2021年がスタートしました。改めて言うまでもなく、2020年は過去に例を見ない年となりました。『想定外』という言葉が流行して久しいですが、去年の今頃は、まさかこんな一年になるとは世界中誰しも予想できなかったことでしょう。
このような事態から「将来のことを予測しても当たらないなら無意味だ、結局は起こったことに都度対処していく他ない」と考える人もいるかもしれません。
それでも、インテグラートは歯を食いしばって「予測することは重要だ」と言い続けたいと思います。今回のコラムでは、このことを「予測することの意味は何か」と「予測が示された後でどうすべきか」の2つの観点で、それぞれ高速道路の渋滞予測とカーリングを題材にご説明いたします。

<結果が出てからでは遅い>
まずは、事業計画を立てた以降の管理の局面を想定し、問題点について触れます。
一般的に言われる「予実管理」とは、事業について計画時点で立てた予測見込みに対して、行動した結果の実績が出た段階で、予測と実績を比較して、対応を検討して次の実行につなげていくサイクルを指します。
しかし、これではまず結果が出てからでないと対応が取れないため、そもそも最初に悪い結果が出るかもしれないリスクは防げません。そして、結果を踏まえて次の対応を決定したとしても、それが上手くいくかどうかは「やってみないとわからない」となり、結局この繰り返しとなります。
科学実験のように結果を左右する要因が常に同じであれば、このアプローチでいずれ成功にたどり着くでしょう。しかし事業環境が変化していく状態では、必ずしも一つの結果の成功/失敗の原因と対策が、今後の結果の成功を100%保証するものではありません。場合によっては、一時点の成功の要因とされていたものが、事業環境が大きく変化したために、将来にはかえって悪影響をもたらす要因ともなり得ます。つまり、常に結果が出てからの後手後手の対応を強いられるため、持続的な成功にはつながりにくいのです。

<予測することの意味:高速道路の渋滞予測のようなもの>
ただ、冒頭に言ったように現実的には将来のことを正しく予測するのは極めて困難です。その中で、予測を立てる意義は、いわばお盆や年末年始の高速道路の渋滞予測のようなものだと考えています。
TVやラジオなどから流れてくる「○○自動車道上り線のピークは明日△時頃、◇◇トンネル付近を先頭に最大■■kmの渋滞が見込まれます」といった情報ですが、皆さんはこの情報をどのように活用していますでしょうか。帰省や行楽地への移動などで高速道路の利用を予定している場合に、単なる渋滞の見込みを知る、というよりも、「渋滞に長く巻き込まれないように、ピークの時間を避けて早めに/遅めに出発しよう」や「渋滞にハマった場合に備えて、事前にトイレを済ませたり水分補給の手段を確保したりしておこう」といったことを検討するきっかけになっていることが想定されます。
このように、将来見込まれる事態を踏まえて「予防:悪い事態を避けるために何ができるか」と「対策:悪い事態が起こる(避けることが難しい)場合に、どう影響を和らげることができるか」を考えて行動に移すことが、将来予測を行う意義と言えるでしょう。
実際にこの渋滞予測が正確に当たっていたのかどうか、について、わざわざ後日検証している人は(例えば道路交通センターの担当者といった予測を作成する当事者を除けば)おそらく少ないのではないでしょうか。

<予測が示された後でどうすべきか:カーリングのようなもの>
このように、将来予測を活用する際には、単に結果が「こうなるだろう」と客観的な見込みを確認するだけでなく、見込まれる良い結果を実現・悪い結果を回避軽減するために「こうする」という主体的な行動に焦点を当てることが重要となります。更に、行動に焦点を当てることで、「行動は決めた後も変更することができる」というメリットを生かすことができます。計画を作成し行動内容を決めた後も、状況の変化に対応して行動を修正することで、より良い結果をもたらすことにつながります。
この点、冬季スポーツの一つで「氷上のチェス」とも呼ばれるカーリングに似ていると感じています。オリンピックのTV放映などでご覧になったことがある方も多いと思いますが、カーリングは球状の物体を扱うスポーツでおそらく唯一、投球後に物体(カーリングの場合はストーン)の進む距離や軌道について人為的に変化を加える(カーリングの場合は氷上をブラシでこするスウィーピング)ことができるスポーツです。
カーリングは、ストーンが滑っていく氷の表面の状況によってストーンの進む距離や曲がり幅などが大きく影響を受けますが、氷の状況は刻々と変化していきます(極端な話、一投ずつ投げるたびに変化していくこともあります)。もちろん、チームは氷の状況を推測した上で力や方向をコントロールして投球しますが、必ずしも投球前の見込み通りの氷の状況となっているとは限りませんし、また投げ手のコントロールが(技術不足や疲労などにより)思った通りに上手くいかないこともあり得ます。
そこで、実際には投球してからストーンが滑っていくスピードなどを観察しながら、ストーンの進む距離や軌道に変化を加えるスウィーピングを適宜行うことで、当初狙っていたところにストーンを持っていくことができる可能性を高めています。
この際、極めて大事なのがコミュニケーションです。投球後にも絶えず、ストーンの状況(このままだとストーンがどこまで滑りそうか)を目視で確認してチーム間で声を掛け身振り手振りでコミュニケーションしながら、スウィーピングをするかどうかの判断をしています。技術水準が拮抗したトップレベルでのカーリングの試合では、状況変化への対応力が勝敗に直結します。
このような、計画を決めて行動を起こしている中でも、結果の成否につながる情報共有を通じて行動を見直していくことが成功の鍵となる、ということは事業計画の管理にも当てはまるのではないでしょうか。

<まとめ>
予測は、結果が出てからの予実管理の材料にとどめるのではなく、以下の観点で役立てることが肝要です。
・お盆や年始年末の渋滞予測のように:より良い結果につながる行動を立てるために予測を活用しよう。
・カーリングのように:状況変化を把握しコミュニケーションを通じて行動を見直し、目標達成にベストを尽くそう。

来年の今頃は「一年前に予測したこととはいろいろ違ったけど、変化に対応した行動が取れて目標達成につながった」とお客様に感じていただけるよう、今年一年、弊社も引き続き精進してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

(楠井 悠平)