「グループ経営入門」は、各企業の経営者・経営企画管理部門の方々に広く読まれている名著です。著者は、松田千恵子先生で、東京都立大学教授を務める傍ら、経済産業省の委員会委員や大手企業の社外役員等を務められ、理論と実務の両面に深い知見を持つ方です。現在第4版が出版されており、ある企業では、我々のバイブルです、というほどに重用しています。大変読みやすく、実務的な示唆に富み、グループ経営にとどまらず、企業経営に大いに役立つ内容です。

今回のコラムでは、「グループ経営入門」の内容と結び付けて、インテグラートがシステム設計やコンサルティングの基礎理論として採用しているDDP(Discovery-Driven Planning:仮説指向計画法)の要点について解説します。

DDPは、事業の仮説を明確にし、仮説の修正を継続することによって、高い目標を達成する経営管理手法です。どうなったらこの事業は成功するのか、どうなったら失敗を防げるのか、明確にしていくことが、仮説を考えるということです。仮説は外れることが多いので、仮説の管理によって早期に仮説の外れに対応して、より高い目標達成を目指します。

本コラムでは、「グループ経営入門」からDDPに関連の深いポイントを7つ選んでご紹介いたします。ご参考までに、見出しの末尾の()内の数字は、本書での該当ページです。

1.理念も数字も「ゴール」を決めて共有する(P12、P14)
松田先生は、企業経営において目標を定めることに異論はないですね、と前置きしながらも、ゴールを定める重要性をあらためて丁寧に解説しています。企業の成功を定義すること、企業理念と経営陣が果たす役割について、わかりやすく整理されています。
DDPにおいては、明確なゴールは、重要というよりも、無ければ成り立たない不可欠なものです。DDPでは、仮説は、ゴールの達成に必要な前提条件、と定義されています。つまり、ゴールが不明確な状況では、仮説は仮説のように見えて、単なる心配事に過ぎないのです。

2.まずは「投資家」に徹し、事業を見極める力を磨く(P12、P50)
本書では、本社が投資家の立場を取ることによって、本社に必要な機能が明確になる、と解説されています。投資家の立場を取ることは、資本に対するリターンを高める目的に対しては、当然のことです。各企業の現状について、事業部制の制度疲労や、財務の視点の弱さが問題点として鋭く指摘されており、考えさせられます。
DDPの論文では、投資家の視点が強調されているわけではありません。しかし、実態としては、研究開発・新規事業や設備投資・M&Aなどの、事業投資の意思決定と管理に活用される場面が多くなっています。これは、経営陣や経営企画管理部門の方々が投資家の立場に必要な機能を実践する手法として、DDPが選ばれているということだと思います。

3.事業の将来予測をきちんと行う(P84、P98)
松田先生は当たり前のように思えて、実は各企業で十分にできていないことを、本書の様々なところでズバリと指摘しておられます。このパートでも、各企業で将来予測が意外に軽視されていることを指摘し、また、真剣に将来を見つめる必要があります、と語りかけています。更に、環境が変わったら修正する、ということも示しています。
DDPは、将来予測の手法として考案されています。そのポイントは、ゴールとしての将来予測、例えば、事業価値や数年後の利益を因数分解して仮説を洗い出して、議論しやすくすることです。事業価値や利益について、事業部門から目標を上回る数値が示されていると、それでよい、となりかねません。それでよしとせずに、仮説をしっかりと議論することによって将来予測の妥当性を高めることができます。更に、仮説を明確にして関係者間で共有しておくことによって、社内外の環境の変化に早く気づき、早期の修正が可能になります。

