リード
生成AIが瞬時に仮説を生み出す時代。
企業が本当に求めるのは、AIが提示する“確率の高い未来”ではなく、
自社らしい挑戦の未来を描き、それを学習し続ける仕組みです。
いま、インテグラートはIBMとの共同プロジェクトとして、
AIを活用した仮説マネジメント・プラットフォームの開発を進めています。
私たちが目指すのは、AIが過去の仮説履歴を学び、
企業固有の経験や判断を“知のアセット”として蓄積・再利用できる仕組み――
すなわち、「学習する経営」を現実の組織に実装することです。

1.AIのチャンスとリスク
AIの登場により、事業企画や新規事業開発の初期段階で、
仮説立案・市場分析・シナリオ設計のスピードは格段に向上しました。
大量のデータを統合し、「勝ち筋」や「成功パターン」を自動抽出することも容易です。
しかし同時に、AIが導くのはあくまで“過去に似た未来”です。
これまでに存在しなかった市場や、未知の技術領域では、
AIの仮説は根拠の薄い「推測」にとどまります。
したがって、AIのチャンスは「仮説の量を増やすこと」であり、
リスクは「仮説の質を見極めずに信じてしまうこと」なのです。
今後の経営では、AIに仮説を立てさせ、人間が仮説を検証し、
組織が仮説を運用するという三層構造が不可欠になります。

2.DDPの原点:重要仮説への集中とPLAN Bの設計
インテグラートが長年実践してきた仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning:DDP)は、
まさにこのAI時代に再評価されています。
DDPの中核は、すべての仮説を追うのではなく、
「事業の命運を分ける重要仮説(Critical Assumptions)」に絞り込み、
その仮説が崩れたときのPLAN B(代替シナリオ)を事前に設計すること。
この構造的な“備え”が、不確実性をコントロールされた学習に変えます。
AIが出す膨大な仮説群の中から、
「どれを検証すべきか」「どの順序で学ぶべきか」を判断する羅針盤として、
DDPは今、組織の戦略意思決定を繰り返すシステムの中心概念に据えられてきました。

3.AI実装の新段階:仮説履歴を学ぶ「知の循環」へ
私たちは今、AIを“仮説生成エンジン”として使うだけでなく、
過去の仮説変遷から学ぶ「知の循環システム」として再定義しています。
具体的には、各プロジェクトで立てた仮説、修正の経緯、成功・失敗の要因などをデータ化し、AIがそのパターンを学習。
似た条件・事業構造・リスク環境における「学びの参照(リファレンス)」を自動的に提示します。
これにより、過去の経験値が未来の仮説構築に活用され、
“自社らしい仮説を構築できる企業”へと進化していくのです。
つまりAIは、単なるデータ分析の道具ではなく、
「組織が積み重ねた思考の軌跡を資産化する存在」になります。

4.モニタリングの目的:変化を読み取り、意思決定を先読みする
インテグラートが提唱する投資モニタリングは、単なるKPIの追跡ではありません。
その目的は、「どの仮説が変化しつつあるかを検知し、次に備える」ことです。
モニタリングのプロセスは、

 1.仮説検証の進捗と発見事項の共有
 2.仮説項目・設定根拠の更新
 3.目標値の上振れ・下振れと影響度の評価
 4.変化の原因を掘り下げ、将来シナリオを再設計
 5.次の意思決定事項とタイミングを意思決定者と事前共有

このサイクルをAIが支援することで、
「どの仮説が崩れそうか」「いつ方針転換が必要か」を先読みし、
経営陣に“意思決定の予告情報”を届けることができます。
つまり、AIは数字を出す存在ではなく、意思決定の質を高める伴走者となるのです。

5.共同プロジェクトの目的:固有ナレッジをAIで活かす
現在、インテグラートではIBMとの協働のもと、
この「仮説ナレッジ活用」を核としたAI実装を開発中です。
私たちはこの開発過程において、
クライアント企業の固有知(ナレッジ・経験・仮説履歴)を活かす共同開発パートナーを募集しています。
目的はシンプルです。
「あなたの企業がこれまで培ってきた仮説思考と意思決定データを、
AIが学習し、将来の事業創造に生かせる仕組みを共に創ること。」
この共創プロジェクトでは、
 •既存の仮説モニタリング体制や投資判断プロセスを可視化
 •AIが学習できる形で知見を整理し、企業専用ナレッジベースを構築
 •その知識を未来の仮説設計・シナリオ選択に再利用
という“知の循環型経営”の実装を目指しています。

6.結論:AIと共に、仮説を資産に変える時代へ
AIが仮説を出し、人間が検証し、組織が学び続ける。
その循環が回り続ける企業こそが、AI時代に競争優位を築きます。
インテグラートは、AIと仮説指向計画法を融合させ、
「仮説を記録し、学び、再利用できる経営」を現実にするパートナーです。
今後の共同開発パートナーとして、
自社の知見をAI時代の競争力に変えたい企業とともに、
「学習する経営」の未来を築いていきたいと考えています。

名田 秀彦(インテグラート株式会社)