多くの皆様、初めまして。今回、はじめてコラムを担当いたします。今回のコラムは、私が担当する業務の中で感じた「わかる力=相互理解への継続的取り組み」についてお届けいたします。

私は、弊社ソフトウェア(「デシジョンシェア」バージョン2、「RadMap/project」バージョン5)のマニュアル作成業務を主に担当してきました。マニュアル作成の過程で最も苦労したのは、「『正確性』と『わかり易さ』の二律背反」という点です。弊社製品には数多くの独自機能が盛り込まれており、それらを詳しく正確に記述しようとすると、つい文章が難解になりユーザーにとって使いにくいマニュアルになってしまう恐れがあります。一方、文章の簡潔性やわかり易さを追求し過ぎると、表現の正確性を欠いた、操作説明書として不十分なものになってしまう恐れがあります。マニュアルの作成にあたって、この対照的とも言える「正確性」と「わかり易さ」をいかに両立させるかということに腐心してきました。

マニュアルに見られるこの関係は、コンサルティング業務においてもそのまま当てはまります。お客様にご満足頂ける価値をもたらすべく、様々な方法論を用いてしっかりした洞察に基づく提案を行うことがコンサルティングには当然求められていますが、余りにも正確さや緻密性を追い求め過ぎると、お客様の理解が得られにくくなり、コンサルティングの本質的価値を失いかねません。「いかに専門的な知識を生かして、かつコンパクトにわかり易く伝えるか」が、コンサルティングに当たって肝要となります。

「『正確性』と『わかり易さ』の二律背反」の課題を解決すべく、その根本を突き詰めると「どれだけ深く製品・お客様のことを理解するか」という点に辿り着くと考えます。マニュアルの作成については、製品を深く理解することで、各機能の最大の特徴は何なのか、その特徴を生かすにはどのような操作をすれば良いのかを把握することができ、必要な事項を煩雑な文章になることなく記述することにつながります。また、お客様が製品に対して求めていることや難しいと感じている箇所を知ることで、それに対応する形でマニュアルの表現を充実させ、より製品を効果的かつ手軽にお使い頂けることにつながります。そして、コンサルティングについては、製品を深く理解することで、私達の強みが何なのか、お客様にどのようなメッセージを発しているのかを客観的に確認でき、お客様の期待に応え得る事業評価手法を最大限に有効活用することにつながります。また、お客様の困っていること、お客様が「こうありたい」と考える姿を的確にとらえることで、実効性がありお客様のニーズに合致した提案を行うことができます。

このように、「わかる力」、言い換えると「相互理解への取り組みを常に意識すること」が、二律背反の関係を脱し、正確性とわかり易さを兼ね備えた製品やサービスを提供するための最も重要なポイントと言うことができます。

この考えをさらに押し広げると、広く業務一般にも同様のことが言えるのではないでしょうか?社内でプレゼンを行う場合や、説明資料を作成する場合を考えてみましょう。プレゼンや資料の中で、細かいデータや専門用語等を過度に用いると、難解な印象を与えてしまい、肝心のメッセージが十分に伝わらなくなってしまいます。一方、自分の主張するメッセージばかり強調してしまうと、その根拠が曖昧になり、説得力の欠けたものとなってしまいます。限られた時間・スペースにおいては、「具体的な論拠に基づきながら、主張を明確にわかり易く伝える」という点が、最も大切な点であり、また最も苦労する点ではないでしょうか。ここでも、「相手と自分について適切に把握する」ことが解くカギになってくるでしょう。つまり、プレゼンや説明の対象となる人が、どのような立場・情報を持っており、今回のプレゼンや説明に何を求めているのかを念頭に置き、それに合致するように自分の主張・メッセージを構成し、サポートとして具体的な事実を述べます。このようにすることで、プレゼン・説明内容が相手にとって要領を得やすいものとなり、かつ自分の主張を無理なく展開できるので、より効果の高いものとなるでしょう。

お客様と直接お会いする機会に、お客様もこのようなことを大切にしておられると感じることが増えてきました。私も、お客様の努力を上回る努力を重ね、皆様のお役に立てるよう精一杯頑張る所存です。まだまだ未熟な私ですが、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

(楠井 悠平)