社会人の基本とは何かと聞かれたら一番に思い浮かぶものは何でしょうか。時間の管理や、敬語、服装など様々あるかと思いますが、筆者は「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」という組織の情報共有に関する言葉が思い浮かびます。
 「ほうれんそう」は旧・山種証券社長の山崎富治氏が1982年に始めた同社社内運動(※1)から始まっており、30年以上の歴史がある言葉です。最近では、分からないことをすぐに相談すると「指示待ち人間」になりかねないということで、「ほうれんそう」から相談を除いて確認を加えた「かくれんぼう(確認・連絡・報告)」の方が望ましい(※2)という意見もあるようですが、新しい言葉が生まれるということは、それだけ組織の情報共有が重要であるという考えが根付いているということだと思います。

 しかし、HR総研が2016年に実施した「社内コミュニケーションに関する調査」結果報告によると、情報共有が「十分にできている」と回答した企業の割合は4%となっており(※3)、組織の情報共有は重要であると分かっていても、十分共有できていると感じている企業は少ないようです。情報を十分に共有できないと感じる原因は組織によって異なると思いますが、本コラムでは、筆者が原因だと感じる「情報の増加」「社員数の増加」「日本人の特徴」の3点について考察します。

 1つ目の「情報の増加」は、インターネットが発達し、買い手が同時により多くの選択肢を比較できるようになり、売り手はそれまで競っていなかった相手とも競うようになったことで生じていると考えています。以前は意識していなかった競争相手や市場についても情報を取得する必要があり、十分に情報を集めることに加え、集めた後、十分に共有することも難しくなっているのではないでしょうか。
 2つ目の「社員数の増加」について、本コラム冒頭で紹介した山崎氏は「社員の数が一千人を越す規模になっていて、社員の声が、社長である私の耳にスムーズにはいってこなくなっていた。」「組織がちょっと大きくなったとたん、どうも社内のタテ・ヨコのつながりというか、情報の流れというか、そうしたことが、ぎくしゃくしはじめたきらいがある。」と述べています。(※1)1人の人間が直接接することのできる人数には限りがあるため、社員数が増えればそれだけ情報は間接的になり、正しい情報を即座に取得することは難しくなるのでしょう。なお、社員数が増えている会社に着目すると、M&Aによる業界再編が進んだ影響もあり、2011年から2016年までの5年間で1,000人以上正社員を増やした上場企業は375社もあるそうです。(※4)
 最後に「日本人の特徴」とは、伝えたいことを明確に言わないという特徴です。これは、明確に言わなくてもある程度相手が察してくれるということでもあります。(※5)アメリカの文化人類学者エドワード・ホール氏は、日本のように言語や民族の同質性が高く、明確に言わなくても共通の常識により言葉を補完することで情報が伝わる文化をハイコンテクスト文化と定義しています。ハイコンテクスト文化では共通の常識をもっていることがコミュニケーションの前提にあるため、「情報の増加」や「社員数の増加」のように変化が生じると、人によって常識にばらつきが出てしまい、コミュニケーションの前提が崩れ、情報共有が難しくなるのではないか、と筆者は考えています。

 それでは、共有すべき情報が増加し、社員数が増えたことで情報が間接的になっている状況で、明確に言わない日本人が、十分に情報共有するためにはどうしたらいいのでしょうか。
 情報の増加に対しては、情報共有の手段として会話の割合を下げ、文字の割合を高めることが有効だと考えます。人間は話すスピードよりも読むスピードの方が速いことが理由です。
 社員数の増加に対しては、社内の情報伝達のルートを確認し、意思決定者に情報が届くまでに多くの人を介さなければならない場合は、情報を意思決定者に直接伝える仕組みを作ることが考えられます。例えば、社長直轄の若手や中堅社員による情報収集チームを発足すれば、社員数が増加しても、できるだけ直接的な情報が社長に届くようになるでしょう。
 日本人の特徴に対しては、情報共有する際に伝えなければならない項目を整理することが効果的だと考えます。明確に言わない特徴というものは、伝えるべきなのに伝えていない項目があるということですから、伝える項目をあらかじめ定めておけば伝え漏れを減らせるはずです。

(高木 一道)

(参考)
※1 山崎富治(1986)『ほうれんそうが会社を強くする』ごま書房
※2 『これからは「報・連・相」より「確・連・報」が効く』2017年6月15日、東洋経済ONLINE
https://toyokeizai.net/articles/-/176175
※3 「社内コミュニケーションに関する調査」結果報告
https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=153
※4 『「5年で正社員を増やした」500社ランキング』2017年5月25日、東京経済ONLINE
https://toyokeizai.net/articles/-/173084
※5 例えば、人に電話をかけて別の人が出た場合、「○○さんに電話を取りついてください。」とは言わず、「○○さんはいらっしゃいますか。」と言えば、電話の受け手は○○さんと話がしたいということを察して、電話を取り次いでくれることをイメージしてください。