「意思決定」というタイトルの本を探すと実に多くあるものだなあと驚かされます。それもそのはず、私たちの意識的行動はすべて意思決定によるものであり、仕事や生活で毎日様々な意思決定をしているわけです。今日のランチは何にする、週末はどうやって過ごす、といった小さなものから、就職先を決める、結婚を決める、家を持つ、など人生に1回(数回?)しかしないものまであります。日本人は意思決定という言葉に「決断」や「勇気」の意味を込めてロマンのようなものを持っており、だから意思決定と名の付く本が多い、と聞いたことがあります。

さて、次に経営意思決定を考えてみます。新製品開発、設備投資、契約など、企業でも多くの意思決定によって事業活動が実行されます。意思決定の父とも呼ばれるデシジョンアナリシス論の考案者、スタンフォード大学のハワード博士は、経営意思決定を「経営資源の不可逆的な割り当て」と定義しています。設備投資をしたら、すぐにはそれを元の同額のお金にすることはできないように、経営意思決定は後戻りできない行為なのです。

経営意思決定のもうひとつの特徴は、組織の意思決定であることです。組織のメンバーは個人であり、その立場、個性、持っている情報などが異なっているため、組織の決定やそれによる行動に複雑な影響を与えます。そのような多様な個人の集合体である組織が、ひとつの決定に達するプロセスにはいろいろな考え方があります。強いリーダーによる決定をメンバーが理解する、多数決で決めるなど、単純なプロセスもありますが、企業運営においてはもう少し複雑、かつ様々な問題点を持つプロセスであるようです。

「取締役会、製品開発グループ、経営陣などは十分な議論を尽くすことなく、また前提条件に疑問を尽くすこともなく、お粗末な集団的意思決定を下す(決断の科学:HBR2006年4月号)」などと少々手厳しい意見もあります。

インテグラートで取り組んでいる戦略意思決定プロセスは、組織の意思決定の品質をより良くするためのメソドロジーですが、これについては後ほどご紹介する機会を持ちたいと思っています。ここでは最後に、意思決定の品質について少し考えて締めくくることにしましょう。

意思決定の品質、言い方を変えると「より良い意思決定とはどんな意思決定なのか」を筆者なりに考えてみると次の2つの側面があると思います。

(1) ビジネス目的に対して、より合理的であること
(2) 決定が組織のメンバーでより納得され、より支持されていること

前者はわかりやすいですね。合理的とは「理にかなっていること」、例えば、より儲かること、よりリスクが少ないこと、よりコストが少ないこと、などです。この面での究極の意思決定は、与えられた制約条件の下で利益を最大にする最適化です。オペレーションズリサーチなどはこのための手法といえます。

しかし、組織で行う経営意思決定では、最適化を追求するだけがよい決定とは言えません。その決定に対してメンバーがより納得し、支持することでその達成へのコミットメントが増し実現のパワーになるからです。

この2つの側面をバランスしながら高めることが、経営意思決定の品質を高める上で重要だと考えています。次回以降、より良い意思決定を行うための基本的な考え方を少しづつご紹介するつもりです。

(北原 康富)