弊社は事業性評価(バリュエーション:事業投資のリスクとリターンを分析・評価し、価値の最大化に役立てること)を企業内で活用する支援を行っています。この事業性評価という業務は、社内では比較的新しい業務であることが多く、事業性評価の経営における位置づけについて、お客様と時々ディスカッションのテーマになります。

 今回のコラムでは、エンタープライズ・リスク・マネジメント(以下、Enterprise Risk Managementの頭文字を取って、ERMと略します)という考え方についてご紹介し、事業性評価の経営における位置づけについて考えてみたいと思います。

 ERMは、2004年9月にアメリカのCOSOという組織から報告書として公表された考え方です。報告書の日本語の要約編がホームページからダウンロードできるようになっています(ページは英語ですが、Japanese versionのリンクから日本語版がダウンロードされます)。(注1)

 この要約によりますと、ERMには以下が含まれます。

□ リスク選好と戦略を適切に組み合わせること
□ リスクへの対応に関する意思決定の質を高めること
□ 業務上の予測できない事象を減らし、業務上の損失を低減すること
□ 多重リスクや企業全般にわたるリスクを識別、管理すること
□ 事業機会を捉えること
□ 資本配分を改善すること

 また、報告書本文のまえがきには、以下のように記載されています。

 「経営者にとって最も重要な課題として、事業体がその価値を創造するために、どの程度リスクを受容する用意があるか、また実際に受容するかを決定することがある。この報告書により、経営者はこうした課題により良く対応できるようになるであろう。」(注2)

 このような内容を見ますと、ERMは事業性評価と共通するところが多く、事業性評価業務はERMを実践する業務の重要な一部である、と位置づけることもできそうです。

 このERMはCOSO II(COSOの重要な報告書の第二段階)と呼ばれていますが、COSO I と呼ばれる第一段階の報告書は、1992年に発表された「内部統制フレームワーク」です。この「内部統制フレームワーク」は約10年後に、日本のJ-SOX(内部統制の取り組み)に大きな影響を及ぼしました。

 COSOII、すなわちERMの検討は2001年に始まりました。2004年のERM報告書の公表まで約3年を要したことになります。COSO I(内部統制)で言葉の定義や内容が詳細に練られた流れを引き継いで、ERMにおいても多方面の意見を取り入れ、時間をかけてリスクマネジメントのあるべき姿について検討を重ねた様子が見受けられます。

 しかしながら現状では、ERMが内部統制に続くものと位置づけられているが故に、経営者の課題解決を支援するように普及が進んでいる様子は、あまり見受けられません。まだ不祥事リスクへの対応や、文書管理システムの導入といった取り組みが多いようです。

 このような状況ではありますが、ERMを企業の価値創造活動に明確に結びつけようという活動が各方面でスタートしています。昨年は日本価値創造ERM学会(注3)が発足しましたし、今年は価値創造とERMをテーマにしたセミナー等が開催されるようになりました。

 弊社も来月20日から22日まで、東京ビッグサイトにて開催される日経BP社主催の、「エンタープライズ・リスク・マネジメント2008」に出展いたします。「全体像は見えていますか?」と題するセミナーと、「事業のリスクは計画の中にある!」と題したミニセミナーを実施し、開発中のポートフォリオマネジメントシステム「RadMap/portfolio」の最新バージョンと、事業性評価支援システム「RadMap/project」「デシジョンシェア」のデモを実施いたします。 会場内展示ブースにて、弊社コンサルタントが皆様をお待ちしておりますので、ご都合がよろしければ是非お越しください。(注4)

 ERMが日本で普及していくかは、まだこれからのようですが、事業リスクの評価を経営と結び付ける考え方が長い時間をかけて検討され、報告書として公表されたことは素晴らしいことではないかと思います。弊社も微力ながら、事業リスクの適切な評価と受容を支援し、お客様企業の発展の一助となりたいと願っております。皆様のご期待にお応えできますよう、社員一同努力を続ける次第です。

(小川 康)

(注1)COSO:the Committee of Sponsoring Organization of the Treadway Commissionの略称
COSOホームページ http://www.coso.org/ERM-IntegratedFramework.htm

(注2)「全社的リスクマネジメント フレームワーク編」
八田進二 監訳 中央青山監査法人 訳 東洋経済新報社

(注3)日本価値創造ERM学会ホームページ
 http://www.javcerm.org/

(注4)エンタープライズ・リスク・マネジメント2008公式ホームページ
 http://expo.nikkeibp.co.jp/erm/index.html