事業性評価という言葉、少しずつ一般的になってきていますが、皆さまご存知でしょうか?事業性評価とは、ある事業または事業投資が、将来どの程度の価値をもたらすか評価する業務です。英語ではvaluationということが多いようですが、近い意味でbusiness analysis やbusiness assessment と表現されることもあるようです。当面の投資として必要なキャッシュや人材等の経営資源を検討することと、いつ頃どのような成果が得られるか、事業投資の採算性を検討する重要な業務です。事業性評価には、価値を言葉で表現する定性評価と、価値を数値で表現する定量評価がありますが、このコラムでは数値で表現する定量評価を前提に進めることとします。

インテグラートは事業性評価業務を支援するシステムとコンサルティングを提供していますので、事業性評価について考えることは極めて重要なことです。しかし、その事業性評価について私が日頃から気になっていることがあります。

それは、事業性評価業務が必要だという方が各社に増えてきている一方で、その同じ会社の方々で事業性評価をされて喜ぶ方は、相変わらずほとんどいないという現実です。例えば、研究開発や技術開発部門の方々には、事業性評価なんて邪魔だよ、と言われるわけです。これは周囲の方の協力が得られていない状況です。(協力していただいている方々、ありがとうございます!)

また、事業性評価業務で自社のプロジェクトに対して何らかの数値が算出される際に、議論が不足しているように見受けられます。社内で算出している数値なのですが、まるで第三者が作成した報告書の数値であるかのように見直しがされず、そのまま利用されることがあります。これではせっかくの業務が生かされず、もったいないのです。

このような状況に対して、事業性評価という業務をわかりやすく定義できないだろうか、と考えてきました。その過程で、大変参考になった言葉があります。それは「価値評価(valuation)が意見であるのに対し、価格設定(pricing)は約束である」という言葉です(※)。この言葉の意味するところは、価値評価、本コラムでは事業性評価、の内容は誰かが考えたことであり、質問はもちろんのこと、反論も変更も行うべきである、ということです。そして、その結果意思決定されるのが価格であり、その価格を用いて、次の重要な意思決定、例えば投資判断などが行われるということになります。つまり、事業性評価業務の中に、意見検討と意思決定という2つのプロセスを定義しているわけです。

評価というと、ビジネスにおいては事業性評価よりも、業績評価という言葉が広く使われています。この業績評価は、「過去」の評価ですから答を「確定」することが当然です。それに対して、事業性評価は、「将来」の評価ですから、答を「確定」することはできません。現時点の決定、ということができます。つまり、事業性評価と業績評価は意味合いが大きく異なり、事業性評価には質問をはじめとした検討のプロセスがあり、その検討結果によって答えが変わることが当然なのです。

それでは、事業性評価において、何を検討すれば良いのでしょうか。製品開発・新規事業等の事業性評価は、基本的にその事業をどのように推進していくかを考えた事業計画に基づきますから、事業計画そのものの内容を検討すればよいわけです。事業計画の検討が行われる際に、事業性評価によって定量評価指標が算出されていると、評価指標を下げないためには、あるいは向上させるには、どうすればよいかという議論が起きます。事業計画の改善が試みられるわけです。

この事業計画の改善こそが、事業の価値が生み出される場、即ち価値創造のエンジンです。このエンジンで、事業性評価は、何故そうなのか?違う取り組みはできないのか?大きな問題は何か?という質問・反論・別意見を引き出す触媒として作用します。事業性評価が、バックグラウンドが異なる各部門のメンバーの共通言語となり、化学反応を促進するわけです。そして、質問・反論・別意見が交わされて、計画が改善されていきます。このプロセスを繰り返すことによって、事業アイデアが洗練され、実行可能な計画となるか、あるいは計画の非現実性が確認されます。

事業性評価は価値創造の触媒である、と考えると、現在協力を得にくい方々にとっても、自分が担当する事業計画の改善が図れるメリットがある、つまり自分にも役立つことだと理解されやすいのでは、と思います。また、評価数値を触媒として更なる事業計画の改善を目指す取り組みが広がりやすいのでは、と考えました。その結果として、新たな製品・サービスが実現すれば、素晴らしいことだと思います。

ところで、来る12月2日(火)に弊社は事業ポートフォリオマネジメントシステムRadMap/portfolioの新バージョンを発表いたします。ポートフォリオマネジメントとは、複数事業に対する最適な経営資源配分や最適な事業の組み合わせを探索し、経営目標の達成を支援する手法です。事業性評価業務の充実に貢献し、経営目標の達成に不可欠なシステムとしてご利用いただけることを願っております。

(小川 康)

(※)出典:「アーリーステージ知財の価値評価と価格設定」
R・ラズガイティス (Richard Razgaitis)著 中央経済社
(少し古く、残念ながら絶版です)