インテグラートは、2019年1月21日(月)に新システムDeRISK(デリスク)の提供を開始しました。名称のderiskは、リスクを下げるという意味の英語です。DeRISKシステムは、事業のリスクを低減し高いリターンを達成することを目的としています。今月のコラムでは、新システムDeRISKの発売にあたって、DeRISKがどのような課題を解決するのか、何を目指しているのか、ご紹介したいと思います。

 創業の1993年以来、インテグラートはリスクの高い事業の支援を行ってきました。インテグラートは、様々な事業が、どうすれば大きな失敗を避けられるのか、成功を達成できるのかをひたすら探求している企業です。その際、事実を観察するだけではなく、経営理論を活用していることが大きな特徴です。

 数多くの経営理論の中で、インテグラートが重視しているのは、仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning、以下DDPと略)です。DDPは、ペンシルバニア大学ウォートンスクールのイアン・マクミラン名誉教授と、コロンビアビジネススクールのリタ・マグラス教授によって開発された、事業の計画立案と管理を支援する方法論です。事業は、事業の成功に必要な条件(これを仮説と呼びます)が外れると失敗する、と整理し、仮説を明確にすること、及び、仮説の外れに対応することが必要、とする考え方です。筆者は、マクミラン教授の研究センターで2年間勤務していた経験から、今も両教授の指導を受け、理論の実用化に努力しています。

 このような理論面と、リスクの高い事業に関する長年のコンサルティングから、以下の3つの重要課題が明確になりました。

課題1:計画の数字を見ているだけでは、リスクについては何もわからない

課題2:リスクがあるということは、いずれ計画の修正が必要になる

課題3:時間軸が長い事業は、同じ失敗を繰り返しやすい

 この3つの課題は、単純に見えながら、企業内部の業務プロセスに関係することから解決が難しく、度々大きな失敗の原因になっています。また、誰にもできない、という難しさではなく、問題なく業務をこなす方と、そうではない方が混在する難しさです。

 DeRISKは、この3つの課題の解決手段を提供します。

 まず、課題1の解決には、数字に加えて、数字を説明する仮説をシステムに記入する仕組みにしました。例えば、事業部門には「2025年のEV(電気自動車)のシェアが5%だったら、この部品の市場規模は100億円を見込む」と説明を記入してもらいます。この説明を受け取った管理部門は、「シェアは、普及率ですか、新車販売率ですか?市場は日本ですか、グローバルですか?」と質問し、リスク評価の精度を高めていく業務プロセスを提供します。どうしたらリターンが高くなるか、管理部門が事業部門に追加投資の可能性を問いかけることも大切です。DeRISKは、このように、数字と、数字の意味(仮説)を説明するテキストの両面を重視する設計です。

 更に、Excelに書かれている計算式をDeRISKが解析して可視化する機能が、生産性の向上に大いに効果を発揮します。事業のリスクに関する理解を深めるために事業計画のExcelを読み解くことは、集中力と時間を要し、多大な労力を費やす業務です。本来は、読み解いたExcelから利益構造を理解したうえで、問題点や改善策を検討しなければならないのに、Excelに計算間違いがないか確認したあたりで力尽きてしまう、または、時間切れになってしまうことが現場ではよく起きています。DeRISKは、Excelの解析と可視化のように生産性を高める機能を多く備えて、事業部門と管理部門の双方が、より高度な業務に専念することを支援します。

 課題2の軌道修正は、多くの企業にとって比較的新しい問題です。計画は立案したら目標必達を目指す、ということは当然のことであり、従来はそれだけでうまくいくこともありました。しかし、時代は変わりました。変化の激しい事業環境に対応するために、計画の修正が求められる時代になったのです。

 DeRISKは、計画の変調に早く気づくように設計されています。世の中の一般的な計画系システムは、売上・利益といった結果に基づいて変調を判断しますが、結果が出てからでは既に手遅れになっている可能性があります。早く変調に気づくために、DeRISKは、仮説を管理します。例えば、先ほどの「2025年のEVのシェアが5%だったら」という仮説を継続的に確認します。具体的には、EV市場に関するニュースが出たら、事業部門と管理部門の両方に、見直す必要はないですか?というアラートを出し、素早く次の一手を打てるように促します。このアラートへの対応や、仮説の修正に関して、履歴をシステムに残していきますので、途中で担当者が変わったとしても、継続的なマネジメントが可能になります。

 課題3に対する、同じような失敗を繰り返さない仕組みづくりこそ、ITシステムの得意分野です。DeRISKは、自然言語処理のAIを搭載しており、「検討している案件は、2015年の案件Cに似ています」という意思決定のヒントを示したり、管理部門に対して、過去の質問と回答をヒントとして示したりします。毎年・毎月繰り返す業務は学習機会が多いのに対して、時間軸の長い事業は、反復による学習機会が少ないうえに、人事異動によって知識・経験が分断されがちです。DeRISKは、記載された知識・経験や検討経緯・変更履歴を蓄積しますので、管理部門から事業部門へ、大きな失敗を避け、より高いリターンを目指す助言も可能になります。

 DeRISKは、リスクの高い事業に関して上記のような課題を明確にし、その原因は、人によってリスクの捉え方と伝え方、そして受け取り方が異なる、という現実を踏まえた、人間らしさを考慮した新しいシステムです。

 今後、DeRISKは、各企業で蓄積した知識・経験に基づく、腹落ち感の高い予測システムに発展していくことを目指しています。知識・経験の蓄積と活用によって、事業の成功確率を高めていく仕組みが実現すれば、各企業の持続的成長に大きく貢献します。

 また、リスクテイクが業務として成熟していくことが重要です。企業によっては、事業部門が事業のリスクを管理部門に伝えることをためらってしまう問題が起きています。しかし、リスク情報が共有されなければ、適切なリスクマネジメントは出来ません。DeRISKは、リスクテイクについて、やるべき業務はしっかりと運用されており、利益も損失も適切なリスクテイクの結果であることを、業務として保証するような仕組みづくりを目指しています。リスクテイクの業務プロセスを明確化し、やがて業務監査の対象になれば、業務として一定の成熟度を達成したと言えるでしょう。

 企業内部において、リスクテイクとリターン実現の業務プロセスを改善することは、コーポレートガバナンス・コードにおいても、重要な取り組みと位置付けられています。社外取締役や投資家に対して、企業内部のリスクマネジメントが適切に運用されていることを示すシステムとしても、DeRISKは貢献します。例えば、管理対象の案件の状況を一覧画面で確認できるDeRISKの機能を活用すれば、いつでも経営陣がリスクモニタリングできるようになります。報告資料を都度作成する必要がなくなりますので、管理部門スタッフの生産性も改善します。

 リスクの高い時代にどうすればよいのか、DeRISKは具体的な手段を提供いたします。事業のリスクを低減し、高いリターンを達成するために、是非DeRISKをご活用ください。

 皆様の事業の成功に貢献して日本経済発展の一助となり、ひいては輝く未来社会創出の一端を担うことを、インテグラート社員一同心から願っています。

(小川 康)