弊社では、弊社顧客に役立つヒントを求め、ほぼ毎年海外で情報収集を行っています。先日は、弊社顧客の多くを占める製薬企業の新製品開発に役立つのではないかと考え、アメリカでファーマ・コンペティティブ・インテリジェンス(Pharma Competitive Intelligence)というテーマのカンファレンスに出席してきました。製薬会社・バイオ企業等がコンペティティブ・インテリジェンスという分野について、発表し議論も行う3日間のイベントです。

コンペティティブ・インテリジェンスとは、ライバル会社の研究開発・販売等の情報を自社の活動に利用する取り組みです。インテリジェンスという言葉には、スパイ活動によって得られる情報という意味合いもありますが、このイベントで議論されていたのは、もちろん合法的に得られる情報が対象です。コンペティティブ・インテリジェンスは、他社との競争に負けない製品を開発する、他社の先手を打つ、など、他社との差別化が主な目的です。

また、欧米ではカンファレンスというイベントが年中各地で開催されています。製品開発やマーケティング、サイエンスのトピックなどをテーマとし、一つの発表は30分~1時間程度で、発表者は企業の実務担当者やコンサルティング会社です。発表者の数が多いセミナー、とも言えます。各企業の実例が発表されることが多く、テーマに関するトレンドを知るには良い機会です。何故各企業が実例を発表するのかというと、一つはその企業の宣伝であり、また一つには発表者のキャリアづくりにもなっているようです。人気のあるテーマは第n回、というように毎年カンファレンスが行われます。

さて、ファーマ・コンペティティブ・インテリジェンス・カンファレンスに参加して強く印象に残ったのは、ライバルの情報を集めることに関する各企業の意欲の高さです。約300名の参加者が発表に耳を傾け、議論して意見交換をしていました。競争に勝つ、他社と違うことをする、という強い意志を感じました。

例えば、ウォー・ゲーム(War Game)に関する発表がありました。ウォー・ゲームは、新製品の発売時や、技術開発の方向性を決定する際に、ライバルが取るであろう行動を想定して、自社の行動を検討するものです。基本的な進め方は、自社とライバル企業の2グループに分かれて、ある想定に基づき、相手の行動に対して自社が勝つための行動を考えます。コンペティティブ・インテリジェンスは、その想定の確からしさを実際に調べる情報収集活動なのだそうです。まさに戦争のようですね。欧米の製薬業界の競争の激しさを垣間見た気がします。

また、インターネットを活用して求める情報を選別して配信するサービスや、分野別に情報をデータベース化して提供する業者など、コンペティティブ・インテリジェンスを支援する企業サービスも多数発表されていました。

もうひとつ印象に残ったのは、コンペティティブ・インテリジェンスという業務の位置づけに悩んでいる姿でした。

例えば、コンペティティブ・インテリジェンスを担当する部署は社内のどこにあるのが良いのか、という議論がありました。製薬会社世界最大手のファイザーでは、独立した部門として存在していますし、同じく大手のメルクでは、他社との提携窓口部門(Business Development)の中にあり、また他の会社では、製品開発部門の中にあったり社内で分散していたり、と様々でした。社内のどこにあるのが良いのかは、目的が明確であれば自ずと決まって来るはずですから、コンペティティブ・インテリジェンスを何に役立てるのかは、各社各様工夫しているというのが現状のようです。

また、コンペティティブ・インテリジェンスの重要性を説明するために、他社との競争を考慮しない製品開発や販売計画が、いかに他社の攻勢に対して脆いものであるかを、「コンペティティブ・インテリジェンスの謎めき」というタイトルで紹介し、コンペティティブ・インテリジェンスの認知を高めようとする発表があり、好評を博していました。ディスカッションでは、自分たちの仕事は重要なはずなのに、なかなか社内で認められない、という切実な発言もありました。

このようにコンペティティブ・インテリジェンスの在り方や意義が議論されている背景には、コンペティティブ・インテリジェンスが単なる情報収集業務ではなく、得られた情報に対して必要なアクションを立案する業務とみなされつつある傾向があるようです。一つの原因には、インターネットの普及によって情報収集が以前よりも容易になったことがあると思われます。情報収集が容易になった分、情報をどのように役立てるかという頭脳労働が求められているわけです。しかし、その頭脳労働は誰の担当なのだろうかという論点が、組織内の担当部署に関する議論であったり、コンペティティブ・インテリジェンスの重要性という発表に現れていたと思います。

コンペティティブ・インテリジェンスへの対応が各社異なるのは、ライバル企業のような外的要因に対して柔軟な対応を要求する非定型業務について、どこまで経営資源を割くかという考え方の違いなのでしょう。コスト重視の昨今の風潮下では、組織効率を徹底的に追求すると、明確な成果を測定しにくい非定型業務は軽視されかねません。

総じて言うと、コンペティティブ・インテリジェンスはアメリカにおいても未だ位置づけや業務内容が議論の対象となっており、発展途上にあると言えるようです。ファーマ・コンペティティブ・インテリジェンス・カンファレンスも、昨年始まったところで、今年は第2回でした。

日本企業の多くも当然ながら厳しい競争に直面しており、コンペティティブ・インテリジェンスは重要性を増してくるものと考えます。既にお取り組み中の企業、これから検討される企業等、日本でも様々かと思いますが、本コラムの情報がご参考になりましたら幸いです。

(小川 康)