当社の主力製品である「RadMap」では、そのユーザーの皆さんが集まって事業性評価や事業ポートフォリオ管理の方法論・ノウハウに関する意見交換や親睦を図る場として「RadMapユーザー会」をユーザーの皆様が組織し、運営しています。当社はその事務局としてお手伝いしておりますが、先日このユーザー会の定例会が開催されました。その会で、今後のユーザー会で取り組みたいテーマについて会員の皆さん(実際に事業性評価やポートフォリオ管理を業務として取り組まれている方々です)から意見をお聞きしました。その意見の中で目立ったのが「事業性評価や事業ポートフォリオの分析結果を使ってどうコミュニケーションを取り、どうやって議論の中から意見や知見を引き出したら良いのか」という問題意識でした。後日、ユーザー会の役員の方々とこの議論について振返った際に、ある役員の方から「これはファシリテーションをどう行うかということではないか」という意見をいただき、他の役員の方々も深く納得されました。

 事業性評価や事業ポートフォリオ管理とファシリテーションがどう関わるのでしょうか?そもそもファシリテーションとは何でしょうか?今回のコラムはこれらを考えながら、これらの業務におけるファシリテーションの必要性について述べたいと思います。

 *ファシリテーションとは
このコラムをお読みの方で、ファシリテーションという言葉を聞いたことのある人はどれくらいいるでしょうか?言葉としてのファシリテーションの意味は「容易化すること、促進すること」といった意味です。そこから転じて組織内でのファシリテーションとは「チーム(組織・会議体などの)メンバーの知識創造活動の支援・促進を図るよう、特定の人たちがチームのプロセスを管理する方法」という定義になります。この中の「特定の人たち」というのがファシリテーターとなります。ファシリテーターはこの定義の通り、チームのプロセスに関わるのですが、2つのプロセスに関わる役割を持ちます。1つは、チームの活動の目的を達成するための外面的なプロセス、もう1つは、メンバーそれぞれの頭や心の中にある内面的なプロセスです。
この2つのプロセスを管理し、メンバーを支援するため、ファシリテーターには次のようなスキルが必要となります。

(1)議論を整理し、ゴールに導く支援を行うスキル:聴く、質問する、議論や論点を整理するスキル
(2)メンバーをやる気にさせるスキル

(1)は前述の外面的なプロセスに関わるために必要なスキルであり、(2)は後者の内面的なプロセスに必要なスキルと言えるでしょう。
ファシリテーションの応用分野は、大きく分けると「社会系」「人間系」「組織系」の3つに分かれます。社会系とは、まちづくり、コミュニティ、NPOなど、社会的な合意形成が必要となる場面で用いられます。人間系とは、人間教育、社会教育、学校教育、国際教育など広範囲の分野を含みます。大学やMBAの先生などは自ずと受講生のファシリテーションを行う役割があります。ビジネスに密接に関わるのが「組織系」で、チーム活動の中での問題解決や組織活性化などに用いられます。
では、事業性評価や事業ポートフォリオ管理業務では、ファシリテーションは具体的にどういう役割を果たすのでしょうか?

 *事業性評価・事業ポートフォリオ管理業務とファシリテーションの関係事業性評価や事業ポートフォリオ管理の業務とは、一般的に事業投資計画に対し感度分析やWhat-If分析などのシミュレーションを行い、事業採算性に関する分析結果をレポーティングすることだと思われがちです。確かにそれらも大事な業務ではあります。しかし、本当に大事なのは、その分析結果に至る過程で事業投資計画をブラッシュアップし、事業投資計画に関わるメンバーの知見を引き出し、実行可能であり「よし、やるぞ」と意欲の持てる計画にすることと、経営陣に正しく計画から予想されるリターンやリスクを伝え、納得感や経営陣からの新たな知見を得ることです。

ともすれば事業性評価や事業ポートフォリオ管理は分析することが業務内容であるととられがちですが、実際にはその分析結果を使って経営陣に伝え、組織としてのアクションを起こしていくことがより重要です。シミュレーションなどの分析結果は業務の目的ではなく、手段であり、議論の材料です。それまで見えていなかった将来の可能性に光を当てたシミュレーション結果を基に、メンバーや経営陣から知見を引き出し、新たなアクションにつなげることこそが真の目的です。この目的を達成するために、議論で意見を引き出し、プロセスをマネジメントするファシリテーションスキルが求められていると言えるでしょう。

(井上 淳)

<参考資料>
・「チームコーチング」ピーター・ホーキンズ著・田近秀俊監訳、英治出版、2012年
・日本ファシリテーション協会ホームページ https://www.faj.or.jp/