先を見通しにくい世の中とはいえ、事業の予測シナリオは、自分たちで考えなければなりません。しかし、不確実な事業環境ですから、事業の予測シナリオは、複数ありえます。複数存在するシナリオを検討したうえで、このシナリオで行こう、と意思決定することは、皆さんの重要な課題になっているのではないでしょうか。今月のコラムでは、複数のシナリオを策定し、シナリオの仮説を明確にすることによって意思決定を支援する、インテグラートのコンサルティングについてご紹介したいと思います。

A社では、コロナの影響を受けた事業について、今後3年の事業計画を修正することになりました。役員の視点で、会社として期待をかけている事業や不安な事業が複数選定されて、修正作業が実施されることになりました。インテグラートのことをよくご存じの役員の方から、計画数値の仮説(設定根拠)を関係者がよく議論するように、とリクエストを受けて、インテグラートが予測シナリオ策定支援を受託しました。

インテグラートが丸ごと計画修正を担当するのではなく、事業関係者が持っている仮説を引き出すことが特徴です。インテグラートは、計画検討のプロセスとスケジュールを設計し、議論を引き出す分析を都度示して論点を絞り込み、これで行こう、というシナリオの選択につなげる役割を担当しました。オンラインでの打ち合わせを1ヶ月半の間に4回設定し、打ち合わせの間にお客様とインテグラートで宿題に取り組んで、検討を進める形式としました。基本のメンバーは6名でした。なお、取り組み実施に際してはメンバーの数は10名以内が、しっかり議論するには良いと思います。また、開発と営業、企画管理というように、部署が異なる方々が参加すると効果が大きいので、参加メンバーはたいてい5名以上になります。本件では、取組み後に役員報告を設定しましたので、参加メンバーも真剣でした。

第1回打合せは、仮説に基づく事業計画の考え方(DDP:仮説指向計画法)の解説と、事業の仮説を洗い出すグループディスカッションです。既存事業では、参加者の頭の中にある重要な仮説をグループディスカッションで洗い出すことができます(新規事業では、仮説の洗い出しに、数か月以上かかることもあります)。第2回までの関係者の宿題は、重要仮説に関する社内データの収集で、インテグラートの宿題は、この事業の利益構造を可視化する、利益構造図のたたき台の作成でした。

第2回打合せは、利益構造図に関する解説から始まりました。事業計画のExcelに記載されている項目は、事業を理解するためには詳細過ぎて、細かいところはわかるけれども、要点はよくわからない、ということになりがちです。利益構造を理解するには、詳細な項目ではなく、重要なところを抽出することがポイントです。建物にたとえると、レンガ造りのように細かい項目の積み上げではなく、鉄骨構造のように重要な骨組みがわかるようにすると、利益に影響のある仮説を効率よく議論できるようになります。



利益構造図を見ながら議論していると、「ちょっと違うような気がします」と言われました。お客様が「ちょっと」とおっしゃる場合には、実は遠慮しておられて、かなり違うことがあるのですが、この場合は少しの違いでした。間違いを指摘され、その説明をよく聞く、ということは、利益構造に関する理解を関係者で共有する、とても良い機会です。第3回までの宿題は、お客様が利益構造をExcelに落とし込み、仮説の数値と根拠を検討すること、そのExcelをインテグラートがDeRISK(デリスク)システムに入力して感度分析とシナリオ分析を示すことになりました。

第3回打ち合わせは、感度分析とシナリオ分析を活用して、この事業の成功のために重要な条件を共有することを目的としました。インテグラートのコンサルタントが感度分析を示すと、おおっ、という声が上がりました。

感度分析を説明していくと、またもや、「ちょっと違うような気がします」という意見が出ました。そう、これがいいのです。まずは個々人がそれぞれなんとなく思っていたことを可視化したうえで、説明をよく聞いて修正していくと、関係者の理解が深まります。

感度分析を見ると、「上に表示されている項目から議論しよう」というように、議論の優先順位が共有されます。そうすると、「この値の仮説は、楽観過ぎるのではないか、+8%ではなく、+5%に修正すべきではないか」「それはなぜなのか、教えてもらえないか」といった、具体的な議論が可能になります。議論が発散せずに、論点が明確になるわけです。続いて、予測シナリオをインテグラートのコンサルタントが仮に作って、起きそうか、起きなさそうか、その理由に関する意見を求めました。このように感度分析とシナリオ分析を活用して、じっくり議論すると、事業の重要な仮説が明確になり、予測シナリオに対する理解が深まります。

