インテグラート・インサイトをお読みいただき、心からお礼申し上げます。

このインテグラート・インサイトは、2006年5月に第1号を発行し、今回で第50号となりました。弊社は、元々パッケージソフトの開発が主業で、以前はソフトを納品した後は、お客様に活用をお任せしているようなところがありました。しかし、真にお客様に貢献するためには、お客様との距離を近くすることが不可欠であると考え、様々な取り組みを開始いたしました。以来、ユーザー会の実施、コンサルティング・研修の強化、システムのカスタマイズ、展示会への出展等、お客様と直接会話する機会を少しずつ増やしてきました。そして、そのような日々のお客様との活動の中で、弊社コンサルタントが大切と感じたこと・考えていることを、直接皆様にお伝えしようという目的で、このインテグラート・インサイトの発行を開始しました。

このような趣旨を踏まえて、今月号のコラムでは、お客様とのエピソードと、その考察を3題ご紹介いたします。

1.「事業の価値を計算するなんて、所詮、数字の遊びではないか」

これはお客様から時々いただくコメントです。弊社の専門分野に対する直接の疑問だけに、考えさせられます。この質問には、「遊びのつもりでやれば、遊びにしかならない。しかし、適切に手順を踏んで評価することによって、意思決定はもちろんのこと、目標設定に役立つ」と弊社は答えます。事業の価値を評価することは、単なる計算ではなく、これから実現される製品やサービスの未来をひたすら考え抜くことです。

事業価値評価といっても、社外から企業の価値を評価する手順と、社内で新たな事業投資の価値を評価する手順は、全く違います。社外から企業の価値を評価する場合には、主にその企業の過去の実績数字を活用する手順を踏みます。過去の事実からスタートするわけです。

一方で、社内での事業投資の評価は、新規事業や製品開発投資など、ゼロから始まる場合が多く、事実からスタートしにくいものです。このような評価の手順は、価値計算というよりも、ビジネスプランニングと表現することが適切です。

ビジネスプランを検討し、5年、10年といった先のことを考える場合に、正しいと言えることはありません。しかし、適切に手順を踏んで、ひたすら考え抜いたビジネスプランは、その事業のリスクとリターンの源泉を示します。そのリスクとリターンの源泉を評価して、実行に関する意思決定を下し、更には達成すべき目標設定につなげることが可能です。

事業の評価とは、ビジネスプランニングである。このように考えると、遊びにはならないはずです。

2.「年間10件獲得の目標、頑張っています」

このコメントは、とあるメーカーの新規事業担当者から聞きました。印象深かったのは、このコメントを聞いたのが、コンサルティングが終了してから2年以上経っていたからです。しかも、彼女はチームの中では若手で、その新規事業の目標達成責任者ではありません。それでも彼女は自分がどう頑張ればチームが目標を達成できるか、明確に認識していました。

この新規事業では、必要な投資額がまず判明し、その投資に対して達成しなければならない売上・利益目標が決まりました。そこでもう一歩踏み込んだのが、どうしたら成功するか、何を実行すればチームが目標達成に向かうか、という売上・利益の要因分解と、行動目標の設定です。このときに設定した「年間10件獲得」という行動目標が、見事に定着していました。

このメーカーのことではありませんが、新規計画を承認した後、現場でどうなっているかわからないんだよね、という声を幾度となく聞いたことがあります。それは、立案者と実行者が異なる、あるいは、本社と事業部の力関係によるなど、単純な問題ではないのですが、実行者の行動に結びついていないことは問題です。

難しい意思決定ができたとしても、達成すべき目標の要因分解が不足していると、現場での行動目標にはつながりません。意思決定を生かすためには、関係部署が自分の目標として受け止めることができる単位まで、要因分解することが必要です。

要因分解はパワフルであり、各メンバーの行動目標に結びつく。メンバーの力を成功へ向けて結集する重要な鍵ではないでしょうか。

3.「同じ案件を、若手は却下・ベテランは承認」

これは実際の案件ではなく、研修の話です。あるビジネスプランニング研修の中で、仮想の新規事業について全く同じ情報を各参加者に渡して意思決定をしてもらいました。具体的には、ある検討中の新規事業の実行開始を承認するか、却下するかをチームごとに決定し、その理由を発表してもらいます。研修の中で検討の手順を説明し、短時間で効率よく議論されるようにしました。

そして約1時間半、各チーム内で真剣に議論を行った後、各チームが下した承認・却下の結果を発表をしてもらいました。チームは全部で4つ、そのうち2つが若手社員で構成された若手チーム、他の2つはベテランチームでした。結果は以下の通りです。

・2チームが却下、2チームが承認
- 却下の2チームは若手
- 承認の2チームはベテラン

・4チームとも、判断基準は会社のためだった
- 若手チームは、「失敗したら、会社に迷惑がかかる」「与えられた情報が不足しており、判断できない」
- ベテランチームは、「これは行けるでしょう」「最初の情報はこの程度しか得られないよ」

普段の研修では、リスクの取り方は人によって異なるので対話が重要である、とまとめるのですが、このときは、若手は自分でダメだと思ってもベテランに相談すること、という内容を追加しました。ベテランが常に正しいとは限りませんが、それよりも、生真面目に失敗を避ける若手社員の姿勢が気になりました。このままでは、事業機会を次々と失うのではないか、と感じたからです。このようなことが日本中で起きていたら、大変な損失です。

対話無しに却下することは簡単です。しかし、新たな事業のチャンスを見出すため、対話の重要性を見直しても良いのではないでしょうか。大切なことは、否定的な意見であっても、その理由を聞くことだと思います。

今回のコラムでは、日々の活動の中でのお客様とのエピソードをご紹介しました。
お客様との距離を近くして、お客様が取り組む新たな製品・サービスの実現に貢献することが弊社の願いです。これからもインテグラート・インサイトを通じて、メッセージを発信してまいりますので、引き続きご指導ご鞭撻を賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。

(小川 康)