなく、逆効果もあった」と判断したのです。しかし、実は子どもの登校時間は、叱るか褒めるかとは無関係にランダムな結果となるようプログラムされていました。つまり、子どもの登校時間に関しては平均への回帰が起こっており、遅い時間に登校した後には登校時間がより早くなり、早い時間に登校した後は登校時間がより遅くなるケースが多くなっていました。ただ、実験の中でしつけ役の実験参加者は、遅刻してきた場合には叱り、早く来れば褒める、という選択をしたものと想像できます。そのため、この平均への回帰と実験参加者の行動を重ね合わせると「遅刻する→(叱る→)その後は改善することが多い、ちゃんと早く登校する→(褒める→)その後は悪くなることが多い」という『明確な経験的事実』が浮かび上がります。子どもたちの行動の良し悪しに平均への回帰が起こるのが普通だとすると、叱るという行為自体に全く効果がなかったとしても、その有効性が体験的に認められてしまうのです。こうした平均への回帰への錯覚は、「2年目のジンクス」(1年目で予想外に活躍すると、2年目は平凡な結果になる)という言葉にも見られます。2年目に落ち込むのは、必ずしも1年目の好成績が引き起こす慢心だけでなく、平均への回帰も影響していると考えられます。

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このように、平均への回帰の錯覚は、私たちの身近な現象で多く発生しており、かつデータに基づく明確な事実という一見信頼のおける根拠から誤った帰結が導かれてしまうという厄介な存在です。この錯覚を克服するためには何が重要でしょうか。例えば理科実験のように、同一の条件で数多く繰り返し試すことのできる性質のものであれば、様々な条件を少しずつ変えて対照実験を数多く実施することで、余計な因子を排除し真の原因を明らかにすることができるでしょう。しかし、生活の中で日常的に体験することすべてが、必ずしも同じ状態で何度も試すことができるものばかりではありません。そこで筆者は、データだけに頼らず『ロジック』を突き詰めて考え説明することが重要であると考えます。データからその現象がある原因によって引き起こされていると想定するならば、その理由付けとして単に「データがそのことを示しているから」だけでは、平均への回帰の錯覚にとらわれている可能性があり不十分です。「なぜそうなっているのか」という、原因が現象を引き起こすロジックを組み立て、他の人が納得できるレベルで説明できて初めて、平均への回帰だけでは説明しきれない、つまり偶然の要素を越えた真の原因にたどり着くことができるのではないでしょうか。
 弊社が提供しているビジネスシミュレーションでも、その組織的定着においては適切なプロセスを採用することでシミュレーションを「数字の遊び」に終わらせないことが重要です。まさに数字の遊び、というより「数字・データに遊ばれてしまう」ということのないよう、物事の本質を的確にとらえる論理の大切さを改めて意識していただければ幸いです。

(参考文献)菊池聡『錯覚の科学』(放送大学教育振興会、2014)

(楠井 悠平)
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