米国企業にはFP&A (Financial Planning & Analysis)という職種があります。日本でも関心のある方が増えてまいりました。本稿では、FP&Aのよいところは何か、どうすれば日本企業でもよいところを取り入れていただけるのかを提案したいと思います。

1.FP&Aビジネスパートナーとは

日本企業では次のような業務にあたっている方々が、FP&Aと言えます。

・ 経営企画部門で戦略策定、中期経営計画策定、予算管理、投資管理などを担当されている方
・ 事業企画・事業管理部門で戦略策定、中期経営計画策定、予算管理、投資管理、意思決定支援などを担当されている方
・ 経理部門で予算管理などの管理会計を担当している方
・ ほかにも企業の様々な部門で計数管理、予算管理、経費管理、業績管理会議の運営などをされている方

上記のような業務にあたっている方々が企業の様々な部門にばらばらに存在しているのが日本企業の特徴です。

米国企業では、このような方々が「FP&Aビジネスパートナー」としてCFO配下にいます。「FP&Aビジネスパートナー」はこのような人たちです。

・ 会計とファイナンスのプロフェッショナルとしての客観的視点を持ち、
・ CFO組織に属して全社視点をもって
・ 経営者や事業部門責任者の近くに席をおいて
・ クロスファンクショナル(部門横断的)チームの一員として信頼され
・ 事業をよく理解して
・ 数字を報告するだけでなく、数字からインサイト(洞察・気づき)を得て、提案をして、
・ 支援する組織の業績目標達成を支援し、意思決定の質を高める

最近では、「FP&Aビジネスパートナー」に関心を持ってくださる経営者・事業責任者、経理や企画の方が増えてきました。本稿では、「FP&Aビジネスパートナー」が会社にいるとどのようないいことがあるのか?どのように実現すればいいのか、をご紹介します。

2.日本企業と米国企業の経営管理組織の違い

日本企業と米国企業の経営管理の組織の違いについて説明します。主に次の2点が大きく違います。

① 日本企業では経営企画と経理財務部門は別々であることが多いです。米国企業では、経営企画部門はなく、マーケティング、営業、サプライチェーン、CFO, CHROなどそれぞれの専門分野のトップが企画機能を持ちます。また、CFOがそのうち計数管理機能を持ちます。
② 日本企業では、事業部門にCFOの部下はいません。米国企業では、本社CFOの部下の事業CFOが事業部門の経営チームに参画し、その部下のFP&Aがマーケティング、営業、サプライチェーン、R&Dなどの機能部門の支援をします。

最近は「FP&Aビジネスパートナー」になりたい、と考える日本企業の経理・企画の個人の方が増えています。日本CFO協会などで、FP&A講座や資格検定、勉強会が始まっています。しかし、経理・企画の方々の個人の努力だけでは実現が進んでいません。FP&Aビジネスパートナーが活躍している米国企業とは違う組織体制の違いが、実現を阻みます。やはり、企業のトップの方、CFOの方にFP&Aについて知って組織改革を含めて動いていただかないと、変革・改革は進まない、と感じます。

3.日本企業の経理・企画部門でのお悩み

さて、CEO/CFOの方にどのようにFP&Aを知っていただけばよいのか。「FP&Aビジネスパートナー」がいると企業のどんな悩みが解決できて、どんないいことがあるのか?少し考察してみたいと思います。

こちらは、経理・企画部門でよくお聞きするお悩みです。御社でもこのようなお悩みがあるのではないでしょうか?

CFO/本社経理財務部門
・ 事業会社からもらった利益予測を集計してCFOと経営企画に提出するのが仕事だが、ホッチキスで止めて出しているだけになってしまう。もとの戦略や事業に詳しくないので、中身の説明ができない。事業会社にも細かいことを聞きにくい。
・ 本社として、事業部門への経営資源の最適配分の判断をするのが責務ではあるが、事業をよく知っているわけではないので難しい。
・ 事業会社の投資案件のNPV計算を見てあげる役目がある。コメントする権利はあるが、中身を変更してもらう権限がない。
・ 大きな投資案件は、ほぼ決まった状態でCFO決裁案件があがってくるので、今更反対しても止められないし、変更も難しい。
・ 経理の仕事は減っていくと言われている。ビジネスパートナーになって生き残りたいが、事業からは遠い状態でどうすればいいのか?

