以前、リスクの源泉である不確実性は、知識または情報の少なさによってもたらされているとお話しました(http://www.integratto.co.jp/column/013/)。例えば、医薬品の開発では、当初は人間に効くか効かないかはわからない(五分五分)だとしても、治験の結果を重ねていき、最終的には効果があるという統計的な評価ができた時点で、「効く」ことになります。それでは、どんな情報によって不確実性がどのように変わっていくのでしょうか?

A社の製品開発部では、現在開発コード名INT07の開発を行っています。プロジェクトでは、現在開発の最終工程である安全性試験にとりかかろうとしており、これがクリアできれば開発にめどが立ちます。尚、現在この試験にクリアできる見込みは五分五分より少し小さい40%と見込まれています。この試験が成功すれば事業価値50億円が得られ、失敗すればプロジェクトを停止し、それまでの開発費5億円が損失となります。事業価値の期待値は、

50億円 × 40% - 5億円 × 60% = 20億円 - 3億円 = 17億円 ですね。

さてこの開発チームは、米国のベンチャーに委託していた安全性スクリーニングテストの結果を受け取りました。結果は、「GOOD」とのことでした。スクリーニングテストの信頼性の資料によると、このスクリーニングテストが「GOOD」であるとされた過去の事例のうち、実際の安全性試験をクリアできた事例は 70%、できなかった事例は30%とのことです。

さて、このテスト結果によって、事業価値の期待値に変化はあるのでしょうか?あるとしたらいくらになるでしょうか?このような場合、「条件付き確率」を使うと新しい成功確率を求めることができます。紙幅の関係で詳しくは説明できませんが、

新しい成功確率 =
(初期の成功確率×スクリーニングGOODのとき成功する確率)÷
{(初期の成功確率×スクリーニングGOODのとき成功する確率)+(初期の失敗確率×スクリーニングGOODのとき失敗する確率)}

となります。これに従って計算すると、

新しい成功確率 = (40% × 70%)÷ {(40% × 70%)+(60% × 30%)}

より、このスクリーニングテストがGOODの場合、安全性試験をクリアできる新しい成功確率は約61%、できない確率は約39%となります。この新しい成功確率から期待値を計算すると、

50億円 × 61% - 5億円 × 39% = 30.5億円 - 1.95億円 = 約29億円 となりました。

このように、条件付き確率を使うと、新しい情報によってそれまでの確率を更新していくことができます。このストーリーに続きがあって、別のスクリーニングテストを行い、その結果によってまた成功確率を更新するといったこともできます。

学生のとき、私は試験問題を後でよく思い出せるかどうかで、パスできるかどうかを予想していました。試験が終わった日の夜に、問題を思い出していたものです。うまく統計を取れば、思い出せた問題の率で、パスする確率を更新できるかもしれません。読者の皆さんは、仕事や生活で、情報によって将来の予想(不確実性)を更新するシーンにはどんなことがありますか?

今回、ご紹介した条件付き確率はなかなか奥が深く、一回のコラムではお伝えすることができませんので、次々回のインテグラート・インサイトで続きをご紹介したいと思っています。お楽しみに。

(北原 康富)