「多分、大丈夫です。」
こう言われると、何となく安心な気がします。しかし、時と場合によっては、例えば、社運を賭けたプロジェクトについては、多分では済まないことがあります。では、多分という確率を数字で示すと、どれぐらいなの?というのが今回のコラムのテーマです。

このような、言葉が表現する確率と、その曖昧さは、英語について以前から研究対象になっているようですので、その一部をご紹介します。(日本語については、まだ研究が見つからないのですが、どなたかご存知でしたらご教示いただけますと幸いです。)

Describing probability: The limitations of natural language (David Hillson, 2005)「確率を表現する:自然言語の限界」(訳は筆者)には、複数の調査の比較が紹介されています。ちなみに、自然言語とは、あらかじめルールを決めて作られた言語(エスペラント等)と対比して、ルールが決められずに発展してきた言語、という意味です。

紹介されている各調査の方法は少しずつ違うのですが、基本的には、ある言葉が表現する確率を対象者に答えてもらう、という方法を採っています。まずは具体的に例でご説明します。

「Likely」(多分、おそらく、ぐらいの意味です)
59%(min50%, max68%) (Hillson 2005、回答数507)

これは、Likely、と表現したときに、回答者が示した確率の平均は59%だった、ということです。つまり、Likelyと言うと、59%の確率で起こりますよ、と表現していることになります。括弧の中の数字の“min”は、Likelyが示す最小の確率は?という問いに対する回答の平均です(Likelyに対する回答全体の最小値ではありません)。つまり、Likelyと言えば、少なくとも50%以上を意味する、という平均が得られたわけです。同じように“max”は、高くても68%です、と平均が得られたという意味です。次の括弧内は、調査者、発表年度と、調査に対する回答数です。

さて、調査を比較してみましょう。

「Likely」
59% (min50%, max68%) (Hillson 2005、回答数507)
75% (min65%, max85%) (Conrow 2003、回答数151)
60% (min55%, max85%) (Boehm 1989、回答数20-25)
72% (min25%, max99%) (Lichtenstein & Newman 1967、回答数180)

まずは、同じLikelyという言葉でも、調査によって示す確率が59%から75%まで開きがあることがわかります。多分大丈夫、の確率は人によって違い、およそ6割から7割程度ということのようです。更に、Likelyが示す確率には、4つの調査いずれも20%程度以上の幅があることがわかります。調査による開きと、それぞれの幅の大きさを見ると、Likely、と表現した人と受け取った人の間で、認識する確率にずれが生じる可能性があると考えられます。

可能性がある、と自分で書いているので、「Possible」(可能性がある)という言葉についても調査結果をご紹介します。「Possible」について調査しているのは下記の3つです。

「Possible」
43% (min29%, max58%) (Hillson 2005、回答数507)
55% (min35%, max65%) (Conrow 2003、回答数151)
37% (min1%, max99%) (Lichtenstein & Newman 1967、回答数180)

この結果を見ると、「Possible」は、まあ5分5分程度と理解しておけばよいのかな、と私は思いますが、大雑把過ぎますでしょうか?

Hillsonは、他にも興味深い調査結果を報告しています。「definite」(確実、明確であること)と「impossible」(有り得ない)の確率を、調査前にはそれぞれ100%とゼロであることを期待していたところ、調査結果は「definite」が平均80%、「impossible」は平均8%だったそうです。この件は確実ですよ、と言われても、言っている人が意味している確率は8割程度というわけです。

さて、ご紹介したように、確率を表現する自然言語が曖昧さを含む以上、関係者間に確率に関する認識のずれが生じやすいことになります。しかし、「確実といったじゃないか!」「確実とは言いましたけど、絶対とは言ってません!」というような議論はしたくないものですね。

このような問題には、何らかのルールを決めて、確率に関する理解を共有することが役に立ちます。例えば、予測しにくい数字を表現するときに、基準値・最小値・最大値というように幅をつけることにし、それぞれの値について、確率では何%に相当する、というルールを決めていきます。具体的には、最小値は、確率10%を意味する、あるいは、有り得ないぐらい小さいという意味で3シグマ(標準偏差の3倍)と決めることがあります。このような取り組みは、大手製薬会社など、大規模な投資を行う企業で実践されています。

業務の費用対効果を考えると、すべての案件に確率を考慮する必要はないのでしょうが、確率を示すことができれば便利になると考えて良いようです。その身近な例は天気予報です。天気予報が「降水確率60%です」とズバリ確率を出してくれていることは、「多分、雨が降ります」と言われるよりもずっと便利ですね。

昔は天気予報みたいなものだ、と失礼ながらあてにならないことのように言った時代がありましたが、天気予報は年々着実に進歩を遂げていると思います。ビジネスにおいても、各個人が今まで曖昧な言葉で伝えていた確率の考えを、確率という数字を共通言語とすることによって、便利になることがあるのではないでしょうか。長い道のりかもしれませんが、ビジネスにおける確率の活用は「確実」に進歩していくことでしょう。(確実に、の確率については、コラム文中のdefiniteをご参照下さい!)

(小川 康)

参考資料:Describing probability:The limitations of natural language, David A. Hillson