前回私は、「中長期の戦略は、なぜ実現できないのか」と題して、アメリカのコンサルティング会社マラコン社のマイケル・C・マンキンス氏とリチャード・スティール氏が、ハーバードビジネスビュー誌に発表した論稿「戦略と業績を乖離させない7つの法則(Turning Great Strategy into Great Performance)」をご紹介しました。
http://www.integratto.co.jp/column/111/

 また、その前には、「PDCAとインテグラート」と題して、PDCAとインテグラートが基礎とする方法論の一つ「仮説指向計画法」との親和性をご紹介しました。
http://www.integratto.co.jp/column/106/

 今回はこれらに関連して、実際に戦略を実践に移し、PDCAを回していく場面で登場する様々なキーワードのうち、「コントローラー」「管理会計」に焦点を当てて、コラムを書こうと思います。なぜなら、後述しますが、これらキーワードはインテグラートの提供するソリューションと非常に親和性が高いと考えるからです。

 近年、企業に戦略的価値をもたらし得る存在としてのCFOへの期待が高まっています。価値をもたらす具体的な方法は「財務データ分析を、利益性の高い成長実現や新たな業務モデル考案のために活用する」ことや「予測能力を向上させる」ことなどです(注1)。実際には、これを一人ですべて解決するわけではなく、CFOの下には、様々な役割を担う人が居ます。例えば、スリーエム ジャパン株式会社の場合(注2)、CFOは「情報システム部」「経理部」「財務部」「内部監査」「総務部」「ビジネスカウンセル」を統括しています。「経理・財務を行うチームとビジネスカウンセルチームが両輪となって経営と事業部をサポートして」、戦略を業績に結びつけているのです。
 「ビジネスカウンセル」という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、スリーエム ジャパンの昆氏は次のように述べています(注3)。

 「米国の産業界では歴史的に経理・財務を行うチームには、『コントローラー』と『トレジャラー』という役目を担う人たちがいました。コントローラーは会計帳簿や計画、事業の予算管理を行い、事業部をサポートしながら株主への財務報告までを担当する人たちです。一方、トレジャラーはトレジャリー、資金管理を行う人たちです。コントローラーは会計帳簿とビジネスサポートの2つの役割を兼ねていました。(中略)しかし、米国で2002年のITバブルが弾ける前に、株式市場からの圧力が高まり、外部への財務報告業務の作業量が膨大になっていきました。一方、ビジネスの現場ではスピードが早まり、変化し続ける環境への対応に苦心するようになっていきます。そうなった時に、株式市場からの要請に応えていく仕事と現場のビジネスをサポートする仕事を同じ人材で行うことには無理があるという考えがでてきました。そこで、コントローラーから計画策定や予実管理などのビジネスサポート機能を切り離して生み出されたのがビジネスカウンセルです。言い方を換えると、コントローラーは過去の数字を管理し、ビジネスカウンセルは将来の数字を一緒に検討する役割を担っているとなります。(中略)日本企業の場合、そもそもコントローラーの存在がはっきりとはしなかったためにビジネスカウンセルの意味がうまく理解されません。ビジネスカウンセルは、日本では経営企画部、経営管理部という別組織として存在しているものに近いかもしれません。」

 『管理会計のエッセンス』によれば、管理会計の目的である「計画策定、コントロールおよび意思決定に必要な情報を提供する責任者」は、多くの組織においてコントローラーであり、「企業活動の計画設定と評価のための報告(たとえば予算や業績報告)を用意し、経営意思決定(たとえばオフィス設備の調達や製品ラインアップの決定など)に必要な情報を提供する。また、財務会計報告、税申告や税務当局とのやりとり、外部監査役に対する調整などに責任を持つ」(注4)とあります。

 ここで整理すると、コントローラーは会計帳簿や計画、事業の予算管理、事業部のサポート、株主への財務報告等を担当する責任者です。別の言い方をすると、コントローラーは管理会計と財務会計、双方を担っている。内部の意思決定等に活用し企業を成長させていくという目的と、ルールに従って外部へ報告するという目的を同時に担う非常に重要なポジションです。役割が多く、同じ人が対応できない場合もあるので、組織によってはその一部を切り離して、別の部門として存在させていることもあるということです。

 さて、ここでインテグラートのソリューションと結びつけて考えてみます。インテグラートは、CFOの方々へ武器を提供できると考えています。ここからは個人的な考えですが、もう少し掘り下げて言うと、CFOの方々が統括しているコントローラー部門のうち、「管理会計」を担う方々に武器を提供することができるのではないかと思います。一番の理由は、管理会計が過去ではなく未来を見るという点で、インテグラートの基礎としている方法論「仮説指向計画法」と合致するのではないかと考えるからです。仮説指向計画法の詳細は、以下の記事(注5)をぜひご一読いただければと思います。
「戦略投資とファイナンス(第4回)」http://bizzine.jp/article/detail/134?p=4

 「決算書にもとづいて経営するというのは、バックミラーを見ながら運転しろといわれているよう」(注6)だと感じている方には、是非インテグラートのソリューションを知っていただきたいと思います。
 今回は、様々な文献にあたって、「コントローラー」「管理会計」について述べてきましたが、実際にこれら業務に携わっているという方がいらっしゃいましたら、是非ご意見・ご感想をいただければ幸いです。

(松下 航)

注1:KPMG、フォーブス・インサイトの共同調査レポート「The View from the Top ~CEOの高まる期待にCFOは応える準備ができていますか~」(2014年9月~10月)ご参照
http://www.kpmg.com/jp/ja/knowledge/article/research-report/pages/view-from-the-top.aspx

注2、3:IBM グローバル経営層スタディ2015「3Mに見るイノベーションを起こし続ける企業におけるCFOと経理・財務部門の役割」ご参照
http://ps.nikkei.co.jp/cxostudy/3m/

注4:ワシントン大学フォスタービジネススクール『管理会計のエッセンス』、2015、同文館出版

注5:株式会社翔泳社発行、Webマガジン「Biz/Zineビズジン」の連載「戦略投資とファイナンス(第4回)」

注6:金子智朗『ケースで学ぶ管理会計』、2014、同文館出版