みなさん、はじめまして。今回コラムを執筆いたしました松下と申します。筆者はインテグラートの提唱するビジネスシミュレーション(以下、「BS」とします)や、BSの基礎とする経営理論がみなさんにとって有用であることを確信して、日々邁進しております。
 本コラムでは、みなさんに馴染みのあるPDCAとの関連性から弊社の考え方をご紹介できればと思います。以下ではまず、BSと、BSが基礎としている二つの理論についてごく簡単にご紹介します。次に、PDCAの考え方を整理し、PDCAを回していく際にどのような問題があるのかを、事業の現場に焦点を当ててご紹介します。その後で、BSが基礎としている理論のひとつである仮説指向計画法を少し掘り下げて説明し、事業の現場において「PDCAを回す」際に、有効に活用できることをお伝えいたします。弊社の考え方に少しでも興味を持っていただければ幸いです。

 早速ですが、インテグラートはBSという方法論とそれを実現する為のソフトウェア&コンサルティングを提供しています。BSとは、未来のゴールから、どうすればゴールを達成できるかを考える手法です。過去の延長で考えるのではなく、目標達成に必要な行動を検討し実行していく方法論です。BSは二つの経営理論を基礎としています。仮説指向計画法(Discovery Driven Planning、以下「DDP」とします)と戦略意思決定手法(Strategic Decision Management、以下「SDM」とします)です。DDPはペンシルバニア大学ウォートンスクールのイアン・マクミラン教授とコロンビアビジネススクールのリタ・マグラス教授が考案した事業計画手法です。SDMは、スタンフォード大学のロン・ハワード教授によって考案されたデシジョンアナリシスを基礎理論とする意思決定手法です。

 ここでPDCAの考え方について整理してみます。PDCA は、品質管理に対する関心の高まりから生まれました。品質管理に統計意的手法を導入した統計学者、ウォルター・シュワート(Walter A. Shewhart)と、エドワーズ・デミング(W. Edwards Deming)によって生み出されました。彼らの名前をとってシュワート・サイクル(Shewhart Cycle)またはデミング・サイクル(Deming Cycle)とも呼ばれています。この理論は,Plan(計画),Do(実施),Check(点検・評価),Act(改善)を行い、継続的な品質改善を目指す管理手法です(注1)。Plan、Do、Check、Actの頭文字を取って「PDCA」です。「PDCAを回す」という言葉をよく耳にしますが、これは、PDCAPDCA……と繰り返すことです。しかし、事業計画の現場において「PDCAを回す」となると、「それは確かにそうした方が良いとは思うが、結局のところどうすれば良いのやら…」と思われる方も少なくないのではないでしょうか。

 経営共創基盤の安井元康氏は同社の発行する「IGPIレポート」(注2)にて、PDCAが回らず事業計画が陳腐化する背景には「事業計画の位置付けが以前とは変わってきている、という事実がある」として以下のように述べています。

「事業環境が安定又は右肩上がりの状況ではノルマや達成目標としての静的な計画の策定に意味がありましたが、昨今の様に事業環境が激しく変わる状況では『仮説検証ツール』としての動的な計画策定が求められます。すなわち、事業環境が変わる事を前提としつつも、変わった際にどの様な影響が出るのか、どうすれば良いかが瞬時に把握できる計画の策定が求められているという事です。」

 では、このような変化する状況に合った「仮説検証型の計画を策定するにはどうしたら良いか」。安井氏は、この問いへの対処法のひとつとして「外部・内部環境のどの様な要因が自社の売上や利益に影響を及ぼしうるのか、事業計画の前提は何か、を徹底的に議論し経営環境と収益構造を理解した上で社内共通言語として数値構造化し、あるべき指標管理等の体制を構築する」ことを挙げています。これが為されていれば、「どの前提条件が崩れたため結果としてどういった影響が出たのか把握が容易になり、打ち手も明確化されます」。逆にこれが為されなければ「計画の至る箇所で対象部署にしか分からないブラックボックスが出来上がり」、なぜそれが起こったのかという検討ができず、組織的学習の蓄積も行われません。結果として「PDCAを回せない」のです。
 まさにこうした課題に頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。こうした課題に立ち向かうには、収益構造を可視化して共有した上で、「こうすればこうなる」ということをとことん考え、計画が実行に移された後は学習しながら、柔軟に目標到達を目指すことが必要ではないでしょうか。これは、DDPの考え方そのものです。さて、以下ではDDPを少し詳しくご紹介し、この問題に対処する為に有効活用できることをお伝えできればと思います。

