Plans are worthless, but planning is everything.
 計画に価値は無いが、計画を立てることはとても重要である(筆者訳)、とは、アメリカ合衆国第34代大統領であるアイゼンハワー大統領の言葉です。

 一見矛盾しているようにも見える言葉ですが、皆さんはどのように感じますでしょうか?

 変化の速い時代では、最初に立てた計画を最後まで変更なく実行してうまくいく、ということは滅多にないことかと思います。そのため、過去に立てた計画に固執する価値は無く、変化に対応して計画を立て続けることが重要である、ということだと筆者は感じました。
しかし同時に、計画は一度作るのも大変なのに、立て続けるなんて負担が大きいことだとも感じます。

 そこで、本コラムでは、計画を立てる際に役立つ考え方や手法について紹介したいと思います。参考にした書籍は、計画技法の第一人者である加藤昭吉氏の著書『「計画力」を強くする』、芝本秀徳氏の著書『誰も教えてくれない計画するスキル』、制約条件の理論で有名なエリヤフ・ゴールドラット博士の著書『クリティカルチェーン』の3冊です。

・計画を立てることの目的
 計画を立てることで何が得られるのでしょうか?芝本氏は計画を立てることで以下の4つが得られると整理しています。
①実現可能性がわかる
②迷いなく行動に移れる
③コミュニケーションが取れる
④変更ができる
 筆者は③が特に重要だと思います。計画を作ったらすぐに実行する、ということではなく、作った計画を基に関係者間でコミュニケーションを取り、必要に応じて④変更を行うことで、①実現可能性を実感でき、②関係者が迷いなく行動に移れるようになるのではないでしょうか。

・計画を立てるステップ
 計画を立てる、というのはどのような順番で何をすることなのでしょうか?芝本氏が整理している7つのステップがとても分かりやすいと思いますのでご紹介します。

ステップ1 要求理解「何が求められているのか?」
      手法:オーナー要求整理シート
ステップ2 プロジェクト定義「何をするのか?」
      手法:プロジェクトチャーター
ステップ3 成果物定義 「何を作るのか?」
      手法:WBS(Work Breakdown Structure)
ステップ4 マイルストーン定義「いつまでに、どこまで終わらせるのか?」
      手法:マイルストーンチャート
ステップ5 プロセス設計「どのように進めるのか?」
      手法:PFD(Process Flow Diagram)
ステップ6 スケジュール化「何を、いつするのか?」
      手法:ガントチャート
ステップ7 タスク化「どんな作業があるのか?」
      手法:モニタリングシート

 筆者は計画を作ると言えばガントチャートを作ること、と考えていましたが、上記のステップではガントチャートはステップ6とほぼ最後に実施する内容となっています。この点について、芝本氏は以下のように述べており、非常に耳の痛い思いをしましたが皆さんはいかがでしょうか?
「多くの現場では「スケジュールといえばガントチャート」といった感じで、いきなりガントチャートを作るケースが多い。でも、いきなりガントチャートで計画を立てても、機能しません。(中略)オーナー要求とのズレによって手戻りが発生したり、成果物の見落としがあったり、プロセスの依存関係が成立していなくて「待ち」が発生するなど、次から次へと計画の修正を迫られてしまう。結局、「また変更しないといけないなら、修正してもしょうがない」と、計画そのものを放棄してしまう。」

 また、芝本氏は、「どんなプロジェクトでも7ステップすべてをやらないといけないというわけでもありません。プロジェクトの規模・新規性に応じて、どこまでやるのかを選択します」と述べています。
 仕事によって、計画の中身は違ってくると思いますが、計画の作り方には仕事によらない共通する方法があると感じます。計画を作るための自分なりの全体ステップを持っておき、仕事によってどこまで作るかを使い分けられるようにすれば、計画を作る、ということの負担感が軽くなるのではないでしょうか?芝本氏の著書では上記のステップ1つずつが具体的な手法と共に説明されていますので、詳しく知りたい方は、是非、芝本氏の著書をご確認いただき、自分なりの全体ステップを作り上げてみてください。

