今回は、不確実性の高い環境での事業への投資や新規事業の計画や実行に役立つ「仮説のマネジメント」について、紹介いたします。ここで「仮説」とは、事業投資や新規事業の計画を立てる際の仮定や前提事項のことです。不確実性の高い環境下の事業や初めて取り組む事業の場合には、不確実性の低い環境や既存事業の場合に比べて、経験や知識が少なく、それらに基づく見通しが立たないため、その計画はより多くの「仮説」に基づくことになります。

例えば、住宅街にレストランを持つオーナーが、二軒目のお店を出す際に、一軒目に程近い場所に、同じような規模で一件目同様ファミリー層をターゲットにするレストランを出店する場合と、駅ビルの中に若い女性をターゲットとした、イートイン・タイプのお店を出す場合を考えてみましょう。二つのケースでは、それぞれの出店計画の際に使える経験や知識の量が異なり、オーナーにとって、より新規性が高く、事業環境の不確実性の高い駅ビルに出店する場合の方がより多くの「仮説」に基づいて計画を立てることになります。

その計画が基にしている「仮説」の数が多いほど、その計画が予定通りにならない可能性が高まります。しかしながら、仮説と予見(知識)とが区別されずに取り扱われてしまい、沢山の仮説に基づく計画がそうではない計画(予見に基づく計画)と同じように捉えられてしまうケースが少なくありません。新規事業の計画やリスクの高い投資計画のような沢山の仮説に基づく計画の場合、緻密な計画をたてることや計画通りに実行することに注力するよりも、計画通りにならないことを前提として、「仮説を意識して管理する」すなわち「仮説をマネジメント」することが、当初の目標達成が出来る可能性をより高めるのです。

「仮説」は大きく二種類に分けられます。仮説のうち、自らがコントロール出来ない仮説は「外的仮説」です。先のレストランの例の場合、店舗候補地周辺の通行量や競合店数などはコントロールの出来ない外的仮説です。一方、自らがコントロール出来る仮説は「内的仮説」であり、店舗の席数や客単価(メニューの価格)等が内的仮説となります。外的仮説も内的仮説も、計画を左右する不確実な要素であることに違いはありませんが、仮説の設定方法や管理方法は異なります。外的仮説をより少なくし、内的仮説を自社の戦略を踏まえてコントロールすることで、より不確実性に柔軟に対処可能な計画を立てるといったことも考えられます。例えば、駅ビル内へのイートイン・レストランの出店よりも、住宅街に大型で、より高級化した客単価の高い店舗を出す方が、内的仮説が多く、不確実性に対応しやすいと言えるでしょう。

「仮説のマネジメント」は、おおよそ、下記の手順で行います。

(1) 仮説の洗い出し・分類
(2) 仮説の値の設定(ベンチマーク値との比較)
(3) シミュレーション
(4) 仮説の検証
(5) 仮説及び計画の見直し

「仮説のマネジメント」の目的の一つは、仮説を知識へと変化させること(仮説の知識化)です。計画の立案段階、あるいは計画の実行段階において、仮説を検証し、仮説を知識に変えるような取り組みを予め計画します。「市場調査」や「プロトタイプの作成」、「テストマーケティング」等は仮説の知識化のための取り組みになります。仮説の検証と仮説・計画の見直しを繰り返し行うことで、不確実性に対応しながら、計画や戦略の修正が行われます。

「リスクマネジメント」という言葉が一般化し、実施する企業が増えていますが「仮説のマネジメント」と「リスクマネジメント」はどのように違うのでしょうか?リスクマネジメントが不確実性、すなわちリスクを回避、或いは最小化することを主な目的とする一方で、仮説のマネジメントは不確実性をより積極的に受容しながら、計画に柔軟性を持たせることを可能にします。仮説のマネジメントは、より不確実性の高い時代にマッチした手法であるといえるでしょう。

もはやKKD(経験と勘と度胸)ではビジネスを成功に導けないと言われて久しいですが、これからは「KKK(スリーK.)」、すなわち「経験と勘と仮説のマネジメント」がビジネスマンの武器になるやもしれません。

※仮説のマネジメントの手順や内容について、より詳しくお知りになりたい場合には、下記論文或いは書籍をお読みください。

 イアン・マクミラン/リタ・マグラス 著 「 未知の分野を制覇する仮説のマネジメント 」
 大江建/北原康富 著「儲けの戦略」

※弊社会長北原が担当する早稲田大学ビジネススクールの教育プログラム「仮説のマネジメント」が7月に開催されます。ご関心のある方は、下記サイトをご覧ください。

▼ http://www.waseda.jp/wbs/03nondegree/evening/03overview_eve_jp.html

(宮本 明美)