インテグラートでは、年に1~2回、コンサルティングや製品開発に関わる情報収集を目的として、メンバーが海外のカンファレンス・セミナーに参加しています。今回は、7月上旬にイギリス ロンドンで開催された、製薬業のポートフォリオマネジメントと製品ライフサイクルマネジメントに関するセミナー「Pharmaceutical Portfolio & Product Life Cycle Management」の参加報告をお届けします。
今回のセミナーでは、2日間に17のプレゼンテーションとパネルディスカッションが行われました。発表者も含め、約30名ほどの比較的小規模のセミナーでした。発表者の多くはヨーロッパおよびアメリカのメガファーマの現役担当者であり、一部そのOBの方や専門コンサルタント、また特許など法律に関わるプレゼンでは弁護士もおられました。聴講者は欧米の製薬メーカーやジェネリックメーカーの担当者が大半でした。
今回のセミナーで最も印象に残ったのは、製薬業界の外部環境の変化、具体的には①欧米におけるジェネリック医薬品の浸透、伸長 ②医療費削減を促進する規制強化のトレンドの強まりという2点を受けて、ポートフォリオマネジメントと製品ライフサイクルマネジメント(LCM)をより実践する必要性が高まっているという点でした。
新薬開発に基づく製薬ビジネスが、上記の外部環境の変化およびプレッシャーによって、より個々の製品価値の最大化と、より優先度の高い開発プロジェクトに資源を効率よく投入する判断を求められるようになっていると言えます。
LCMについては、その目的として「製品のライフサイクル全体の価値を最大化する」と定義し、特許切れ後のシェア獲得の機会はジェネリック医薬品(後発医薬品)の伸長などの脅威によって年々狭まってきていることを背景に、従前から見られる効能追加や用量変更に加え、ドラッグデリバリーシステム(体内への薬物分布を制御する薬物伝達システム)による剤型変更などの具体的な事例の紹介が多くありました。このような製薬業界特有の用語を並べると、LCMは製薬業にのみ必要なことのように聞こえるかもしれませんが、もちろん他の製造業にも必要なマネジメントです。
今回のプレゼンの中でも製品価値を拡大させる優れたLCMが行われている製品の事例として、iPod(iPod~iPod nano~iPod shuffleに至るLCM)やポルシェ(ポルシェ911から997に至る40年以上のLCM)が取り上げられていました。両者とも顧客中心主義を貫き、ブランドのアイデンティティを保ちつつ達成されていない顧客ニーズを満たすことで、製品価値の最大化を図るスタンスが共通しているということでした。
ポートフォリオマネジメントについては、明らかに各社とも実践段階に入っているようでした。いずれの会社とも、プロジェクトの進めるべきか、止めるべきかの決断と投入資源(人・カネ)の優先順位づけを行うことを目的として、開発段階のプロジェクトを対象にポートフォリオマネジメントを行っている事例の紹介でした。評価・分析方法としては、バブルチャートやランキング表による優先順位づけが中心であり、あまり先進的な分析・評価手法は見られませんでした。
反面、実践段階ならではの、導入と定着のためのノウハウ・コツといった内容を多く聞くことができました。例えば、
「社内での混乱や過剰反応を避けるため、あまりに頻繁にプロジェクト優先順位づけを変更することは避けるべき」
「予測値に完璧な正確さを求めないようにすべき」
「わざと不定期なデータアップデートの機会を設けることで、部門間のデータに関するコミュニケーションを促す」「プロセスの標準化のためにもデータベース化が有用」といったポイントです。
以前参加したカンファレンスに比べ、今回聞いたヨーロッパでのポートフォリオマネジメントの実践事例は、より私どもがお手伝いしている日本の製薬業におけるポートフォリオマネジメントと差がなくなってきている印象がありました。
私どももポートフォリオマネジメントが事業性評価の共通プラットフォームとして浸透するよう、ソフトウェアやメソッドの向上に引き続き取り組んでまいりたいと思います。
(井上 淳)