1.国内設備投資の現状

世の中ではAI, IoTなどソフトウエアやコミュニケーションのイノベーションが盛んに議論されていますが、一方で物理的なハードウエア資本としての典型的な生産設備、店舗、建物など各事業拠点などの継続的な更新、再生は無視できない重要な問題です。
日本政策投資銀行が毎年発表している「設備投資計画調査の概要」によれば、2017年度の大手企業(資本金10億円以上、調査対象3,127社、回答2,033社)で国内設備投資額は全産業で11.2%増と6年連続増加。製造業では生産設備の集約化・更新による生産効率の向上、非製造業では運輸、不動産、サービスでのインバウンド対応、卸、小売りで人手不足への対応が、それぞれ増加となっています。業種別では電気機械以外の製造業全てで増加、非製造業では建設業以外で増加となっています。とりわけ投資を行う理由(投資動機)の項目では、製造業で「能力増強」のウエイトが1986年以降最低となり、「新製品・製品高度化」のウエイトも減少。一方「維持・補修」のウエイトが主力工場の施設更新、生産効率化・基盤強化など含み過去最高ウエイトとなり、投資水準では2005年以降で最高水準だったとされています。非製造業では、鉄道高速化安全対策、倉庫貨物運送の物流港湾施設拡充等運輸分野、不動産で都市部の防災整備など大型開発、コンビニ省力化投資、小売り人手省力化投資、通信分野での5G 機能基盤強化への投資などが上がっています。これらの傾向、特徴を一言でまとめると、既存設備の強化・維持、更新に投資のフォーカスが当たってきていると言えます。

2.企業としての課題:収益を減らさないための事業資産の「質」の構造的転換

企業の持続的成長を達成するためには、既存事業を確実に維持しつつ新たな分野に打って出るということが必要不可欠となりますが、まず「既存事業を確実に維持する」こと自体、簡単なようで難しい問題です。なぜなら、事業環境は刻々と、目まぐるしく変化している状況で、一定の収益を維持するには、既存事業自体の事業構造を環境に合わせて変化させながら販売や利益を継続的に生み出す必要があるからです。90年代バブル期に量の拡大による成長をめざして投資された様々な事業資産は、償却期間を越えいくつかの設備更新を経て残存していますが、それらの固定資産は技術革新や市場の環境変化に対応するにはギャップが大きすぎて使い物になりません。何らかの対策を講じる必要があります。
マーケット自体が、持続的に成長していればまだしも、安定成長が期待できる市場はそうざらにはありません。特に国内市場では少子高齢化の人口動態、環境規制などの高まりにより、従来の飲料や炭素系燃料など一般消費財は確実に減少。
結果、生産設備や事業流通拠点など維持管理費用はかさむ一方で、需要減・固定費増と戦わねばならないという状況に陥ります。
まさしく、これらのジレンマを解くための質的転換が「既存事業を確実に維持する」ためには必要となります。

「継続する資本の維持更新」という問題に対して、国レベルでの社会資本整備に目を向けてみると、大きく2つの切り口での評価を行っています。
それは、社会資本整備のための公共投資によるフロー効果とストック効果という観点です。
公共事業の発注による事業者の収益増効果、雇用創出がフロー効果。一方、生み出された公共資本による経済性・生産性向上や国民生活における安全衛生面、防災、QOLの改善などがストック効果。ちなみに、2015年に政府とシンクタンクが行った、公共事業投資と減税の政策効果を対GDPへの乗数化した例によると、公共事業投資は、1.14、減税は0.30となっており、短期的には公共投資によるの増分を上回るGDPの増分効果があるとみられています。
具体的な地域レベルでの取り組みには、人口密度分布という観点から、今後地方創生など地方都市の自律分散化により「コンパクトシティ化」と呼ばれる政策により地方の拠点にフロー・ストック両面での効果を可視化して進めている事例が出ています。
例えば、神奈川県秦野市では「公共施設の更新問題」に対応するために、「公共施設の再配置」の取組を進めており、「施設面積の妥当性」という仮説を検証した結果、人口推移と公共施設面積の関係を調べ、主な納税者である生産年齢人口が、平成46年には11.6万人から9.6万人へと2万人減少(▲17%)。生産年齢人口が同じ9.6万人レベルであった昭和60年当時の施設面積が、現在の2/3(約23.4万㎡)であったことを確認しました。その結果、2011年から2020年の10年間において学校(0.5%増)、公民館その他施設(3.2%減)トータル0.6%減の中長期的な施設面積の縮小を目指すという計画を策定しています。秦野市はこのように施設面積を減らし不要になる管理運営費によって必要な施設の更新費用を賄おうとしています。こうして2050年までに施設面積を約31%減することを数値目標として掲げました。
民間企業ではSelfFundingとよばれる手法としてよく知られる自己改善による原資を再投資に流動化させてゆくやり方です。
このように、既存の資産であっても、将来にわたっての本来の存在価値とそれに見合う規模や内容を新たな発想で再構築してゆくという考え方は、もともと日本企業が得意としているゼロベース思考ではないでしょうか?

「ランドスケープLandScape」という言葉がありますが、重要なことは今保有している資産の全体景観図はどのようになっていて、将来的にはどんな景観にしたいのか、をトップも社員も全員で共有する、という事が重要です。

このような将来図を描くことはなにも、新規事業に限ったことではなく、既存事業に関しても今のような事業環境であればこそ重要です。全社戦略としての事業ポートフォリオという観点からすれば、既存の資産をどう更新しどんな方向へ着地させようとしているのか、新規事業が離陸するまでには、当面時間が必要。その間、既存事業がキャッシュを生み続けなければいけない。そのためにはどんな既存資産の移行をどこまでどのレベルで進めればいいか?具体的な目標設定が重要です。
目標と方向性が確認できたら、次には保有資産を拡大する、廃止する、売却するなどに選別し、新規にポートフォリオ組み入れるというものも含めた全体ポートフォリオを作りましょう。属性が決まれば、個々の資産の更新、新規、案件の属性によっておのずと投資判断基準が定まるはずです。

3.まとめ

事業ライフサイクル成熟期以降の設備更新戦略として、各個別の設備に関して、如何に終末期を迎えるか、如何に移行、世代継承を果たすか、そして新たな事業のタネを如何に離陸させるかといった全体像を見据える中でしっかり位置づける必要が有ります。
「既存事業の維持」とは、生存を確かにすること。戦略に関する立体的な多元的アプローチが不可欠であり、常に見直し、ズレを修正するための批判的議論が「生存率」を高めることになります。

(名田 秀彦)