今回のコラムでは、「定量的な事業評価」や「事業リスク評価」、「ポートフォリオマネジメント」を組織として取り組む際のきっかけ作りや普及活動を行う上でのヒントを差し上げられればと思います。すでに、組織的な取り組みを行っている企業では、どのようにきっかけをつくり、浸透・普及させたのでしょうか?
インテグラートでは、弊社主催のイベントを、毎年数回開催しており、これまで多くの皆様に参加いただいています。毎回、ご参加者の方々にアンケートにご協力をいただき、定量的な事業評価などへのお取組みの状況等お伺いしております。以下は、昨年10月、11月に開催させていただいたインテグラートセミナー“実践!「戦略意思決定のメソッド」~計画と決定を良くする10のテクニック~”でのアンケート結果からの引用です。
Q1.貴社における定量的な事業価値評価の実施状況についてお答えください。
1. 実施している 54 (50.04%)
2. 今後実施することを検討している 32 (29.6%)
3. 現在実施しておらず今後の実施も検討していない 13 (12.0%)
4. その他 9 (8.3%)
(有効回答数 108 )
Q1への回答結果より、回答者の約半数の企業で、何らかの形で事業評価を定量的に行っており、約30%の回答者が今後の取り組みを検討中であることがわかります。
Q2.上記Q1で「2.今後実施することを検討している」「3.現在実施しておらず今後の実施も検討していない」とお答えの方にお聞きします。貴社内で定量的な事業価値評価が行われていない理由として、どのようなことが原因となっていると考えられますか?[複数回答可]
1. 必要性は感じているが、トップマネジメントもしくは組織内の関連部署の不理解のため、利用できない。 22 (29.3%)
2. 必要性は感じているが、対象となる評価案件がない、又は少ないので評価による判断の余地が無い。 5 (6.7%)
3. 必要性は感じているが、事業価値評価・投資評価システムに投資するためにコストが割けない。 11 (14.7%)
4. 必要性は感じているが、事業価値評価・投資評価のノウハウがなく、組織的な導入手順、スキルの育成など、どうやればいいのか分からない。16 (21.3%)
5. 必要性は感じているが、対象案件の収益構造(評価モデル)が組み立てられない、又はデータが収集出来ない。 14 (18.7%)
6. 会社として定量的な事業価値評価の導入の必要性を感じない。6 (8.0%)
7. 会社として事業価値評価の組織的な取り組みは実施しておらず、個人的にも事業価値評価の導入の必要性を感じない。 0 (0.0%)
8. その他 1 (1.3%)
(有効回答数 54 / 延べ回答数 75 )
Q2への回答結果より、組織的な取り組みを行う上で、主に「トップマネジメントもしくは組織内の関連部署の不理解」、「事業価値評価・投資評価システムに投資するためにコストが割けない」「事業価値評価・投資評価のノウハウがなく、組織的な導入手順、スキルの育成など、どうやればいいのか分からない」、又、「対象案件の収益構造(評価モデル)が組み立てられない、又はデータが収集出来ない」が弊害になっていることがわかります。
これらの弊害を乗り越えるには、どうしたら良いのでしょうか?事業価値評価やポートフォリオマネジメントを実施するきっかけ作りや普及活動に成功した企業では、以下のよう働きかけが行われています。
a)理解者を増やす
事業価値評価やポートフォリオマネジメントに限らず、何らかの組織的な取り組みを始める際に、必要なのは、取り組みについて理解してくれる人を増やすことです。あるお客様では、社内の有志で「事業価値評価」について勉強会を行い、事業価値評価への理解者を増やし、その有効性を検証し、議論しました。その勉強会の内容をまとめた報告書が、トップマネジメントの目にとまり、組織的に事業価値評価に取り組むことになりました。また、別のお客様では、ポートフォリオマネジメントの推進に励まれていたご担当者の方が、ある時期、社内で『ポートフォリオマネジメントの人』と呼ばれておられたそうです。ご担当者は、「一日千回は“ポートフォリオマネジメント”と唱える」とおっしゃられ、社内の色々な部門の方に、様々な局面でポートフォリオマネジメントのお話をされていらしたそうです。組織の中で、新しい取り組みを始める場合には、そのような地道な努力も必要であることを学ばせていただきました。
b)常に準備をしておく
組織的な取り組みのきっかけは、突然、起こることがあります。昨今、事業のM&Aや技術のライセンシングなどの案件が多くあり、それらはほとんどの場合、早急な検討や意思決定が求められます。あるお客様では、突然、事業買収の話が持ち上がり、バリュエーションや事業リスクの評価が必要となりました。外部のコンサルティング会社に依頼することも検討されましたが、社内で以前より事業価値評価やリスク評価に関心を持ち、勉強されていらしたご担当者の名前が上がり、社内で検討が出来るのであればそれに越したことはないと、そのご担当者に白羽の矢が立ちました。それをきっかけに、その後、組織的な取り組みが検討されるようになりました。常に、事業価値評価やリスクの評価などについて、実行段階に移行できる準備をしておくことが、いざという時に役立ちます。
c)最初は参考情報として用いる
定量的な事業価値評価やリスク評価に取り組む場合、始めから意思決定などの指標に組み入れるのではなく、最初は参考情報として、補足資料などに留めておくことが有効な場合が多くあります。馴染みのない指標をいきなり意思決定の材料にしてしまうと、抵抗感を持つ人も多く、かえって取り組みを阻害する結果となりかねません。あるお客様では、事業リスク評価の分析結果を、投資評価会議の参考資料として添付するようにしました。事業リスク評価の結果が蓄積されるに従い、トップマネジメントを含め、会議の参加者の中で分析結果の意味するところの理解が進み、その後、リスクが高いと考えられる案件では、必ず、事業リスク評価の分析の結果が求められるようになりました。
新しい年を迎え、インサイトの読者の皆様の中にも、個人として、あるいは組織としての目標を新たに掲げられた方が多くいらっしゃることと思います。中には、以前から関心をお持ちの「事業価値評価」や「ポートフォリオマネジメント」等について、勉強を更に進めたり、組織の取り組みとしてスタートさせようとお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか?本コラムが、皆様の目標の設定や達成に、少しでもお役に立ちましたら幸いです。
(宮本 明美)