「事業投資管理をどうしたらいいのか…」「大きな失敗を避けるには…」
弊社では、多くの企業様のそういった事業投資に関する切実な悩みに向き合い、企業価値最大化に与する事業投資マネジメントのあり方をお客様と共に考え続けてまいりました。
本コラムでは、日本企業の事業投資管理の現状と課題を、3つの業務分野と関連付けながら解説し、解決策を提示します。

第一章 事業投資と問題ある3つの業務分野
■事業投資とは何か?
• キャピタルゲイン・インカムゲイン
• 事業成長に向けた新規事業の創出と既存事業とのシナジー効果等を目的として行われる資本取引です。

外部の資本市場からみた事業投資に関わる代表プレーヤーは6つ
1.投資銀行・証券会社 :アドバイザリー、主幹事として関係
2.総合商社 :事業投資の立場から関係
3.ベンチャーキャピタル:スタートアップなど未上場の成長企業に対する事業投資の立場から関係
4.PEファンド:成長力のある未上場会社に対する事業投資の立場から関係
5.個人富裕層:エンジェル投資家など
6.事業会社 :本業成長のための設備投資、M&A、研究開発、新規事業を行う

これらのなかで、6.事業会社 の企業内部での資本市場の視点でプレーヤーは、「・経営陣・職能・事業部門」の3者になります。
しかしこの3者が自社の企業価値最大化に向けた「資本コストを勘案した事業ポートフォリオマネジメント」を試みようとしても、実務上は決して容易ではありません。
・事業部別のBSが把握できていないため、事業別資本コストが算定できない
・事業部門別の類似企業ベンチマークが不十分であるなど、事業別ROICを志向するデータインフラが整っていない、といった壁にぶつかる事が多いこと、
・仮に事業部別BSやROICの設定が計算上出来たとしても、事業部門責任者の納得を得ることが難しい
といった実施上の内部課題が多いのが実情であろうと思われます。
(2020.3.4 第3回 事業再編研究会意見書 松田千恵子氏より)

■日本企業が問題を抱える3つの業務分野の認識
日本CFO協会と松田千恵子氏合同のサーベイによる「日本企業が問題を抱える業務分野」の中で挙げられている課題上位3つは、「1.投資モニタリング、2.経営情報システム、3.人材育成」となっています。
将来への事業投資マネジメントのコンピテンシー(組織能力知識)の欠如がコンフィデンス(自信)の欠如に繋がっていると感じます。

■3つの問題分野と繋がる、よくある4つの社内業務課題
この「投資モニタリング、経営情報システム、人材育成」という3つの問題分野は、弊社が長年各企業様の当該社内業務のシステム化をご支援する事を通じ、認識している主要な問題と深く繋がっていると思います。
1.起案された投資の収支計画の根拠が曖昧で共有されない
2.投資意思決定後の継続モニタリングプロセスが無い
3.組織的に学習しないため同じ失敗を繰り返す
4.投資収益の全体目標が管理できない

事業投資管理業務は、企業の業務プロセスの中でも依然未成熟な分野であり、個人スキルに依存している部分が多く、組織としての運営水準の改善の道筋や成果との関連等、まだまだ改善されるべき課題の多い領域であると言えます。
各社における実態がよく分からない。他社はどう取り組んでいるのか、先進的企業ではどうしているのか、どうすれば成果が得られるのか、どうすれば大きな失敗を回避できるのか…、筆者が企業様へご支援をする中でも、こういったお声がよく聞かれます。

第二章 企業内の事業投資評価業務の実態

■企業内の事業投資評価における業務実態は、どうなっているのか
日本政策投資銀行DBJの設備投資計画調査レポートに「広義の投資」として、国内外有形固定資産、無形固定資産、研究開発、M&A、情報化、人材開発が取り上げられています。執筆者は前職で2000-2006年の6年間に亘り累計2600億の全社情報化投資管理、重点プロジェクト実行推進にかかわった経験から、企業における重点投資管理におけるPMO(ProgramManagementOffice)機能の必要性を感じました。
当時のPMOは社長直下で全社的な投資推進事務局のような位置づけで、投資予算の執行管理を行うわけですが、起案プロセス審議、執行フォロー効果把握等を行なっていました。