本社経営企画
・ 決算はやっていないので、実績の細かいところはわからない。
・ 事業部門の企画担当と話はするが、部下ではないので本当のところは聞き出しにくい。
・ 雑多な業務が多く、多忙。何がどこまでできればよいのか不明瞭。
・ キャリアパスが見えない。自分がなんのプロフェッショナルなのかわからない。

事業企画・事業管理
・ 自分の事業のことは詳しいが、ほかの事業はわからない。全社視点で考えられない。
・ 雑多な業務が多く、多忙。何がどこまでできればよいのか不明瞭。
・ PLは得意だがBS/Cash Flowには自信がない
・ 予算管理が主な業務で、意思決定の場面やプロジェクトには入れていない。
・ キャリアパスが見えない。自分がなんのプロフェッショナルなのかわからない。

事業経理
・ せっかく事業に近い場所にはいるが、実績の集計と報告が主な業務である。予実分析は、エクセルの数字の差を説明しているだけになってしまっている。事業を理解してストーリーを描きたい。
・ 事業部門の会議に呼ばれているが、実績の報告しかしてできていない。

社長・事業責任者
・ 全社視点で客観的なアドバイスをくれる会計・ファイナンスプロフェッショナルがほしい。
・ 自分の思い通りに動く部下ばかりでいいのか。

いかがでしょう。御社でも以上のようなお悩みが各部署で聞かれませんか。 

4.FP&Aビジネスパートナーでお悩みを解決しませんか

さて、これらのお悩みについて、米国企業の経営管理組織におけるFP&Aビジネスパートナーの働きによって、解決できるものがあるので紹介します。

・ 本社CFOが本社経営企画と経理財務の管理会計部分を統合、コーポレートFP&Aにする
・ 戦略策定から中長期事業計画、単年度予算策定と進捗管理を一貫して行う。

・ 事業CFOポジションを設置して、本社CFOと事業本部長の両方にレポートする
・ 本社と事業部門がつながる
・ 本社CFO/FP&Aが事業CFOを通じて事業部門のことを理解できるようになる。
・ 事業CFO/FP&Aは本社とつながって全社視点で事業を支援できるようになる。

・ 事業CFOの下にFP&Aビジネスパートナーを置いて、事業部門のマーケティング、営業、生産、開発などを支援する。
・ FP&Aビジネスパートナーは日々の事業会議に出て相談にのり、事業に詳しくなる
・ チームから信頼されるアドバイザーになる。
・ 他部門のFP&Aと交流し、全社視点を磨く。
・ 他部門にFP&Aとして異動・ローテーションし、経験を積みながらキャリアアップする。

・ FP&Aビジネスパートナーを、会計とファイナンスのプロフェッショナルに育てる。
・ FP&Aのジョブディスクリプションを明確にする
・ 必要な知識・スキル・コンピテンシーを明確にする
・ 会社のほかの部門でも、他社でも通用するFP&Aプロフェッショナルになる

米国企業がやっていることのすべてが、必ずしも日本企業の成長に役立つとは限りません。しかし、日本企業だけの特殊な状況が存在することは確かです。世界に目を向け、いいところは取り入れてみませんか。

最近は、組織変更を実現し、FP&A機能を高める準備を始める日本企業が出てきました。次は、本来の目的である、真のCFO/FP&A機能を利用して、企業価値を高めることができるよう、期待します。

ここには書ききれないFP&Aビジネスパートナーに関する情報がありますので、インテグラートの問い合わせページにご連絡いただければと存じます。

参考書:
昆 政彦・大矢 俊樹・石橋 善一郎. 2020.『CFO最先端を行く経営管理 』. 中央経済社.