・逆算思考と積上げ思考を繋げる
 逆算思考とは、目的・目標を達成している状態から考え始め、現在に向かって時間軸を戻していく思考方法です。一方、積上げ思考とは、今できることは何か、まず実施すべきことは何か、という現在から考え始め、目的・目標の達成に向けて時間軸を進めていく思考方法です。
加藤氏は、計画が失敗する理由について、「“終わり”からの逆算ができていない」ことや「計画の目的・目標がはっきりしていない」こと、「目先の問題解決を積み重ねただけの計画になっている」こと等を挙げています。また、芝本氏も、「真っ先にゴールイメージを共有する」、「計画を立てる時の鉄則は「段階的詳細化」」と述べており、両氏とも逆算思考の重要性を強調していると感じます。

 ただし、著者の経験からすると、逆算思考は実施できると効率の良い考え方である一方、時間を巻き戻しながら考えるという方法が日常の感覚とは馴染みにくく、ややハードルの高い方法であるようにも感じます。
 筆者が計画を作る際は、逆算思考から考え始めますが、行き詰ったらすぐに、直近で実施できそうなことは何か、と積上げ思考に切り替えます。そして積上げ思考で考えていく中で、「この後は何をしたらいいんだろう?」と行き詰る時が来たら、再度逆算思考に戻ります。すると、最初に逆算思考で考えた時に行き詰った部分に戻ることになりますが、最初よりも計画の中に情報が増えていることで、計画を作り進められることが多いのです。
 時には、逆算思考も積上げ思考も両方行き詰ってしまうこともあります。その時は、目を閉じ、計画の中の行き詰っている状況になった自分がどのように動いているかを想像します。メールを書いている、打合せをしている、WordやExcel、Power Point等を作っている、のように実際に動いている自分を想像してみると、次にするべき行動や、その動きをするために足りていない情報があることに気づけることがあります。
 このように、逆算思考と積上げ思考を交互に繰り返し、最終的にはそれらを繋げます。粗くても繋げることが重要です。現在から目的・目標までが繋がってさえいれば、関係者と共有した際に、目的・目標がずれていないか、大枠のスケジュールが実現可能かどうか、といったコミュニケーションを取ることができ、関係者の意見を反映させることでより現実的な計画に変更することができるでしょう。

・学生症候群とパーキンソンの法則
 ゴールドラット博士は、期限ぎりぎりにならないと作業に取り掛からないことをStudent syndrome(学生症候群)と名付けました。筆者含め耳が痛いと感じる方は多いのではないでしょうか?
 また、パーキンソンの法則の第一法則には「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」というものがあります。期限より少し早く終わっても、早く提出せずに、少しでも精度を高めようとすることで、結局期限ぎりぎりに提出することになるということです。
 これら2つによって、計画を立てた時には1つ1つのタスクに余裕を持たせたスケジュールで作ったとしても、計画全体が前倒しで進むことは起こらなくなります。そして、タスクによってはトラブルや見込み違いによって計画よりも長引くことがあるため、結果として、計画全体が後ろ倒しになってしまうのです。
これら2つの対策として、計画を立てる際に1つ1つのタスクに割り振る時間は、できるかどうかぎりぎりの設定を行い、期限に対して余った時間は仕事全体の余裕として管理する手法が有効です。

・まとめ
 計画は一度作ったら後はその通りに実行するのみ、ということではなく、関係者とコミュニケーションをとるために使い、作り直し続けることが重要です。
 計画を作る、ということの自分なりの全体ステップを持ち、仕事によってどこまで作るかを使い分けることで、計画づくりの負担感が減るはずです。
 計画を作るにあたっては、逆算思考を基本としつつ、行き詰ったら積上げ思考に移ることで、計画づくりが進みやすくなります。また、スケジュールを見積もる際は、1つ1つのタスクに余裕を持たせるのではなく、1つ1つのタスクはぎりぎりの時間設定を行い、仕事全体で余裕を管理すると、計画全体の後ろ倒しを防ぎやすくなります。

参考文献
加藤昭吉『「計画力」を強くする』講談社
芝本秀徳『誰も教えてくれない計画するスキル』日経BP社
エリヤフ・ゴールドラット 著、三本木亮 訳『クリティカルチェーン』ダイヤモンド社