インテグラートは、優れた経営理論を土台として、ソフトウェアを活用し、お客様の事業計画立案・リスク評価と意思決定、実行管理の支援をさせて頂いております。前回、私のコラムで「仮説指向計画法ダイエット(Vol. 104, http://www.integratto.co.jp/column/104/)」ということで、「仮説指向計画法」を身近なテーマを用いてご紹介させて頂きました。今回は、優れた経営理論を融合した「戦略意思決定のプロセス」について、ご紹介したいと思います。

「戦略意思決定のプロセス」では、以下のプロセスに従って、事業計画立案・リスク評価と意思決定、実行管理を行っていきます。
「フレーミング」→「シナリオ戦略代替案の検討」→「モデルの設計」→「データの収集」→「分析・評価、実現性・妥当性の検討」→「戦略案の選択(決定)」→「モニタリング」
 また、組織の「プロセス」について、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・M・クリステンセンが、著書「イノベーションのジレンマ」の中で以下のように言及しています(注1)。「組織の能力は、その中で働く人材の能力とは無関係であり、『プロセス』と『価値基準』という2つの要素によって決定する。『プロセス』とは、組織の人員が習得した労働力、エネルギー、原材料、情報、資金、技術といった『インプット』を価値向上という『アウトプット』に変える方法である。」
 弊社ソフトウェアの基本理論として採用されている経営理論は、「仮説指向計画法」と「戦略意思決定手法」の2つですが、「仮説指向計画法」は、このプロセスの中の「モデルの設計」、「データの収集」、「分析・評価、実現性・妥当性の検討」、「モニタリング」に活用されております。「戦略意思決定手法」は、「フレーミング」、「シナリオ戦略代替案の検討」、「分析・評価、実現性・妥当性の検討」、「戦略案の選択(決定)」で活用されております。前回は、「仮説指向計画法」について具体例を踏まえてご説明いたしましたので、今回は、「戦略意思決定手法」について具体例を以てご説明したいと思います。

 「戦略意思決定手法」は、1960年代に米国スタンフォード大学のロン・ハワードによって考案された、デシジョンアナリシスを基本理論とする意思決定手法です。「戦略意思決定手法」では、意思決定の品質を高める6つの要素を提示しています。6つの要素とは、「明確な代替案の検討」、「信頼性の高い評価方法」、「情報の質」、「効率の良いプロセス」、「リーダーシップとファシリテーション」、「明確な価値判断基準」です(注2)。
 読者の皆様の業務で、自身が計画し、周りの社員と協力して、上司に承認を得るという流れは多くあると思います。その業務フローの1例を挙げてご説明します。また、この業務フローは、事業投資計画立案と意思決定の業務フローと一致する部分もあるので、事業投資計画立案と意思決定の場合の役割や用語も合わせて記載させて頂きます。
 弊社は8月に事務所の移転を行う予定ですが、「戦略意思決定手法」を事務所移転業務に適用してご説明します。まず、事務所移転業務がどういった業務であるかを簡単にご説明します。事務所移転は、弊社の社員も増え今後も社員を増やしていく方針で、現在のオフィスが手狭になってきたために、業務として発生致しました。まず、移転先の検討・引越業者の検討を社長(意思決定者)と共に進めていきます。その中で、移転日や退去日(制約条件)を決定し、移転計画を担当者(計画立案者、経営企画)が作っていきます。その計画立案の際、他の社員(他の事業部、部署)とも協力し、必要な情報を集めて、移転計画を固めていきます。作成した移転計画を社長(意思決定者)に説明し、承認を受け、実行に移します。意思決定は、先ほど挙げた6つの要素の1つでも欠けてしまうと、意思決定の品質が下がると言われております。実際の業務の意思決定の場では、全てを完璧にするには手間が掛かりすぎるということで、6つの要素の弱い部分から強化するということを行われている場合が多いです。先ほど挙げた意思決定の品質を高める6つの要素について、「一つでも欠けてしまうと品質が下がる」ことを避けるため、以下のように整理して、現在、事務所移転業務を進めています。
 「明確な代替案の検討」:移転先・引越業者の検討
 「信頼性の高い評価方法」:費用・サービスの比較検討(相見積)
 「情報の質」:複数社・インターネット・同僚からの情報収集
 「効率の良いプロセス」:各社・同僚から得た知見・情報の活用
 「リーダーシップとファシリテーション」:責任者と担当範囲の決定、
  会議・意見交換での情報共有
 「明確な価値判断基準」:セキュリティの確保・社員の業務利便性向上・
  費用削減

