昨年より、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という本が発行部数200万部を超える大ブームになり、ドラッカーが再び注目を集めています。ブームとは直接関係ないのですが、私も「ドラッカー塾」という月1回半年間の研修に会社から派遣され、多くのことを学んでいます。「マネジメントの父」と呼ばれるドラッカーですが、彼は組織のマネジメントに関する著作を多く残しています。
 その中で、「最も大切な5つの質問」というものがあります。これは90年代に非営利組織の経営ツールとしてドラッカーが開発したものですが、現在では企業の経営ツールとしても広く使われているものです。

「最も大切な5つの質問」
1.われわれの使命は何か
2.われわれの顧客は誰か
3.顧客にとっての価値は何か
4.われわれの成果は何か
5.われわれの計画は何か

 5つの質問の1つ1つについての詳細な説明は紙幅の関係上割愛しますが、ご覧の通り極めてシンプルな質問です。5つの質問は、ビジネスプランニングのように個別のプロジェクトなどを企画立案・評価する際に用いるツールとは異なり、組織とその活動全体を評価するツールです。では、この5つの質問をビジネスプランニング業務を行う組織に照らしてみるとどうなるでしょうか?

 ビジネスプランニング業務の組織のあり方というのは、私たちのお客さまからも良く問われる質問です。営業や生産など直接業務の遂行に携わる他の機能組織と異なり、企画立案・評価に携わる組織の成果は定量的に測りにくいという状況が多いことから、あるべき組織の形を模索している人が多いという状況だと考えられます。

 ビジネスプランニングを行う組織に対して、この5つの質問をあてはめるには、例えば、次のような言い換えを行って考えることができます。(質問への答えではありません)

1.われわれの使命は何か
→このビジネスプランニング業務の目指すところは何か
2.われわれの顧客は誰か
→ビジネスプランニング結果を提出するマネジメントや会議体は誰か
3.顧客にとっての価値は何か
→ビジネスプランニング業務を行う組織だからこそマネジメントや会議体に提供できる価値は何か
4.われわれの成果は何か
→顧客であるマネジメントや会議体でビジネスプランニングがもたらす価値が実現した状態は何か
5.われわれの計画は何か
→前項の「価値が実現した状態」を達成するための方針・目標設定と具体的なアクションプランは何か

 5つの質問は、ビジネスプランニングプロセスの最初のステップであるフレーミングに良く似ています。フレーミングについては既にこのコラムでも何度も出てきていますが、ビジネスプランニングにおける問題の捉え方、考え方の枠組みの確認と共有を行うステップです。フレーミングでは、「ビジョン・ステートメント」というツールで、何をしようとしているのか、なぜこれをやろうとしているのか、成功したかどうかは何によってわかるのかといった、目的と切り口の共有化を図ります。これは、5つの質問の使命は何か、成果は何かといった質問に共通する考え方と言えます。

 これに対し、5つの質問とフレーミングのステップを比較して感じるのは、フレーミングでは顧客の視点がないという点です。といっても全くないわけではなく、フレーミングでもステークホルダーは誰かという質問によって、関与する組織や人間を特定しようとします。しかしながら、全社のような大きな組織全体を対象とする5つの質問とは異なり、会社内部にステークホルダーを限定するビジネスプランニング業務では、その業務の結果を受け取る人を顧客とみなす視点は明示されていない、というのが大きな違いです。

 ビジネスプランニングの結果を元に意思決定を行うマネジメントや会議体をあたかも顧客のようにみなし、彼らにどのような価値を提供するかというフレーミングを実践することを通じて、ビジネスプランニングを行う組織のあり方に関する検討や見直しにつながってくるのではないかと考えます。ビジネスプランニング業務の組織のあり方に悩む方は、この5つの質問、特に顧客は誰か、の質問を使ってビジネスプランニング業務を行う組織の再評価を行い、フレームを見直し、共有する活動が必要ではないでしょうか。企業にとっての顧客は誰か、はよく議論されていることと思いますが、ビジネスプランニング業務の直接の顧客についてあらためて考えてみると、改善のヒントが見つかると思います。

(井上 淳)

<参考文献>「経営者に贈る5つの質問」P.F.ドラッカー著・上田敦生訳、ダイヤモンド社、2009年