こんにちは、インテグラートの春原(すのはら)です。小職は日頃コンサルタントとして皆様の新規事業創出のご支援をしながら、マーケティングも担当しております。今回のコラムでは、「現代最強マーケター」と呼び声高い森岡 毅氏が書き下ろし、本年2025年に出版され、既にAmazonの各種ランキングで1位を獲得している「確率思考の戦略論 どうすれば売上は増えるのか」 (注1)の書籍から、その書籍での主張の中心となる『売上拡大のために必要な「コンセプト」』について紹介させて頂きます。
 本コラムでは、「コンセプト」を創り出すために必要な「マーケティング・コンセプト」も併せてご説明し、さらに「コンセプト」を可視化させるフレームワークとしてブランド設計図「ブランド・エクイティ・ピラミッド」も概説します。また最後にインテグラートのコンセプトについても紹介させて頂きます。

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<1.売上拡大のために必要な「コンセプト」とは>
 本書では、一般的に用いられる広い意味での「コンセプト」と、マーケティングの世界で用いられる「マーケティング・コンセプト」を区別して表記しています。まずは広い意味でのコンセプトとは何なのかについて述べます。
 その人の「認識世界」において、あることに対してその人がどのように認識したのか? その対象について、脳内で認識された意味のことを、広い意味で「コンセプト」と本書では定義しています。もう少し解説すると、広い意味のコンセプトは、あなたが何かを認識したときに、あなたの脳がその対象について「要するにこういうことだ」と、まとめて「まるっと」つくりだした“意味づけ”のことです。

<2.「マーケティング・コンセプト」とはなにか?>
 広い意味でのコンセプトが、あるものに対してその人の脳がまるっとまとめた解釈(意味づけ、価値)のことだとご理解頂きました。その上で今度は、マーケティングの世界で使っているコンセプト、つまり「マーケティング・コンセプト」の意味を解説します。
 簡単にいえば、マーケティング・コンセプトは、人の頭の中にコンセプトを作らせるための道具です。もう少し専門的に表現すれば、マーケティング・コンセプトは、消費者の認識世界に自社ブランドに有利なイメージ(≒ブランド・エクイティ)を築く意図でつくられた“記号世界のツール”のことです。
 そして、マーケティング・コンセプトが伝わった結果として、消費者自身の脳が形成するコンセプト(意味づけ)こそが、ブランド・エクイティです。つまり、ブランド・エクイティは広義の意味のコンセプトそのものであり、消費者の脳内のみに存在する「認識世界」の住人ということになります。「記号世界」のマーケティング・コンセプトとは住んでいる世界が違います。
 つまり、最終的につくりだしたいもの(目的)が、「コンセプト(≒ブランド・エクイティ)」であること。そして、ブランド・エクイティをつくるための道具(手段)が、「マーケティング・コンセプト」であること。その2つの関係性は下記の通りです。

 マーケターの道具「マーケティング・コンセプト」
 (消費者にブランドを認識させるすべての仕掛け)
  ↓
 最終的に消費者の脳内で集積される「コンセプト」(=これがブランド・エクイティ)

 その2つは、木版画を作る時の「版木(型)」と、刷られて最終的に完成する「版画(絵)」の関係性と同じです。

<3.ブランドの設計図「ブランド・エクイティ・ピラミッド」>
 図1.Brand Equity Pyramidの基本フォーマット

 版木であり、道具であり、手段である「マーケティング・コンセプト」を作る目的である「ブランド・エクイティ(≒コンセプト)」をどのように考えて設計すれば良いかという核心について、本書に記載されている森岡氏の考え方の大枠を、以下にお伝えします。

 「ブランド・エクイティは、まず60点を確実に!」という点が、最初の森岡氏からのメッセージです。それさえあれば、たいていの戦場で中長期的に勝てるブランドを創っていけるでしょう。では、60点のブランド・エクイティとは何か?大まかに正しいブランド・エクイティがつくれているということであり、WHOとWHATそれぞれの選択、そしてその2つの組み合わせが大きく間違っていない、ということです。

 一方で、中には戦局によっては60点の設計ではそもそも構造的にどれだけ戦術的に頑張っても勝てない場面もあります。大ピンチでの大逆転勝利しか生き残れないような戦場では、グッド・ストラテジーでは不十分で、グレート・ストラテジーが成功の必須条件なのは日常茶飯事です。
 まずは60点をしっかりとれるようになった後に、次のステップに進んでいくためには、チーム能力において、さらに2つの要素を意図的に伸ばしていく必要がある、と森岡氏は考えています。