仮説の説明も、しっかりとDeRISKに入力して記録しておきます。仮説の大敵は、忘れてしまうことなのです。DDP(仮説指向計画法)の開発者である、コロンビアビジネススクールのリタ・マグラス教授によると、6週間で、重要な仮説の半分は忘れられてしまうそうです(注1)。仮説の議論過程を記録しておくと、議論が戻らず、建設的な検討と、組織的な学びにつながります。打ち合わせ第3回の感度分析とシナリオ分析に関する議論を通じて、この事業の重要仮説が明確に共有されました。第4回までの宿題は、重要仮説について、予防と対策の検討です。

第4回は、主にシナリオ分析を活用して、予測シナリオを議論しました。その際に、宿題として検討された、予防ができる場合、対策を講じる場合を反映して、予測シナリオを修正していきます。

この件のシナリオ分析では、仮説の組み合わせによって、3年後の利益の予測結果を示しました。つまり、原因となる仮説と、結果となる利益をセットにして議論できることが特徴です。どのような場合に利益が高くなり、どのような場合に利益が低くなるか、会議の場で即座に数字を変更して確認できるので、議論が盛り上がります。具体的な議論の中で、昔、こんな案件があってね、などと経験談がよく出てくるのも、大変面白いです。

打合せを重ねていると、参加メンバーの意識が変化してきました。事業の仮説を議論していると、追加投資の可能性が見えてきて、予測シナリオ策定の意義を強く感じ始めました。単に状況を報告するだけでなく、予測シナリオ策定の取組みによって、事業の可能性をしっかりと役員に説明し、追加投資の意思決定を勝ち取りたい、という意欲が盛り上がってきたのです。

シナリオ分析によって複数の予測シナリオを作成し、それぞれの予測シナリオの仮説を確認していくと、どのシナリオが現実的か、その理由も議論し、共有されるようになります。例えば、「〇億円投資した場合に、□億円のリターンが期待できる。なぜならば、その時の仮説は、」というように、予測リターンと、その予測を説明する仮説がセットになります。単なる見通しの上方/下方修正だけでなく、より高いリターンを達成するための策を検討することが、事業を成長させるための議論として重要です。

この時の議論では、起きそうなシナリオと予測リターンについて、その仮説が整理できたところで、「この予測リターンと仮説は、経営陣にしっかり伝わってないのではないか」という議論になりました。そして、予測リターンと仮説の一覧表、感度分析とシナリオ分析が経営陣に報告されたのです。

その結果、メンバーの報告に基づいてシナリオが選択され、コロナ禍の事業環境にもかかわらず、この事業には追加投資の意思決定が下されました。仮説に基づく感度分析とシナリオ分析を活用した検討プロセスには、関係者の質問と意見を引き出し、納得感を高めることによって、ベストの意思決定に導く効果があります。参加者からは、「事業の将来に対し、複数部署メンバーがそれぞれの立場で考えを持ち合えた機会に感謝します」とコメントをいただきました。

意思決定の後は、シナリオを成功に導くために、仮説の管理を継続することが大切です。シナリオを選択した時の重要仮説に絞って、定期的に感度分析とシナリオ分析に基づく議論を実施することによって、仮説の外れに対応して大きな失敗を避け、高い成果を達成できるようになります。

不確実な時代ですから、事業のシナリオはいくつも想定することができ、意思決定の迷いが生じます。仮説に基づく分析と議論は、予測シナリオの実現性をわかりやすく示し、ベストのシナリオ選択を可能にします。インテグラートが開発した、予測シナリオの仮説を管理するDeRISKシステムを活用しますので、関係者がコミュニケーションしやすく、生産性が高いことが特徴です。4回の打合せで、関係者の理解を次第に深めていく予測シナリオ策定支援を、皆様の企業でもいかがでしょうか?

事業環境の変化に対応するための事業計画の修正だけでなく、シナリオの策定に迷う場面は多いと思います。例えば、下記の例のように、妥当な投資額をどうすれば決めることができるか迷う場合など、シナリオの内容を関係者が深く理解して選択したい場合に、是非お勧めいたします。
・投資採算性(事業性)評価全般
・新製品開発で複数部門の関係者が良く議論して事業計画を検討する場合
・総合商社における投資判断など社内関係者の説得が大変な投資案件
・M&Aの買収価値評価
・M&Aした子会社の事業計画のモニタリング
・TCFD開示対応のシナリオ分析報告 
ご関心のある方は、弊社までご一報ください。
皆様のお役に立ちますことを願っております。

注1)コロンビアビジネススクール リタ・マグラス教授のホームページ
https://www.ritamcgrath.com/sparks/2021/08/discovering-perfectly-predictable-mistakes-before-you-make-them/