今の世界や日本は、様々な問題を抱えています。マーフィーの法則ではありませんが、「問題はいくら解決しても減ることはない」というように、果てしなく続く問題の中で、私たちは生き、企業や国が存続しているともいえます。ダンカー(1945年)によると、問題とは、目標はあるが、いかにしてそれに到達したらよいかわからない状況です。もう少し具体的にすると、問題が存在するには、次の4つの要素が必要です。

(1)現実の状態
(2)解決された状態
(3)2つの状態にギャップがある
(4)そのギャップを埋める必要がある

問題を解決するということは、現実の状態から解決された状態に至る方法を、考え出すということになります。ところで問題には2つの種類があります。ひとつは、学校で習う証明問題のように、解決された状態と、そこに至る方法が一つ存在する「良定義問題」。もうひとつは、経営問題のように、解決された状態が多くあり、そこに至る方法も多数存在する「不良定義問題」です。最も簡単な例をあげると、前者は「4+3=?」、後者は「7=?」ということですね。小学校から大学の前半ぐらいで学ぶ問題解決は、ほとんどが良定義問題です。一方で、大学で就職活動をするときになって、人生で結構大きな不良定義問題に遭遇します。自分の実力を前提として、自分の人生にとって最もふさわしい会社を選択するという問題解決です。お気づきのように、私たちが生活し、仕事をする上で遭遇する問題は、ほとんどが不良定義問題です。にもかかわらず、学校の勉強では、良定義問題の解を、いかに効率的に導くかということに専念するため、不良定義問題を解決するトレーニングをあまりしていないというのが現実です。

一方、問題の解決と並んで、私たちにとってもう一つ必要なチカラに、「問題の発見」があります。問題を発見するということは、前にご紹介した問題を構成する4つの要素を明確にすることといえます。経営意思決定においては特に、経営者はより適切に問題の発見をしなければなりません。「社員が出した解は正しいが、問題が間違っていた」ということになるからです。もちろんこれは不良定義問題なので、発見をますます難しくします。この例として、ずいぶん前にご紹介したペプシコの例を再度見てみましょう。

1970年代、コカコーラと激しい市場争いをしていたペプシコは、コカコーラのあのくびれたボトルが最大の競争優位だと確信し、それに対抗するボトルを何百万ドルの費用をかけて開発してきました。しかし、それでもなお、くびれボトルに対抗するものになりませんでした。当時のマーケーティング担当副社長だったジョン・スカリー(後のアップルコンピュータのCEO)は、問題の本質はコカコーラのボトルと競争するのではなく、コカコーラのボトルの強みをなくすことだと考え、問題を切り替えました。入念な消費者調査の結果、消費者はボトルを手に取るときの、喉の渇き具合に応じて、コーラの量を決めたいと考えていることがわかりました。そして、コカコーラのボトルより少し大きめだったり、小さめだったりする複数のパッケージを中心とした戦略を策定し、長年無敵だったくびれボトルを駆逐し、シェアを劇的に広げました
(参考文献:「勝てる意思決定の技術」ダイヤモンド社)。

この例から見られるように、スカリーは、問題の要素「(2)解決された状態」を変えたわけです。問題が発生すると、とにかく解決すべく走り始めてしまいがちなのですが、一旦冷静になって、問題の4つの要素を整理してみることが、望んだ結果をもたらす解決になるのではないでしょうか。過去のケーススタディを、このような視点で見てみると、正しい問題の発見をしていなかったり、不十分な定義のまま解決の行動を取ったりしたことがあることに気づきます。ところがお恥ずかしいのですが、かく言う私も、つい最近、問題発見を誤って、数万円をムダにしてしまった例を、最後にご紹介しましょう。

私はこの1月に、ノートパソコンを買い替えました。OSは最新のウィンドウズ7になり、オフィスソフトも最新の2010になりました。一方、私の自宅のデスクトップPCは2世代前のXPで、オフィスソフトも2世代前の2003のままでした。私はなんとなく、両方のPCを最新に揃えなくちゃと考えていました。そんな時、ある電気店で見かけたウィンドウズ7とオフィス2010のソフトを、つい買ってしまいました。しかし、自宅のPCをバージョンアップする段になって、めんどうな作業がいることにめげてしまい、ついつい後回しになってしまいました。ところが、もうすぐ半年になりますが、最近ではバージョンアップのことを忘れたまま、未開封のソフトをたなざらしにしています。それに、バージョンが違ってもあまり不便を感じないことに気づいたのです。今考えてみると、OSのバージョンの違いは、私にとって問題ではなかったんですね。この状況を、先ほどの問題発見のフレームワークを通してみると、「(4)ギャップを埋める必要性=なし」だったということです。

不良定義問題と問題の発見という、ビジネスや生活をするうえでとても大切なチカラを、どのように強くするか・・・これ自身が難しい問題でもありますね。それでは今回はこの辺で。

(北原康富:インテグラート株式会社顧問・インテグラート・リサーチ株式会社代表)