事業ポートフォリオマネジメントとは、製品や事業部・子会社等の複数の事業を分析し、強みや弱み・バランス等を把握した上で、事業全体として経営目標の達成を目指す手法です。事業ポートフォリオマネジメントでは、限られた経営資源を有効に活用する、という考え方が重視されていますので、経営の視点を持つ考え方といえるでしょう。
しかし、さて何をどうするのだろうか、ということになりますと、会社ごとに製品や事業が異なりますので、なかなか具体的には示しにくいものです。そこで今月のコラムでは、この事業ポートフォリオマネジメントについて、プロ野球の一軍チームに喩えて考えてみましょう。
プロ野球の一軍チームは、高校野球や大学野球・実業団、更には大リーグなどから選びぬかれた、大変優れたピカピカの選手の集団です。まさにエリートなのですが、すべての選手がチームの勝敗の一端を担う重要な役割を持っているわけで、彼らの個人成績は大変多くの指標で詳細かつ定量的に評価されています。
例えば、Yahoo!スポーツで打者の成績評価を見ると、以下のような指標が並んでいます。
打率 試合数 打席数 打数 得点 安打 二塁打 三塁打 本塁打 塁打数 打点 三振 四球 死球 犠打 犠飛 盗塁 出塁率 長打率
更に、得点圏打率(ランナーが2塁または3塁にいるときの打率)、という視点で、上記同様の指標による評価が加えられています。
では、投手はどうかというと、やはり投手も多くの指標で評価されています。
防御率 試合数 完投 無点勝 無四球 勝利 敗戦 ホールド HP セーブ SP 勝率 投球回数 被安打 被本塁打 奪三振 与四球 与死球 暴投 ボーク 失点 自責点
投手の場合は、更に対チーム別、左右打者別、球場別の評価が行われています。打者・投手共にこれだけの定量的な評価指標があり、試合毎にデータが更新されますから、一軍チームの選手に対しては、かなり徹底した現状分析が行われているといえるでしょう。これはプロ野球の各チームに共通しています。
さて、このような評価データがどのように活用されているのかを確認するために、プロ野球各チームホームページの「一軍登録抹消履歴」(28名に限られている一軍チームのメンバー入れ替えが行われた記録です)を見てみました。すると、メンバーの入れ替えは、各チームで毎日のように行われていることがわかります。更に内訳を見ると、登録抹消(一軍落ち)された選手が、また一軍に登録される、ということが多いことも読み取れます。特に投手は入れ替えが多いので、成績が今ひとつの投手に休息・復調の機会を与えると同時に、多くの二軍選手に機会を与えようという、ことだろうかと推測します。
28名に限られている一軍チームメンバーの入れ替え、という意思決定は、チームの勝敗に直結するため、極めて重要で困難なものです。自他共に認めるエリート選手を対象とし、また、本人の意欲が高く、球団として永年育ててきた選手でファンや関係者が多い場合などは、尚更難しい決定になるでしょう。この意思決定には、監督の経験と勘や、様々な要素が考慮されていると思われますが、選手本人を説得し、他のチームメンバーやファン・関係者をも納得させる材料として、定量的かつ多岐に亘る評価データが共有されていることが役立っているようです。
さてここで、事業ポートフォリオマネジメントという話題に戻りましょう。事業ポートフォリオマネジメントとは、野球選手の集団から最も多くの勝ち数を引き出すのと同じように、複数の事業・製品の集団から最大の成果を引き出すことです。そして、一軍選手が28名と限られているためチームメンバーの入れ替えを行うことは、限られた経営資源を有効に活用するために製品・事業の優先順位付けや選択と集中を目指す行動と同じ目的であるといえます。その際、製品や事業が、一軍選手のように、すでに選びぬかれてきたピカピカの製品・事業であればあるほど、意思決定は重要かつ困難となります。
製品・事業の優先順位を変更する必要があるのか。あるとすれば、それは何故か。この必要性と理由が説明され、製品・事業の関係者に納得されるためには、多岐に亘る評価データが共有されることが重要であろうと思うのです。事業ポートフォリオマネジメントでは、まずは徹底した現状分析と、関係者による現状理解の共有が第一であり、この現状分析と共有を達成した次に、優先順位付け変更などの必要な行動が見えてくるものであろうと考えています。
今回のコラムは、拙い私見に基づくものですので、事業ポートフォリオマネジメントに取り組む方々、あるいはプロ野球の実際に詳しい方々の実感と異なるところがあるかと思います。ご意見・ご批判等お聞かせいただけますと幸いです。
(小川 康)