私どもインテグラートは起業以来、十余年に渡り、企業の意思決定における定量的事業価値評価、すなわち「事業価値バリュエーション」の浸透を目指し、その方法論や製品・サービスの開発と提供に努めてきました。前回、前々回は意思決定に関わるお話をしましたが、今回は、意思決定のプロセスに不可欠な、事業価値バリュエーションについて概論的な話をすることにいたします。

バリュエーションとは「価値を定量的に表すこと」であり、主に下記に示されるようなメリットがあると考えられています。

① 誰にでもわかり易い
② 他の事柄や別の性質を持つ事柄との比較が容易となる
③ 代替オプションをより柔軟に考えられる
④ 論理的シミュレーションが可能になる

近年、事業の「価値」が注目されるようになり、又、企業環境の変化の中で求められる各種アクションの中で、上記メリットが認知されるようになって、事業価値バリュエーションに対する関心が高まり、実務の中で用いられる機会が増加しています。事業価値バリューションは、事業価値を「見える化」するための道具として、多方面で用いられています。

例えば、株主価値を重視した企業経営への傾倒によるIR活動の重視や、社外取締役の設置は、社外ステークホルダーへ企業の事業計画や実績をわかりやすく伝達する必要を生み、事業価値バリュエーションが活かされています。又、M&Aやライセンシング、アウトソーシング等多様化する経営手段の選択プロセスや、「選択と集中」を狙う事業再編の実行プロセスの中でも、事業価値バリュエーションが有用とみなされています。更に、ダイナミックな経済環境の変化や競争の激化は、企業環境の不確実性を高めており、定量的な価値評価によって将来の価値を予測し、併せてリスクを測るシミュレーションへのニーズが高まりつつあります。

ところで、私どもがご提供している「事業価値バリュエーション」は一般企業における意思決定や管理に用いられるものであり、金融マーケット商品の価値評価を目的にした「バリュエーション」とは若干性質が異なります。事業価値バリュエーションは、価値そのものを求めることではなく、経営判断をする指標を捉えることを目的とした価値評価なのです。

例えば、多くの製薬企業は、一件当りの研究開発費が数十億円にも上る、医薬品の研究開発プロジェクトのGo/No Goの意思決定に、DCF法やリアルオプション法を用いた定量的な事業価値評価手法を用いています。それぞれの研究開発プロジェクト毎にプロジェクトの実施に必要な経費やプロジェクトの成果物である医薬品の売上などを見積もり、キャッシュフローを予測し、事業価値を求め、それらを相対比較、又は意思決定の閾値と比較し、プロジェクトの継続、中止等の意思決定が行われています。

事業価値バリュエーションのアウトプットは、コミュニケーションツールとして、意思決定事項へのコンセンサス、コミットメントを図るのに有効な他、事業やプロジェクト目標の管理や実績の管理にも役立ちます。

(宮本 明美)