研究開発やM&Aなど、事業投資の投資意思決定において最も難しい意思決定は「撤退=やめる意思決定」ではないでしょうか?ある事業や投資案件からうまく撤退するにはどうすればよいのか、をお悩みの皆さんには今日ご紹介する「新規事業撤退力を高める」(※)という本をお勧めします。
私は長年お客様の事業性評価を支援する仕事を行ってきましたが、「事業性評価はその案件や事業の推進=やる判断よりも、撤退=やめる判断を助けることが大きな役割である」と考えていました。本書では、撤退の最初のプロセスである意思決定の第1段階で事業性評価を示しており、まさに我が意を得たり、との印象を強くしました。
本書では事業性評価としてやるべきことを事業の段階で区分しています。事業検証段階(ローンチ準備ステージ)ではそのビジネスの顧客ニーズがあるのか、採算が取れる水準でお金をもらえるのか、コストが収まるのかなどのポテンシャルを確認する目的で事業性評価を行います。事業性評価でニーズが小さい、あるいはニーズはあっても想定以上にコストがかかり、採算が取れないとなると、次の段階に進まないという撤退判断につながります。
事業の商用化段階(事業ローンチステージおよび成長加速ステージ)では、「5年以内に投資回収する」といった撤退基準が明確に定まっている場合は、基準をクリアしているかどうかで継続か撤退かの意思決定を行います。また、撤退基準が明確でない場合は当初計画に向けてリカバリーするための再生プランを策定するとあり、再生プランが策定できないくらい事業内容が悪化していると判断した場合、事業性が厳しいという見解を意思決定者であるマネジメント側に示し、判断を仰ぐとあります。
また、事業性評価を使った意思決定に加えて、撤退の実現可能性、やめられるかどうかの検討を具体的な障壁が何かを洗い出すことによって行うことを事業性評価の次の段階として示しており、実用的と感じました。
加えて、撤退できた場合には、その案件を振り返ってダメだった点を列挙するのではなく、「市場や消費者への見立てが十分ではない→それは自社が個人消費者の行動や嗜好の変化を読み解くことが本来的には得意ではない→そもそも自社のドメインとは何かがあいまいである」といった因果関係を整理し、真の原因をあぶりだすプロセスが、次の事業投資の成功を高めるとしています。この点は、なかなか難しい取り組みだと感じる反面、インテグラートが訴える「仮説の外れから学ぶ」学習のプロセスと同じであるため、同時にその必要性を強く感じました。
事業を撤退するかどうかにお悩みの皆さんにはまず、「事業共通の撤退基準=これがクリアできれば事業継続ができる目標は何か」を考えること、また過去の撤退した案件はどうだったか、振り返りを行ってみてはどうでしょうか?
本年も「インテグラート・インサイト」をご愛読いただき、誠にありがとうございました。どうぞ皆様、よいお年を。
(井上 淳)
(※)内田有希昌著「新規事業撤退力を高める」・東洋経済新報社・2025年