 続いて、「戦略意思決定のプロセス」の「戦略意思決定手法」の活用範囲について、事務所移転業務に当てはめて考えていきたいと思います。「戦略意思決定のプロセス」の各プロセスで行うことは以下の内容です。
「フレーミング」:目的設定、ステークホルダー設定、評価指標と制約条件設定
→「シナリオ戦略代替案の検討」:不確実性シナリオの想定、戦略代替案の考案
→「分析・評価、実現性・妥当性の検討」:経済価値シミュレーション、仮説データの優先順位分析
→「戦略案の選択(決定)」:戦略案の絞込みと評価、意思決定
現在進めている事務所移転業務では、それぞれ以下のように考えました。
「フレーミング」:事務所移転の目的・関係者・前提条件(制約条件)の設定
→「シナリオ戦略代替案の検討」:移転先・引越業者の検討
→「分析・評価、実現性・妥当性の検討」:費用・サービスの比較検討(相見積)
→「戦略案の選択(決定)」:移転先・引越業者の決定

 「戦略意思決定手法」を事務所移転業務に適用して気付いた点と致しまして、意思決定の品質を高める6つの要素のそれぞれが重要と改めて感じました。具体的には、「明確な代替案の検討」では、引越業者の方でオフィスのレイアウトを作成してもらい、内覧や打合せを進めていくと、その1社の意見や見積もりで意思決定してしまいがちになりましたが、6つの要素の1点として、強く認識することでより早い段階で複数の業者に相見積を取る対応をしました。また、「信頼性の高い評価方法」でも、費用・サービスの比較検討(相見積)という手段を取ることが大切と認識することで、相見積をするために、率先して行動することへと繋がりました。「情報の質」では、複数社の引越業者や他の社員の意見や希望を聞くことで、より良い事務所移転計画になっていると思います。「効率の良いプロセス」では、複数社と事務所移転の打合せをするのは大変ですが、最初の業者から得た知見を活用し、前回の事務所移転業務の経験者の同僚から注意点を確認して、良い手順で業務を進めています。「リーダーシップとファシリテーション」では、自身が担当者として積極的に情報収集や確認を行っていくことで、業務が円滑に、また品質を高めて進めることができます。「明確な価値判断基準」では、非常に重要で、特に「セキュリティの確保」では、サーバールームの場所の優先順位を上げて、レイアウトを考えています。最後に「戦略意思決定のプロセス」の「戦略意思決定手法」の活用範囲についてですが、このプロセスがあるお蔭で、業務の手順が明確になり、また業務の後戻りがなく進めていけます。

 「戦略意思決定手法」の一部にはプロセスとして定義されていない部分がありますが、「仮説指向計画法」と融合させることで、「戦略意思決定手法」をプロセス化しました(インテグラートの製品「RadMap/project」は、このプロセスを実装し、このプロセスに沿って事業計画立案と意思決定を支援しております。)。「戦略意思決定手法」には、まだ説明しきれていない多くの手法があります。次のURLにて、弊社社長の小川が纏めておりますので、そちらも是非ご参照ください(「戦略投資とファイナンス(全7回)」http://bizzine.jp/article/corner/17、第5~7回が「戦略意思決定手法」に関する記事)。インテグラートが提供している「戦略意思決定のプロセス」が皆様の業務に貢献するものとなれば幸いです。

(春原 易典)

(注1)The Innovator’s Solution: Creating and Sustaining Successful Growth, Clayton M. Christensen, Michael E. Raynor, Harvard Business School Press, 2003
玉田俊平太 監修、櫻井祐子 訳『イノベーションへの解 利益ある成長に向けて』
(翔泳社、2003)

(注2)「戦略意思決定手法①不確実な状況で有効なフレーミング」、Biz/Zine
http://bizzine.jp/article/detail/135