シミュレーションやバリュエーションを行う上で、最大の難関の一つが、シミュレーション(あるいはバリュエーション)のための「モデル」を作成すること、すなわち「モデリング」だと言われます。実際、私たちがお手伝いするお客様の多くが、モデリングに苦労されています。特に、新しいビジネスや初めて行うプロジェクト等の場合、モデルをどのように作ったら良いか、わからないという声を聞くことが多くあります。

「ビジネスモデル」とは、ビジネスの仕組みのことであり、事業として何を行ない、どのように収益を上げるのかという「儲けを生み出す具体的な仕組み」のことです。この「儲けの仕組み」、すなわち「収益の構造」を擬似的に計算式等で表現したものが、ビジネスシミュレーションやバリュエーションに利用する「モデル」であり、多くの場合、モデルは表計算ソフトや専用ソフトを利用して作られます。

そもそも、ビジネスの儲けの仕組みやプロジェクトの成果の仕組みがわからなければ、モデルを作ることが出来ません。初めてのビジネスやプロジェクトに取り組む場合、モデルの作り方というよりもこの仕組みが分からず(というよりも、うまく整理されておらず)、苦労されていることが多いようです。最初から正解を求めず、わかるところから、モデリングに取り組むことで、仕組みへの理解が深まり、結果的にモデルが出来上がるというケースも少なくありません。

難しいモデリングをより簡単にするために、有効なのが「フレーミング」の実行です。フレーミングについては、今回は詳しい説明を割愛しますが、シミュレーション(あるいはバリューエーション)を使って行われる意思決定の「基本的な枠組み」を決めることがフレーミングです。「意思決定の目的」や「誰が意思決定するのか」、「意思決定の判断基準は何か」といったことをフレーミングにより整理します。モデルは、あくまで“擬似的に”ビジネスの仕組みを表現するものであり“完全な”モデルを作ることは不可能です。よって、モデリングの際には、常にフレーミングの結果を意識しながら“意思決定の基本的の枠組みに沿う範囲で妥協した”モデルを作成することを心掛けねばなりません。

以下に、モデリングをよりやり易くするための、テクニックを3つご紹介します。

【テクニック1:ゴールからスタートする】
モデリングは、ビジネスのゴール(評価指標)を洗い出し、各評価指標の計算式を作ることからスタートします。評価指標からスタートし、詳細化していくことで、結果に得るために必要な要素を含む、漏れのないモデルを作成することが出来ます。例えば、営業利益率を求めたい場合には、下記のように整理し、計算式を詳細化していきます。

営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上

営業利益 = 粗利益 - 販売管理費
売上 = 販売数量 × 販売予定価格

粗利益 = 売上 - 売上原価
販売管理費 = 販売促進費 + 業務委託費 + 通信費 + スタッフ人件費
販売数量 = 対象市場規模 × 商品購入率 × 自社獲得シェア
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【テクニック2:時間的変化を切り離す】
モデルが複雑になるケースでは、先ずはビジネスやプロジェクトが定常化した時点、或いはビジネスのゴールを達成しようとする時点のモデルを作成することをお薦めします。時間的変化を除いて考えることで、よりシンプルにモデルを考えることが出来ます。ある一時点のモデルを完成させた後、時間的変化をモデルを構成する各要素の値の変化として、サブモデル化して計算式に組入れます。例えば、「販売数量 = 対象市場規模 × 商品購入率 × 自社獲得シェア」とした後、「自社獲得シェア = ピーク時のシェア × シェアのライフサイクル波形」というサブモデルを追加し、時間的変化をモデルに組入れます。

【テクニック3:モデルの設計図を描く】
モデリングの際、表計算ソフトなどで計算式を書きだす前に、「要因関連図」や「インフルエンスダイアグラム」と呼ばれるモデルの設計図を描きます。「要因関連図」は、ビジネスのゴールの計算過程を描く図であり、フレーミングの中で整理した評価指標毎に描きます。また、「インフルエンスダイアグラム」は、評価指標やモデルに関連する要素を洗い出し、関係を整理することに利用できます。先ずは設計図を描き、設計図を見ながら計算式を作っていくことにより、計算式が冗長になるのを防いだり、計算式の間違いを防ぐことが出来ます。

モデルは「正しい答え」が決して一つではなく、作る人や作るタイミングにより、同じモデルでも幾通りもの作り方が出来ます。目的にマッチさせながら、いかに分かり易く、シンプルなモデルにできるか、ある意味、モデルは作る人のセンスを色濃く反映する「アート」だとも言えます。

芸術の秋、あなたのセンスを活かしたモデルを作成してみてはいかがでしょう?

※モデリングの手順やヒントについて、より詳しくお知りになりたい場合には、弊社製品「デシジョンシェア」のマニュアルの「第二部 ビジネスシミュレーションガイド」をお読みください。無料で一ヶ月間ご利用いただける「デシジョンシェア体験版」にもマニュアルがついておりますので、下記ダウンロード・サイトよりダウンロードし、ご利用ください。

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(宮本明美)