4.非連続的な変化を提示する(P128)
これは、企業価値向上のために、最も重要なポイントです。松田先生は、事業部門は連続的な改善が得意、と指摘しています。それに対して、本社から、非連続的なジャンプはどうしたらできるか、事業部門に議論を仕掛けなさい、と解説しています。事業部門が強い企業では、本社と事業部門の議論が停滞しがちな現状を踏まえた提言です。
DDPは、リアルオプションの実践手法として経営学者に研究されています。松田先生が解説しておられる非連続的なジャンプとは、新たな戦略を選択する、ということであり、リアルオプションそのものです。事業部門がオプションを示さないことは実際多くありますので、非連続的なジャンプを促すためには、オプションの検討を必須とするように業務プロセスを設計することが効果的です。事業部門は、意思決定された戦略を遂行する立場にあるので、強く働きかけをしないと、新たなオプションが出てきにくい構造にあります。事業部門に対して、更なるジャンプを促す組織的な役割が、企業価値の更なる向上のために必要です。この役割を本社が果たすことが、本社が投資家機能を果たす、ということになります。

5.計画を作りっぱなしにしない(P133)
ここで松田先生が解説している考え方は、計画をファイナンシャルプロジェクションに落とし込み、シミュレーションを行い、リスクシナリオを検証しましょう、ということです。
計画を作りっぱなしにしない、ということは、DDPでは以降の7.に関連することなのですが、松田先生は、財務数値に基づく意思決定への活用、投資家への説明などで、もっとファイナンシャルプロジェクション使い倒して効果を引き出しましょう、と解説しています。

6.大所を押さえることが重要(P135)
松田先生は、ファイナンシャルプロジェクションに際して「過度に会計(アカウンティング)にこだわるな、そんなところに時間をかけるのはやめましょう」と解説しています。また、売上の将来予測に際しては、受験生のように唯一の解を求めるのではなく、確からしい仮説を打ち立てることが重要です、と示しています。
DDPでは、予測数値よりも仮説に注目し、「我々は何に賭けているのか」というように最も重要な仮説を見極めることが基本です。松田先生の解説と一致しており、実務的な納得感が特に高いところです。大所を押さえることが重要、ということは、リスクマネジメントの分野でも常に強調されることです。予測に関する業務は、きりがありません。良かれと思って時間をかけすぎて生産性が低下しないように、大所を押さえることを強く意識する必要があります。

7.マネジメントサイクルの確立(P199)
ここでは、仮説設定―検証―評価―仮説の修正というプロセスが解説されています。
このプロセスは、DDPそのものです。特に重要なことは、仮説を継続的に見直すことです。仮説を見直す業務プロセスが定着すると、仮説に基づく予測への信頼が高まります。過去の延長に基づく予測は信頼されやすく、仮説に基づく予測は、なかなか信頼されないものです。予測の信頼性を高めるためには、仮説を見直すプロセスの継続運用が、大きな効果を発揮します。このような組織的な業務運営には、業務基盤としてのソフトウエアシステムの活用をおすすめします。

「グループ経営入門」の内容に結び付けて、DDP(仮説指向計画法)の要点を解説してきましたが、ご参考になりましたでしょうか?
「グループ経営入門」は、松田先生に正論を示され、現実も直視したうえで叱咤激励される、企業経営者や経営企画管理部門に寄り添う内容です。企業の成長を追求しようと考える皆様にお勧めいたします。

さて、ここからはご案内です。
先日、松田先生が幹事を務められているグループ経営研究会で、「事業投資管理手法の活用によるグループ事業ポートフォリオの価値最大化」という講演をしました。
一般社団法人 経営研究所 グループ経営研究会
https://www.keieik.or.jp/pages/70/

このときの講演資料の解説とディスカッションを、ご希望の企業に個別にご提供しており、大変好評いただいています。このコラム経由でのご連絡には、無料で対応させていただきます。

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講演資料「事業投資管理手法の活用によるグループ事業ポートフォリオの価値最大化」をご覧いただくだけでも、もちろん結構ですし、解説とディスカッションは、きっと皆様のお役に立つと思いますので、まずは遠慮なくご連絡ください。

皆様の企業のご発展の一助となりますことを願っております。

(小川 康)