PMOの主な機能は以下の通りです。
1.社長、CIOのもとで投資変革テーマの抽出・ポートフォリオ分析による優先順位付け・プロジェクト計画
2.複数プロジェクトの統合管理
3.プロジェクトの中断・縮小・創造・拡大の意思決定
4.経営陣向けIT投資戦略教育

これら分野はトップダウンでの「情報化」という分野でしたが、「広義の投資」として事業投資に関するコンピテンシーを組織的に教育開発し、運営する仕組みを作り実行するための枠組みとして共通性があるのではないかと思います。
しっかりと事業の成長投資から成果を生み出してゆくには、このように投資案件群を可視化し課題抽出対策をマネジメントレベルで行う構造が必要になっていると感じる次第です。

また、最近よくお聞きするようになったのは、「委員会形式」の運営形態です。より具体的には「投融資運営委員会」の様な呼称で実施されている実例をよくお聞きするようになりました。
「投融資運営委員会」方式の良いところは、事業部門に不足しがちな、コーポレートレベルの投資や事業に関する専門的知見、法務、税務、会計上の知識経験を持つ社内の専門家代表者が、投資審議の案件を経営会議審議の事前段階で、案件へのアドバイスや起案上のチェックを行い、本番に臨むことができる、という点です。
一方、事業性の評価、収益根拠の妥当性確認という点に関しては深く突っ込んだ議論ができないのが難点です。常務クラスの担当役員が、座長で運営されているケースではそれなりに押えが利くと思いますが、やはり事業投資案件の評価に関する実質審議的な意味合いであれば、かなり運営が難しいのではないでしょうか?

第三章  問題ある3つ業務分野の解決策

■「投資モニタリング」問題の解決策 -事業リスクの定量分析・評価
投資起案上の重要な事業仮説を洗い出す一つの方法論としては、感度分析、シナリオ分析、リスク分析等の経済性分析手法を用いて客観的な、事業リスクを定量評価する方法を導入することです。事業リスクが定量評価できると、その事業の素人であっても、ビジネスモデルとしての重要変数を共通言語に質問、確認を行うことが可能になります。
また、質問に対して、起案側の事業企画部門も、新たな気付き、打つべきアクションが明確になり、事業計画の精度そのものが向上する結果に繋がり易くなる効果も期待できます。投資後のフォローモニタリングを継続する上でも、重要な事業仮説の変数に着目することで、組織レベルで事業の収益ドライバーを明確にし、計画遂行上の前提条件を浮き彫りにすることが可能です。
「投資モニタリングを行う事とは誰が具体的に何を行う事なのか」を明示し、シンプルな業務として実行することができれば、問題分野としての業務の解決になると考えます。

■「経営情報システム」問題の解決策 -予実管理と予測管理の2層システム
2つ目の問題分野である経営情報システムとしての要求事項整備の重要な点は、事業投資の管理にフォーカスすると、
まず社内で必要なデータインフラの構造(例えば、事業部門別投下資本効率の管理に必要な事業部別BSなど)を整備し、事業部門幹部の教育と影響理解、納得を得るようにすること。またそのための事業部長の業績評価制度の見直しが必要になることと思われます。
次に、経営情報システムを2層に分けて管理していくことをお薦めします。
1層目は従来の予算実績管理のためのシステム。2層目は年度予算の軌道修正を可能にするもう一つの予算計画(予測管理)システムです。予算計画立案時には、前提条件や計画標準値があるかと思いますが、この前提条件の変化に対する目標達成のための挽回再計画を行う機能です。
1層目の予実管理は一つの数値の計画予算に対し実績を追いかける仕組みですが、2層目の予測管理は計画予算自体を前提条件の変化に対応して複数のシナリオ、作戦実行に対応する複数の計画予算をシミュレーションし予測検討する仕組みです。
このような2層構造にすることで、状況変化に対して計画予算の再検討と再計画を可能にし、なおかつ実績把握と整合を取ることが出来るため、足元の数値と将来的な見通しを柔軟かつ迅速に生成することが出来ます。
このとき、大事なことはスピードです。月次管理を行うにしても予実管理の様な精緻な管理を2層目の予測管理には求めない事。「ざっくり」把握して「さっさと」軌道修正することが重要です。

