今月上旬に、福澤英弘さんと共著で「不確実性分析 実践講座」(ファーストプレス社、以下、本書)を出版しました。福澤さんは、グロービスで企業向け研修部門の責任者を長く務められた後、現在は人材育成・研修企画会社アダットの社長をしておられます。また、ロングセラー「定量分析 実践講座」の著者でもあります。

本書の内容は、弊社から今までもご紹介している、フレーミングから分析・シミュレーションを行う意思決定のプロセスを中心としています。不確実性に関して、どの書籍よりもわかりやすく、具体的な行動につながることを目指し、とあるコンビニを舞台にした15のケースにまとめました。初心者向けの内容ですが、よろしければご覧いただけますと幸いです。

さて、本書のテーマである不確実性については、様々な研究や定義があります。また、その不確実性をもたらす要因にも諸説あるのですが、本書の大きな特徴は、ビジネスの現場では、知識の不足が不確実性の主な要因であるとした点です。

一般的に、不確実性というと確率で論じることが多いようです。金融関連の不確実性を扱うには確率を駆使しますし、事故のような不確実性にも、確率をよく用います。確率的な考え方では、次の例が一般的です。「裏か表か、出る確率が2分の1のコインがある。ここで5回連続で表が出ているとする。次に表が出る確率は?」この質問に対する答えは、2分の1ですね。このときにそろそろ裏が出るだろう、と言うと、確率が分かっていないね、と言われてしまいます。

知識の不足が不確実性の要因であるとすると、答えは違います。質問から予備知識は除き、次のように質問を変えます。「ある物を試しに投げたらある結果が出た。さらに4回投げたら、合計5回連続で同じ結果が出た。次に出るのは何か?」みなさんは、どう答えるでしょうか?知識の不足を、試しに5回投げたことで補ったとすれば、次も同じ結果が出るだろう、という答えが適切と思われます。しかし、答えではありませんが、あと10回投げてみなければわからない、いや、あと100回投げてみたいという意見がでてくることがあるかもしれません。あるいは、「ある物」とは何なのかを知りたい、という視点の違う意見も出てくるでしょう。同じ結果のように見えて、実は違う結果なのではないか、という意見もありえます。

「ある物」がコインであることを知っていれば、さらに、裏か表が出る確率がそれぞれ2分の1であることを知っていれば、こんな議論にはなりません。つまり、知識が必要なわけです。そして、知識の不足度合いが大きいと、不確実性も高くなると考えられます。逆に、知識が増えると、何が起こるかわかるようになって不確実性が下がるか、あるいは確率がわかる、ということになるわけです。確率がわかるようになると大変便利なのですが、その段階に至る以前に、知識が重要な役割を果たします。

知識を得るために、本書では「対話する」、「試す」、「待つ」という方法を紹介しています。「ある物」を投げるのは、「試す」ですし、意見を聞くのは「対話する」です。「待つ」は、様子を見る、といったところです。

知識を得たら、その知識を行動に活用します。その際、知識が間違っていたら修正することが必要です。そこで、本書では、不確実性分析のプロセスをサイクルと定義しました。知識を得るために行動し、得られた知識は、次の行動に生かす、という学習のサイクルの提案です。

この学習のサイクルの提案は、自社の得意分野を伸ばそう、という提案でもあります。ある知識を得たことによって、更にその延長線上の知識を探索し、そのことによって他社が到達していないところまで進むことができるようになります。あるいは、知識を蓄積できないようなビジネス展開は、不確実性を考えると果たして得策なのだろうか、という意味でもあります。サイエンスの分野では知識を蓄積していくことが当然ですが、ビジネスの分野ではまだまだではないでしょうか。

新たに始める行動から、何を学ぼうとしているのか。
そして起こった成功または失敗から、何を学んだのか。
そんな問いかけを続けることが、自社のビジネスの不確実性に対する知識を蓄積し、独自のノウハウを築き上げる方法の一つなのではないかと思います。

(小川 康)