どんな仕事にも、生産性が重要です。今月のコラムでは、未来を考える仕事の生産性について、日頃の観察をご紹介したいと思います。

未来を考える仕事とは、企業の場合で具体的に言えば、企業の未来を創造するための事業投資を考える業務です。事業投資の生産性は、リターンを投資で割ったものですが、ここでいう未来を考える仕事の生産性とは、企画・評価・意思決定といった、事業投資を「考える業務」そのものの生産性のことです。

考えるだけ無駄だよ、という視点では「下手の考え休むに似たり」という諺があります。考える仕事の生産性が低すぎる状態を厳しく指摘していると思います。「下手の考え休むに似たり」という状態に陥らないためには、どうすればよいでしょうか。

このような問題意識を持つようになったのは、一度は事業投資を考える手法を導入したにもかかわらず、やめてしまった企業の話を聞いたからです。訪問して実際に話を聞いたのは、アメリカで3社、日本で2社です。いずれも、弊社の顧客ではありません。共通していたのは「手間が大変なんだよね」というコメントでした。

一方で、弊社システムのユーザー会は11年目となり、継続的に事業投資を考える手法を研究しています。メンバーとなっている顧客企業、即ち、事業投資を考える業務を継続している企業を観察して思うのは、次の4点です。

(1) 経営理論のいいとこどりをする

経営理論は、数々のビジネスの成功と失敗から経営学者が導いてきたものであり、積極的に活用すべきと思います。しかしながら、経営理論はアカデミックな側面を追求するあまり、複雑になりがちです。理論が示す手順通りに実行するのではなく、その本質を理解したうえで、自社の目的に合うようにカスタマイズする、あるいは、簡略化することが良いようです。

いや、カスタマイズしてはダメだ、簡略化してはダメだ、理論が示す手順に厳密に従うべきだ、という意見も実際聞くのですが、「手間が大変なんだよね」という事業現場の声を、重く受けとめる必要があります。

事業投資を考える理論を扱った書籍としては、以下の2冊をお勧めします。2冊とも金融理論の話ではなく、多くの人が連携して動くリアルな実務の話です。
「アントレプレナーの戦略思考技術」リタ・マグレイス/イアン・マクミラン 著
大江 建 監訳 社内起業研究会 訳(ダイヤモンド社)
「選択と集中の意思決定」籠屋邦夫 著(東洋経済新報社)

また、考え方の入門書としては、差し出がましながら、拙著をお読みいただければと思います。早く読めるという点は、自信をもってお勧めいたします。
「不確実性分析 実践講座」福澤 英弘/小川 康 著(ファーストプレス)

特に、「アントレプレナーの戦略思考技術」で解説されている計画法「仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning)は、企画立案時点で考え過ぎずに、計画時点でわからないことは仮説として扱い、その仮説をいつ確認するかが重要、と提言しています。意思決定を一時点に集中するのではなく、時間軸に沿って分散させることによって、初期段階での手間のかけ過ぎを防ぎ、実行中に次の一手を促す効果があります。

(2) 中立的な立場の人を任命する

ある程度大きな組織になると、事業投資を提案する現場と、意思決定者が異なるようになります。このような場合には、現場と意思決定者の対話が重要と言われています。そこで、その対話がうまく行くかというと、現実にはなかなかうまく行きません。腹の探り合い、あるいは、見える化の反対の「見えない化」が強力に推進されたりするのです。

優秀なR&D部門の人達や、事業に人並み外れた情熱を燃やす営業部門の人達が、全力で「私たちに任せてください」「私の目を見てください」と経営陣に迫って他のことを隠してしまうと、対話になりません。このような場合には、もう一段の工夫が必要です。

意思決定者と提案者がじっくりと話をするのではなく、中立的な立場の人・部署が任命され、間に入るようにすると、うまく事業性評価・リスク評価が行われ、適切なガバナンスの下、意思決定が行われるようです。間に入る人は大変なのですが、中立的・客観的な立場を貫くことによって意思決定者をサポートし、更に、評価のスキルが次第に蓄積されることによって、業務プロセス全体の生産性が向上します。

(3) ITシステムを使う

手間を省力化するのは、ITシステムの得意分野です。プロセスを明示することによって、次はどうしたら良いのかと迷う時間を省き、人による手順の違いを最小化し、分析・シミュレーションを瞬時に実行するなど、手作業ではとてもできないことを可能にします。また、感度分析や収益モデルの可視化は、議論の生産性を高めます。検討に用いたデータや収益モデルをサーバーのデータベースに一元管理することによって、アップデートを容易にする、過去の案件から学習する、などの効果があります。

(4) 大きく考える(Think Big)

手間というのは、生産性における分母(インプット)ですが、分子(アウトプット)を大きくすれば、生産性は高まります。ここでの分子(アウトプット)は、事業投資が目指す目標です。手堅く、小さく考えていると、見合う手間も小さくなり、結局しっかりと考えることができません。経営陣が「小さくまとまっている案ばかりで、今後の事業の柱になるような提案がない」と嘆くことになってしまいます。例えば、世界一を目指す、対前年比ではなく今まで考えたことがなかったような目標額を定める、など、大きく考えることが必要です。

(1)から(4)の中では、(4)が最も難しいように思います。(4)には、答えが用意されているわけではないからです。皆さんは、いかがでしょうか?

未来には限りがありません。素晴らしいことですが、限りがないゆえに、未来を考える仕事は、生産性が下がりがちです。未来を考える仕事の生産性が上がり、事業投資の結果として、新たな製品・サービスがどんどん実現されるように、弊社のITシステムとコンサルティングに磨きをかけていきたいと思います。事業投資にお悩みの方は、是非弊社にご相談ください。

(小川 康)