■「人材育成」問題への解決策 -管理部門を中心とした事業投資評価プロフェッショナルの育成-
3つ目の人材育成に関しては、勿論、事業投資評価のプロフェッショナルを絶対数育成していく必要があるかと思います。ここで、重要な点は、立案企画を行う側ではなく、仕組みを考える評価者の立場にある管理部門の育成が肝要ということです。
そこで、仕組みとしてシステムを捉える際に業務プロセスの観点で把握し設計する方法を以下にご紹介します。このような会社の投資運営の業務設計を実際に手がけることで、自社の仕組みの全体像を把握し投資運営の勘所を握ることが出来るようになるはずです。

押えるべき業務改善のポイント
1.管理すべき対象と範囲の再設定
• 時価評価による投下資産と収益予測の比較5-10年以上のスパン
• 上記の前提となる事業仮説の内容と変遷
2.妥当性評価向上のための組織構造
• 業務として質問する役割、説明する役割を定め任用する
• 質問し説明することにより、想定や前提を明確に言語化させながら考えることを促す
• 組織的に上記役割を明確にし、事業現場から健全なガバナンス体制を運営する
3.投資PMOによる全体可視化と課題抽出
• 各対象案件の将来予測のポートフォリオ可視化
• 新しい方法論による各プロジェクト案件の課題解決支援

第四章 事業投資プロセス参照モデル:ICOR

サプライチェーンマネジメントの分野では、業界標準的なプロセス参照モデル(SCOR)があります。(SCOR:SupplyChainOperationsReferenceModel PLAN-SOURCE-MAKE-DELIVER)
そこに着目し、事業投資分野に関しても、横断的なプロセス参照モデルを作るとすれば、…と筆者が考えた、ICOR( Investment Chain Operations Reference Model )を一案として提示します。

■事業投資プロセス参照モデル案【ICOR Investment Chain Operations Reference Model】
PLAN(計画立案)
• 投資対象の事業計画の業績目標と達成の為の重要仮説を明確にしマネジメントと共有することを自社の経営管理サイクルとして組み込む
• 惰性にならない様に、新たな情報、発見を追求する早期警戒体制を敷く
• 仮説の情報とは何かを定義標準化し、方法論を社内で共有する
EVALUATE (リスク評価)
• 投資対象の業績予想の全体状況を継続的に可視化する
• 時価評価をモノサシとして継続して定期的に行う
CHOOSE(意思決定)
• 意思決定時の仮説の合意とシナリオの選択決定
•次のマイルストンへのアクション確認
MONITOR(実行管理)
• 時価評価による将来業績予想の可視化
• 課題抽出の判断基準エスカレーション
• 軌道修正の意思決定
投資案件別プロジェクト業務モデルの構成要素
• 各投資案件プロジェクトを管理する業務の構造を以下の視点で定義します

1.達成したいゴール
2.管理対象 
• 目標達成リスクと事業仮説、投資後の業績予測に関わるデータ
3.登場人物
• 動的 関わる人の関係性・ダイナミクス
• 静的 組織構造 
4.業務と情報システム
• 静的 
-業務機能構造
-情報とデータ構造
-業務機能・情報の対応関係性
• 動的
-プロセスマップ
-会議体の目的参加者、会議体間のネットワーク
5.組織インフラ
• 組織学習と行動心理を理解したルール、ガバナンス

以上のポイントを踏まえながら貴社での評価側コーポレート視点での投資管理業務の仕組みを定義設計する事で、具体的な業務規程を整備することをお薦めします。

自社ビジネスモデルをより良く機能させることを念頭に、キャッシュフローの調整弁としての投資管理業務をコントロール感のあるマネジメントに改善できることを目指しましょう。
※インテグラートでは本稿に関するアセスメント、ベンチマーク、業務設計、投資評価クラウドDeRISK導入コンサルティングを行なっております。