意思決定マネジメントを考案したハワード教授は、経営意思決定を「元に戻すことのできない経営資源の投入を決定する。その見返りには不確実性を伴う」と定義しています。また、新製品や新事業の開発、既存製品や既存事業の継続や再編成、中期や短期の事業戦略の策定では、経営目標に対してより戦略的な決定をするため「戦略(経営)意思決定」とも呼ばれます。

さてハワードは、経営意思決定の品質を測る6つの軸を示しました。このどの軸が低いかを評価してそれを上げる努力をすることで、組織の意思決定能力が強化されるとしています。今回は、この軸についてお話しましょう。コラムの範囲で簡単に説明するため、今回は1点~10点の点数をつけられるように、各々の軸の両端のイメージを私なりに書いてみました。

1.明確なフレーミングができていること。

意思決定のフレームとは、決定の対象とする範囲とその目標を指します。簡単にいうと、これからやろうとする戦略検討が何のためにやっているのかを共有することです。
計画を検討している会議で、大小様々なレベルの論点が出て議論がすれ違う、「この検討はいったい何をやっているのか?」という疑問が出る、後になって「そもそも論」が出てくる、何時間会議をしても参加者の「思い」を表明するだけの場で終わってしまう・・・などといった時はフレーミングがきちんと行われていないことがあります。

10点:対象となる事業のビジネス目的が具体的に、および戦略検討にあたっての前提条件が漏れなく経営レベルの決定によって与えられている。およびビジネス目的および検討範囲が意思決定の参加者によって理解されている。

1点:何を検討しようとしているのかはっきりしていない。参加者の期待や思惑がばらばら。対象となる事業のビジネス目的および意思決定の検討範囲が明確でなく、意思決定の参加者の中で理解や意識のばらつきがある。

2.明確な価値判断指標(基準)が定義されていること。

後でも出てきますが、戦略意思決定は少なくとも2つ以上の代替案を検討し、それを比較して最終的に選択します。そのためには、経営者の考える「良い戦略」を表す複数の指標をつくっておくことが必要です。例えば「売上高」を唯一の指標とすると、利益が少なくても売上の高い戦略が優先されることになります。また、指標の優先順位を定めておくと戦略検討や判断を効果的にすることができます。これらの指標はできるだけ客観的に測れる形が望ましく、主観的にしか評価できない指標は、後になって評価の妥当性が議論になるかもしれません。

10点:経営レベルで承認されたビジネス目的に沿った評価指標が、漏れなく定義され、それらの優先順位が設定されている。評価指標は客観的に測定可能であり、定量的であることが好ましい。

1点:価値判断基準が設定されていない、または明確に定義されていない。価値判断基準の優先順位が設定されていない。

3.創造的かつ実行可能な戦略代替案が検討されていること。

戦略意思決定の参加者は、フレームで設定された戦略検討の範囲をよく理解し、その中を広くカバーするアイデアを創造的に検討します。そして、少なくとも2つの案を検討し、提案できるようにします。2つの案といっても、「オススメ案」とか「捨て案」などはだめです。どちらが選択されてもいいように公平に検討します。

10点:2つ以上の戦略代替案が創造的、公平に検討され、あらかじめ設定された価値判断指標で評価されている。

1点:複数の戦略代替案が検討されていない。

4.明快かつ正しいロジックが定義されていること。

評価指標を求める計算方法が人によって違ったり、間違っていては判断を誤ります。また、これは意思決定の参加者に理解できなくてはなりません。複雑な金融工学を使ったロジックがなかなか受け入れられないのは、ロジックの「明快」さがまだ足りないからではないかと思います。

10点:評価指標の算出方法(ロジック)が合理的で、わかりやすく表現されている。客観的で人によって解釈が違わない。

1点:評価指標のロジックが明確に定義されていないため、個人の主観により適当に行われている。ロジックがわかりやすく表現されていなく、なぜその評価結果になったのか経営者や参加者で理解されていない。

5.有用かつ信頼性の高い情報に基づいていること。

評価をする元になる情報が正しくないと、評価結果も誤ったものになります。特に定量的な指標の場合、いかにも正しそうなデータが提示されるので、いわゆる「データの一人歩き」になって、判断を誤ったり結果の信頼を失います。
10点:代替案の評価をするための情報が、客観的な事実、または信頼できる第三者によって調査分析されたものである。

1点:代替案の評価をするための情報が、適当な情報源をもとに安易に推定されている、または案を推進または否定しようとする人の偏ったものだと思われている。

6.実行関係者全員のコミットメントがあること。

意思決定の検討を、他人事のように進めた人は、結果を信じてそれをサポートすることにコミットメントを持ちません。これではせっかくの決定が、目標達成に向けて実行する力を持ちません。そのためには、実行に関わる人たちに戦略検討にはじめから参加してもらうことです。もちろんこの中にはしかるべきポジションの経営者も入ります。

10点:検討会議のスポンサーであるトップおよび意思決定結果を実行する関係者が検討過程に参加し、決定結果を自分自身の仕事として真剣に取り組んでいること。

1点:決定結果に関係する人たちが、決定を知らないまたは不理解で、実現の可能性を信じていない、自分の仕事として真剣に取り組まない。

さて、私が最近かかわった、事業部の中期事業戦略の意思決定では、以下のような診断を最初にしました。これまでに経験したパターンの平均的な感じがします。さて、読者の皆様が自己診断した結果はいかがでしょうか?

フレーム:2点
価値判断基準:3点
戦略代替案:1点
評価ロジック:5点
信頼性の高い情報:7点
コミットメント:10点

最後に少しだけ当社の宣伝を。インテグラートは、戦略意思決定を進めるお手伝いをするファシリテーションや、お客様自身で進めるための研修などを提供しています。このコラムに紹介したような診断の結果、弱い部分を改善することにつなげて頂ければと期待しています。

(北原 康富)