11月10日~12日、弊社は中小企業総合展に出展いたしました。筆者も三日間会場におりましたが、全国から集まった約700の中小企業が多種多様な製品・サービスを展示しており、趣向を凝らして興味を惹かれるブースも多数あるなど、大変活気にあふれた展示会でした。
日本にある約421万社の企業のうち、中小企業(注1)は実に99.7%を占めています(注2)。中小企業は、ものづくりを中心として戦後日本の高度経済成長の原動力となってきました。またバブル崩壊以降の厳しい経済環境の中で、事業の停滞や廃業に至る中小企業もある一方、新製品・サービスを展開するベンチャー企業が多数生まれ、あるいは得意分野を武器に社会に大きく貢献する中小企業も現れています。このように、中小企業は常に日本を支える存在となっています。
さて、弊社は事業の計画・評価と意思決定を専門分野としておりますが、この日本になくてはならない存在である中小企業の皆様がよい良い意思決定をできるためのサポートをしたいと考えております。前置きが長くなりましたが、今回のコラムでは、中小企業で行われる意思決定のあり方と業績との関連性を調べ、高い業績に結びつくカギを明らかにしようと試みた論文「中小企業における意思決定の研究」(注3)を見つけましたので、簡単にご紹介したいと思います。

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意思決定を研究対象とする際の大きな問題点は、意思決定という目に見えない漠然とした存在をどのように実証的な分析として扱うか、という点です。この論文ではその問題点に対し、「組織IQ」という概念を用いて意思決定を可視化しています。組織IQとは米スタンフォード大学を中心とする研究チームが1990年代に考案した指標で、組織が行う意思決定は以下の5つに細分化された能力であるととらえ、数値としてスコア化します。
・外部情報認識(顧客、競合、技術のサブ項目により構成)
・内部情報発信(垂直、水平、学習のサブ項目により構成)
・効果的な意思決定(時間、水平、垂直のサブ項目により構成)
・組織フォーカス(評価、戦略、業務のサブ項目により構成)
・継続革新(創造性、起業家精神、ベンチャー支援のサブ項目により構成)
なお、この論文では、上記5項目に加え、意思決定が行われた後にそれが実行されるまでに要する時間を示す「実行までの所要時間(投資、新事業、撤退のサブ項目により構成)」を加えた6項目を診断項目としています。

この論文では、診断項目を構成するサブ項目ごとに作成された質問表を用い、従業員数が50~100名で創業後10年以上の中小製造業116社を対象としたアンケート調査を実施して有効な回答が得られた42社分の回答結果を基に、各サブ項目の組織IQスコアを企業ごとに算出しています。また業績を表す指標として直近3年間の従業員数成長率を使用し、従業員数成長率の上位1/3の企業と下位1/3の企業の各サブ項目における組織IQスコアの平均値を求め、平均値の差を算出しています。つまり、業績上位企業と下位企業で平均値の差が大きい項目ほど、高い業績をもたらすカギである、ということができます。

上記分析の結果、この論文では以下のような視点からの考察がなされています。
(1)技術志向と革新性
「実行までの所要時間(新事業)」、「継続革新(ベンチャー支援)」、「継続革新(起業家精神)」といった項目について、業績上位企業のスコアが下位企業を大きく上回っていました。つまり、技術志向を持ち、革新性を意識することが高い業績に結びつくものと考えられます。
(2)部門間の連携
また、「効果的な意思決定(水平)」、「内部情報発信(水平)」についても、業績下位企業に比べて上位企業のスコアが高くなっています。従って、意思決定における部門間の連携が重要であることがうかがえます。
(3)実行までの所要時間
さらに、「実行までの所要時間」のサブ項目3つについても、それぞれ業績上位企業と下位企業の間に比較的大きなスコアの差が見られました。この結果から、中小企業においては意思決定が行われた後に、できるだけ早くその実行に取りかかることが、高い業績につながる傾向にあることがわかります。

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以上、論文の概要をご紹介いたしましたが、いかがでしたでしょうか。筆者が個人的に興味を持ったのは、「(2)部門間の連携」に関して、重要なカギとなっているのは、効果的な意思決定にしろ、内部情報発信にしろ「垂直」よりも「水平」の方である、という点です。「(3)実行までの所要時間」で示されている通り、意思決定の結果を迅速に行動に移すことが大事だ、という点は多くの方も認識していると思いますが、その実現を図るための組織体制としては、まず「上意下達」に代表される垂直型の組織体制を頭に思い浮かべる方も多いのではないのでしょうか。しかし(2)の分析結果より、(迅速な決定実行に最も適合的だろうと思われている)垂直型体制の構築よりも、迅速な決定実行の妨げに一見思われるとしても、横のコミュニケーションが活発である水平型の組織体制の方がより高い業績に結びつきやすい、という示唆が読み取れるように筆者には思えます。
この点をもう少し自己流に解釈すると、垂直型体制を構築した企業では、経営者の決定がそのまま実行につながりやすくなる結果、経営者の決定が当たっていれば(実行までの時間が早い分)利益も大きなものとなります。その一方で、決定が不適切なものであった場合には、(その決定を実行に移すまでの障害が少ない分)そのまま損失につながる可能性も大きくなる、つまりハイリスク・ハイリターンの業績となることが考えられます。かたや水平型体制を築いた企業では、部門間のコミュニケーションが介在する結果、垂直型体制に比べて実行までの時間がかかる分、時間を先行することによって得られる利益は少なくなります。しかし、部門間でのコミュニケーションによって多様な知見が交わされる結果、経営者の決定が不適切なものであった場合に、それらの知見に基づいて決定内容を修正する(内容によっては決定の実行中止を勧告する)機会があるため、損失をもたらすリスクを抑え企業の安定成長につながりやすいのでは、と考えられます。

「インテグラート・インサイト」コラムでは、事業の計画・評価や意思決定に関わるさまざまなトピックをご紹介しております。皆様のご参考となりましたら幸いです。

(楠井 悠平)

(注1)中小企業基本法による中小企業の定義は以下の通り。
製造業:資本金3億円以下または従業者数300人以下
卸売業:資本金1億円以下または従業者数100人以下
サービス業:資本金5,000万円以下または従業員100人以下
小売業:資本金5,000万円以下または従業員50人以下

(注2)出典:総務省『事業所・企業統計調査』(2006)再編加工
http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_placement/index.htm

(注3)小寺崇之『中小企業における意思決定の研究―業績との関係を中心に―』(広島大学マネジメント学会、2007)