 1つ目の要素は高度な“戦略発想力”。これは修羅場を踏んだ経験の質と量によって伸びます。一朝一夕に身につけることはできません。どんなに生まれつき頭脳明晰な人でも、いくら本だけ読んでも、質の高い実戦経験を積まないことには身につきません。
 “戦略発想力”を要素別にさらに分解すると、主に以下の4つの能力が相乗的に働くことで戦略発想力は発揮されると考えています。どれも重要ですが、最初の消費者理解が的を射ていないとすべてが外れるので、それがすべての大前提になります。

 ① 消費者理解の力:
 消費者の言動を(マーケター自身の脳内バイアスの「解釈のエラー」によって歪めることなく)深く理解して、消費者の本能と購買行動の因果関係を読み解き、長期的にブランドが衝くべき本質的価値が何であるのかを明瞭に定義する力。

 ② 経営資源を増やす着眼点:
 今までの歩みを全否定するのではなく、その中から消費者価値に繋がる「強み」となる特徴を発見する力。一見してマイナスにしか見えない事柄でも、消費者価値のプラスにひっくり返せれば+2の大きな援軍を生み出せる。

 ③ 戦略思考能力:
 どんなに高い壁(目的)でも、階段(戦略ステップ)さえつくることができれば必ず越えることができます。高い目的から逆算して階段を下して現在の足元まで繋がる一筋の太く整合性ある“勝ち筋”を構築していく能力。

 ④ ストレス下の決断力:
 実行前にその戦略でいくことを決断しなくてはいけません。むしろ不確実性の高い逆境のときこそマーケターが戦略的判断によって、経営資源の集中を生み出して戦局をひっくり返さねばならない。

 2つ目の要素は需要予測に代表される“仮説検証力”。高難度の戦局では、1回でも大きな失敗をしたらゲームオーバーなので、その1回を実行する前に勝率を予知する能力がどうしても必要になります。ブランドの設計などの戦略仮説に基づいて、“なけなし”のリソースを投じる前に、成功の確率とそれに紐づいた必要条件を明確にする技術があれば、成功確率を投資前にどんどん高めることができるのです。

 ブランド設計の最後に、そのブランドが、どの消費者の脳内に(WHO)、何の戦略エクイティを(WHAT)、どうやって構築していくのか(HOW)、その中長期的な設計をまとめた「ブランド・エクイティ・ピラミッド」を簡単にご紹介します。

 (再掲)図1.Brand Equity Pyramidの基本フォーマット

 具体的な使い方は、本書をぜひお読みいただきたいと考えますが、ここではブランドの設計図をつくる意味についての概説として、森岡氏は以下のように説明しています。
 このシンプルな三角形のフォーマットに一つ一つの要素を吟味して埋めていくと、合格点に届くブランド設計がかなりやりやすくなるのです。
 というのも、このような可視化された設計図がなければ「ブランドってこうあるべき」のような抽象的な議論はとてもじゃないですが不可能に近いのです。自分自身の中でも思考を深めることは難しいので、まずはいったん頭の外に書き出すと整合性を客観的に診ることができるので、自分自身の思考を深められるようになります。
 さらに可視化された設計図がなければ、複数の人間がかかわる議論は悪夢そのものです。ブランドに関わる人たちで「ああだ、こうだ」と話しても、誤解や混乱で共通理解に立った議論はなかなか成立しません。そこで集団知を活かすために1枚の設計図に書き出すのです。

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 以上が売上拡大のために必要な「コンセプト(≒ブランド・エクイティ)」について、非常に簡単に説明した内容となります。それぞれの概念について、上記の内容では説明が不十分と思いますが、ぜひ本書をお手に取って、その詳細や本質を読み解いて頂ければと存じます。
 弊社は「世界中の新たな製品・サービスの実現に貢献すること」を使命としております(注2)。本書にあった「コンセプト」として、弊社の場合は「新たな製品・サービスを実現できる」とお客様にご認識頂けるように、社員一同、この基本理念・使命を胸に刻み日夜業務に励んで行きたいと考えております。その具体的な手段として「インテグラートは、仮説検証型経営によって、投資価値最大化を支援します」というマーケティング・コンセプトを皆様にお伝えして、本コラムを締めくくりたいと思います。

 本書の知見が皆様の新たな製品・サービスの創出にお役に立つことを願っております。

(春原 易典)

(参考文献)
(注1)『確率思考の戦略論 どうすれば売上は増えるのか』(ダイヤモンド社、2025年)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000297.000045710.html

(注2)『インテグラートの使命』
https://www.integratto.co.jp/company/mission/