読者の皆様は普段から仕事の中でたくさんの文章を読み、理解をし、自分の中に落とし込んでいくといったことをされているかと思います。
また、逆に、皆さん自身が理解してほしい内容について文章を作り、それを他の人に読んでもらう、といったこともあるかと思います。

自分なりには、「わかりやすく」書いたつもりでも、「よくわからない」と突き返されて、何が悪いのだろうと悩んだ経験があるのではないでしょうか。

もちろん私もあります。伝わる文章を作る、ワードを選択する、というのはなかなかタフな仕事だなと日々感じております。
こういった経験をする中で、
・文章を読んだ時に「わかる」という感覚がどこから来ているのか。
・逆に「よくわからない」はどういう時に起こり得るのか。
といったことを考えていた際に、少しヒントになりそうな本を見つけました。

「なかなか面白いな」と思った例文を引用しながら紹介しようと思うので、リラックスして読んでみてください。

(1)「前後のつながり」が「わかる」状態に影響を与える例

【例1-1】
サリーがアイロンをかけたので、シャツはきれいだった

この文は一切考えなくても、関連する背景知識を一切持ち出さないでも了解可能ですが、実は無意識にアイロンがどういうものか、という知識を使っている

【例1-2】
サリーがアイロンをかけたので、シャツはしわくちゃだった

こちらは、考えるまでもなく了解可能とはいかないと思います。
この文の前の部分は後ろの部分の原因とはなり得ません。
この文が了解されるためには、サリーはアイロンがけが下手な人である、という仮定を持ち込む必要があります。

【例1-3】
小銭がなかったので、車を持っていかれた

やはり前の部分と後ろの部分との間に、直接の関連がないため、そのままでは了解できません。
この時、例えば「パーキングメーター」と言われ、前後の部分に関連が付くと、とたんに、「ああ、そうか」と了解することができます。

【例1-4】
布が破れたので、干し草の山が重要であった

やはりそのままで了解することは難しいのではないでしょうか?
了解するためには、布が破れることが、干し草の山が重要である原因でなければならない。
この時に、「パラシュート」と示唆されると、パラシュートが破れて、地面に激突してしまいそうな状況が見えてきます。

ここまでの例から、部分間の関連がつくか、つかないかが、「わかる」か「わからない」かの分かれ目になるのだということをご理解いただけるのではないでしょうか。
もし元の文章のまま理解できる人は、関連付けるにあたって、無意識のうちに文中には記述の無い「アイロンがけの効用」や「パーキングメーター」や「パラシュート」に関する知識を使っているのでしょう。

これらの事例から、著者は「わからない」「わかる」「よりわかる」に関して以下のようにまとめています

① 文章や文に置いて、部分間に関連がつかないと「わからない」という状態を生じる。
② 逆に部分間に関連がつく場合、「わかった」という状態を生じる。
③ 部分間の関連が、より緊密なものになると、「よりわかった」「よりよく読めた」という状態になる。
④ 部分間を関連付けるために、必ずしも文中に記述の無い事柄に関する知識を、また読み手が作りあげた想定・過程を、私たちは持ち出してきて使っている。

どうでしたでしょうか?
言われてみると当たり前のように思いますが、ことばとことばの「つながり」が大きな意味を持つ、というのは非常に重要なポイントだなと思います。

また、文章の全体の雰囲気(文脈)が影響する例も、引用して紹介します

(2)「文脈」が「わかる」状態に影響を与える例

男は鏡の前に立ち、髪をとかした。剃り残しはないかと丹念に顔をチェックし、地味なネクタイを締めた。朝食の席で新聞を丹念に読み、コーヒーを飲みながら妻と洗濯機を買うかどうかについて論議した。それから、何本か電話をかけた。家を出ながら、子どもたちは夏のキャンプにまた行きたがるだろうなと考えた。車が動かなかったので、降りてドアをバタンと閉め、腹立たしい気分でバス停にむかって歩いた。今や彼は遅れていた。

この文章は、このままでももちろん了解できますが、この男が「失業者」だと示唆されるとどうでしょうか?
もう一度読んでみてください。より良く理解できた、という印象を持つのではないでしょうか。

一方で、今度は、男を裕福な「株仲介人」として読んでみるとどうでしょうか?
同じ文章を読んでいるにもかかわらず、文章の印象がガラッと変わります。

ここで面白いのは、文脈を交換することで引き出される意味は、直接文章に書かれているわけでは無いということです。

物事を説明する際には、文脈(背景、前提)などをしっかり説明することが非常に重要だと再認識させられます。
伝わっている文脈が異なると、説明の内容も全く違って聞こえている可能性があります。

また同時に、今から説明するものが「上手くいっているものなのか?」「調子が悪いものなのか?」という印象的なものも、説明を読む(聞く)側からすると、意味を読み取る際に影響し得るような気もしてきます。

お客様のお悩みで、事業計画を説明しているが上手く伝わらない、というものがしばしばあります。
そういったときに、事業計画の説明を聞きかせていただくと、それぞれの要素はしっかりと考えられているのですが、それらの要素同士の関係性だったり、全体のどの部分なのか、全体の中で一番重要な要素は何なのか、時間軸でみたときにどのような順番なのか、といった要素同士の意味のつながりが不足している説明になっている場合が多いような気がします。

「しっかりと説明し、それに対して質問してもらう」というのは、新規事業や新しい市場の開拓といったこれまで知見がないような領域に踏み出す際に、関係者と納得感を持ちながら進めていくために、非常に重要な業務となります。

よく分からない文章に出くわしたとき、または、ご自身が書いた文章がよくわからないと相手に言われたとき、本コラムの内容が思考の一助になれば幸いです。

参考文献:
・わかったつもり~読解力がつかない本当の原因~(西林克彦、光文社新書)

※今回は「わかる」「よくわからない」がどこからくるか、というお話だけでしたが、参考文献では、さらに「わかったつもりが」どのように生じ、「わかったつもり」を抜け出すにはどうすればいいか、といった内容も書いてあるので、興味のある方はぜひ読んでみてください