今回のコラムは、先月出版された「不確実性分析 実践講座」の共著者である弊社社長の小川に、この本を書いたきっかけや執筆裏話、この本のポイントなどを聞いたインタビューをお送りします。

Q-1:なぜこのような本を書こうと思ったのですか?
小川:インテグラートは事業性評価が専門の会社です
事業性評価は将来のことが対象なので、不確実性を避けて通れません。この不確実性については、事業の現場で多くの方が難しさを感じるところなので、考え方や手法を分かりやすくまとめたいと考えていました。以前からアイデアはあったのですが、福澤さん(定量分析実践講座の著者)から不確実性について本を書いてみませんかと声をかけられ、企画がスタートしました。

Q-2:福澤さんとはどういうご縁ですか?
小川:以前からの知り合いですが、ここ1~2年は六本木アカデミーヒルズでビジネスプランニング関連の講座を福澤さんに企画していただき、私が講師を務める、というようなビジネスパートナーです。

Q-3:「不確実性分析 実践講座」と漢字ばかりのタイトルで難しそうな印象ですね
小川:本当にそうですね(笑)。出版社の方との相談で、「定量分析実践講座」の続編になり、タイトルも決まりました。でも、内容は読みやすいと思いますよ!

Q-4:この本の特徴は何ですか?
小川:まず第1は、意思決定のための不確実性分析を分かりやすく多くの方に伝える本であるということです。そのために、ビジネスの経験のない大学生にも分かってもらえるよう、コンビニやレストランのケースを取り上げました。もう1つは、組織の中で知識を積み重ねることが、不確実性に対処する術として優れていると主張している点です。つまり、不確実性を分析することも、学習の一つの手段と位置づけているという点です。コミュニケーションを重視し、分析の前に「あいまい」という段階を定義したと言うことも、あまり他の本にはない特徴だと思います。

Q-5:コンビニやレストランの事例が多く出てきますが、「不確実性分析」はこれらのビジネス以外でも使えるのですか?
小川:もちろんです。多くの読者の方に理解やイメージを持ってもらいやすいように、コンビニやレストランの事例を取り上げましたが、どのようなビジネスにも「あいまいの闇」や「不確実性の霧」はあるはずです。そのような状況に直面しているビジネスパーソンに活用いただきたいと考えています。ただ、全てをこの本のとおりになぞる必要はなく、必要なときに必要な部分だけ使うことが大事だと思います。

Q-6:本の帯に「意思決定の質を高め、より大きな成功を手に入れる」と書いてありますが、「意思決定の質を高める」とはどういうことですか?またそれがどうして大きな成功につながるのでしょうか?
小川:アメリカのコンサルティング会社 ストラテジック・デシジョンズ・グループ(SDG)によると、(1)的確なフレーミング (2)明確な価値判断基準 (3)正しいロジック (4)信頼できる形で設定かつ説明された不確実性を含む情報 (5)複数の戦略代替案 (6)ステークホルダー間の理解と共有、という6つの要素が意思決定の質を高める要素としています。本書にある15のケースは、それぞれその6つの要素を高度化する役割があります。意思決定の質が高まると、組織的な推進力が強くなり、大きな成功を導く原動力になります。もう少し簡単に言うと、自信を持って実行することが可能になります。自信がないと、どうしても慎重な動きになりますよね。これでは、大失敗しないかもしれませんが、大成功も難しいと思うんです。

Q-7:この本を書く上で最も苦労した点は?
小川:そうですね、やっぱり分かりやすく書くということでしたね。福澤さんや出版社の編集者の方とは、かなり議論しました。あまり簡単に書いて中身が薄くなると、それも良くないので、大切なことを分かりやすく書くことがチャレンジでした。それから、読みやすくするために、ストーリー仕立てにしているんですが、モンテカルロシミュレーションをどうストーリーにするかというところでは、何度か書き直しました(汗)。それから、説明が単調で、つまらなくならないように、登場人物の会話で説明が部分的にできるように工夫しました。そのキャラクター設定は結構考えましたねえ(笑)。

Q-8:この本を誰に読んでもらいたいですか?
小川:難しそうに思えることでも、とにかく実現したい、その手がかりが欲しい、と思っている方ですね。ビジネスについて、科学的な武器を身につけるというような、基本勉強にも役に立つと思います。また、この本はコミュニケーションにも重点を置いています。ですから、良いアイデアなのに上司や関係者をうまく説得できないと悩んでいる方や、部下の提案について長所短所を理解したいと思う方にもお勧めします。

Q-9:読者、あるいは読んでもらいたい方へ一言
小川:不確実性が大きいように思えても、やり方はあるということを知ってもらいたいです。私は、不確実性に対して、天動説と捉えるか、地動説と捉えるかでは、大きく違うと思うんですよ。天動説と言うのは、これから起きる不確実なことは避けられず、自分に関係なく起きるという捉え方です。逆に、地動説と言うのは、自分はこちらの方向に進んでいくと、その方向に進んでいく上で不確実なことに出会う、という考え方です。自分が進んでいく方向以外の不確実性は気にせず、自分の前に何が訪れるかを考えればよいと思います。たとえれば、天動説的な捉え方は市場のリスク、金融のリスクのようなものかもしれません。実業のリスクは、自ら選んだことに対して起こるもので、主体的にというか、地動説的に捉えると前向きに対処できるのではないでしょうか?

(聞き手 井上淳)