 DDPは二つの柱で構成されています。逆損益計算法とマイルストン計画法です。逆損益計算法は、収益構造を可視化し、仮説を洗い出します。例えば、利益は収入と費用の差、収入は売上単価と獲得契約数の積、費用は開発費、製造原価、販管費、初期投資の和というように分解します。目標を達成する為に必要な具体的行動についての議論・検討を可能にすることが目的です。これらの分解した確定していない各要素を仮説と呼びます。逆損益計算法で因数分解して洗い出した仮説は未来のことなので外れていきます。そこで、いつ、どの仮説を、どのように検証するのかをあらかじめ計画しておき、仮説検証から学習するタイミングを逃さないようにするのがマイルストン計画法です。実は、PDCAの提唱者であるデミング博士も、後に学習することの重要性を考慮して、PDCAのCをS(Study)に変えたPDSAという考え方を述べています。「単なる点検・評価ではなく、深く考察し、反省し、学び、共有する」ことの重要性を意識したようです(注3)。
 DDPを、PDCAと対比させて述べると次のようになります。逆損益計算法で実行に直結する計画を練る(P)。同時に、マイルストン計画法で仮説の検証タイミング、方法も予め考えておく。よく練られた計画を実行に移し(D)、検証する(C)。検証で外れてきた仮説に対して適切な処置を行う(A)。PDCAで学習したことを次のPDCAに活かす。
 「PDCAを回す」ためには、行動に結び付いた仮説を立て、行動の結果を検証し、検証で学習したことを再度仮説に落とし込み、次の行動に結び付けることが必要です。DDPはそれを実現する為に有効な考え方です。

 以上のように、DDPは「PDCAを回せない」という問題へ対処策としても有効に活用できるのではないでしょうか。インテグラートはこの優れた方法論に基づいたソリューションを提供しています。また、それを効果的に実現する為のソフトウェアも提供しています。「PDCAを回せなくて困っている」という方や、「インテグラートの方法論(BS、DDP、SDM)に興味があり、より詳しく知りたい」という方は弊社社長の小川が株式会社翔泳社のWebマガジン「ビズジン」にて執筆いたしました以下の記事(注4)をぜひご一読いただき、ご意見を頂戴できれば幸いです。
「戦略投資とファイナンス(全7回)」http://bizzine.jp/article/corner/17
(第4回が「仮説指向計画法」、第5~7回が「戦略意思決定手法」に関する記事です)

(松下 航)

(注1)PDCAについて詳しくは以下の文献をご参照ください。
・由井 浩著『日英米企業の品質管理史【高品質企業経営の原点】』、2011、 中央経済社
・熊本大学発行、アドミニストレーション18,「PDCA考」、2012

(注2) 株式会社 経営共創基盤発行「IGPIレポートvol.12」の「事業計画策定に 向けた組織力の高め方」

(注3)PDSAに関して詳しくは以下の文献をご参照ください。
・由井 浩著『日英米企業の品質管理史【高品質企業経営の原点】』、2011、 中央経済社
・ドミニコ レポール、オデット コーエン著;三本木 亮訳『二大博士から経営を 学ぶ―デミングの知恵、ゴールドラットの理論―』、2005、生産性出版

(注4)株式会社翔泳社発行、Webマガジン「Biz/Zineビズジン」の連載「戦略投資と ファイナンス(全7回)」