100年に一度と言われる金融危機が、経済にこれまで経験したことのない影響を与えています。このような危機は人間のもつ「過信」が招くとの説があります。ごく簡単にいうと、例えば貸し倒れの率を5%としてローンのビジネスをしていた場合、融資先が100社あってそのうちの5社に支払い不能が続いている場合は、正しいリスクの認識です。しかし、そのうちの10社が支払い不能になるということなら、本来10%であることを5%と認識してしまったということになります。一般的に人は、本来のリスクに対して悲観的になるよりも、楽観的になる傾向があります。これを「過信(Overconfidence)」といいます。過信については多くの調査や研究があります。例えば、34%~50%のベンチャービジネスが創業2年以内に、50%~71%が5年以内に廃業している事実にもかかわらず、起業家への調査では、自分がやるベンチャービジネスが成功する確率は平均81%と言っています。さらに、同じような事業を他人がやったら成功する確率は59%と答えています。

 このような過信には様々な原因があるといわれていますが、人は本来、不確実な判断を甘くする傾向にあることも一因です。全く知識のない質問に対して、正解が収まるであろう上限と下限(例えば、マドリッドとバグダットの直線距離について、5,000km~10,000kmの範囲と回答するなど)で答えてもらう実験が過去に多く行われています。被験者は、自分の自信の程度に基づいて、回答した範囲に正解(真の値)が入る確率が90%になるように、範囲を答えるように言われます。もし回答者全員が正しく判断ができた(即ち、自信の過剰も過小もない状態)とすると、回答の範囲内に正解が収まる割合(正答率)が90%になるはずです。ところが、多くの実験では正答率は30%~40%となっています。例えばある研究者が、10問の問題を1200人以上に実施した結果、正解率は38%でした。別の調査でも、80回以上の同様のテストで、正答率が37%という結果が報告されています。つまり、対象者が回答した幅は、あるべき回答より狭くなっており、自信の過剰を示唆しているのです。

 私が行った実験でも、これに近い結果を得られました。まず、ある事業計画のケーススタディを読んでもらいます。その中には利益を左右するいくつかの要因が、各々ある範囲で変動することが示されています。参加者は、Excelで作った損益計算書を用いて、利益を検討してもらいます。回答は、最も利益が大きい場合と最も小さい場合を想定して、範囲で答えてもらいます。一方、この損益計算書を用いて利益に影響する要因をランダムに変動させたコンピュータ・シミュレーションを行い、利益の範囲を求めたところ、回答者の答えた範囲は、取り得る利益の幅の37%、すなわち正答率37%になりました。

 このような不確実性の判断実験をどこでやっても、たいだい35%前後の正答率が得られています。紙面の関係でこの理由の研究について紹介することはできませんが、とりあえず不確実なことに対する人の判断は35%前後しか当たらないことを前提にしたほうがいいかもしれません。ちなみに、日経平均の12月22日終値は、8720円ですが、一月後の株価を、ある人が90%の正答率と確信して±1000円と予測したとします。しかし、もしその人の自信が大きすぎ、±1000円の正答率が実は35%だったとすると、本当の90%の正答率にするには±2500円と言わねばなりません。範囲だと、6223円~11223円・・・いやはや過信は怖いですね(注:株価の確率分布を正規分布と仮定しています)。

 ところで、インテグラートの製品の効果をひとつ宣伝させてください。ここで紹介した事業計画の実験で、損益計算書をExcelではなく、デシジョンシェアのWhat-If分析ができるようにして渡したところ、回答の範囲はシミュレーション結果と比べて90%となりました。デシジョンシェアが過信を少なくする効果があるのではないかと期待して、さらに実験をするつもりです。

(北原 康富)