先月のコラムでは、弊社コンサルタントの井上が、ペンシルバニア大学ウォートンスクール(ビジネススクール)の教授陣が執筆した書籍「ウォートンスクールの意思決定論」を参考に、「守りの意思決定」について考察しました。防衛的な意思決定が後回しになってしまいがちな傾向について、原因と対策をご紹介したものです。まだお読みでない方は、是非ご覧ください。
http://www.integratto.co.jp/column/063/

さて、井上が参照した書籍「ウォートンスクールの意思決定論」の共著者のホック教授(書籍の訳では、ホッチとなっていましたが、本人はホックと名乗っていましたので、以後ホック教授と記載します)は、筆者(小川)がウォートンスクールのMBAプログラムに留学していた際、マーケティングの講義をしていました。ホック教授の講義は、今まで日本で受けてきた講義と全く違うもので、衝撃的を受けました。今月のコラムでは、先月のウォートン発の書籍に続いて、ウォートンスクール・ホック教授の講義で何が起こったかをご紹介いたします。

ホック教授は、ビジネススクールのMBAプログラムの最初の学期の必修科目の一つ、マーケティング基礎を教えていました。ケーススタディ中心の科目で、MBAプログラムの最初ということもあり、学生は徹底的にケースを読み込んで、初めての講義に臨みました。

教授を囲むように半円形に座席が配置された教室に、約60名の学生が着席しました。クラスメイトの約6割がアメリカ人で、残りの4割は留学生、日本人は私だけでした。少し緊張したムードの中、ホック教授が学生を次々に指名し、ケースの背景や、簡単な分析を説明させていきます。ホック教授は、時々修正を加えるものの、基本的には学生の発言通りにホワイトボードに書いていきます。そのうち、ある学生の意見に、別の学生が異論を唱えるなど、議論が盛り上がってきました。ふむふむ、これがケーススタディのディスカッションか、なかなか付いて行くのが大変だぞ、と感じます。様々な意見が、どんどん出され、教室にエネルギーが満ちている感じです。興味深い意見がいくつも交わされ、議論がどんどん広がります。

しかし、私は次第に別のことが気になってきました。それは時間です。90分授業なのですが、60分を過ぎて、80分を過ぎても、まだまだ盛り上がっています。日本の授業ならば、もうまとめの時間です。こんなに意見が多く出て、まとめは一体どうするのでしょうか?そして、時間が来ました。あれ~っと思っていると、教授が一言。

「いいディスカッションだった。それではまた来週!」

ガーン!衝撃的な幕切れでした。一切のまとめ無し。クラスメイトは、「いや~、面白いなあ」などと言いながら、次の講義に教室を移動していきます。席を立つクラスメイトを見送りながら、私は考えました。今の講義で、何を学んだのだろうか。そうか、答えは自分で探さなければならないのだ、と気付いた瞬間でした。

その後の講義でも、ホック教授に限らず、自分ならどうするかを考えさせる講義が数多くありました。ケーススタディの状況は過去の事実ではありますが、今後、全く同じ状況が起きることはありません。だから、過去のケーススタディに対する答えを模索しても意味がないのです。大事なことは、短い時間で状況を適切に理解し、自分の取るべき行動を考える力であり、答えは教えるものではなく自分で考えるものだ、という方針が徹底していました。各種分析や意思決定の手法は、不確実で複雑で混乱しがちな状況下において、スピーディに自分の行動を見出す道具である、という位置づけです。

日本の学校では、答えを学ぶことが多く、講義の最初から最後まで自分で考えてクラスメイトとディスカッションを続けた経験はありませんでした。しかし、現在のように、誰もが不確実性に直面している状況では、自分の取るべき行動を考える力を鍛えることが大切なのではないでしょうか。答えを教える教育ではなく、考える方法を教える教育が増えていくと良いと思います。

さて、最後に一つご案内です。
来る9月2日(金)に大阪で、9月16日(金)には東京で、「大学・ビジネススクールにおけるシミュレーションソフトの活用」と題するセミナーを開催いたします。シミュレーションソフトを活用すると、うまく行く場合もうまく行かない場合も示されます。どの答えを選択するのかは、議論し考え、自分で決めなければなりません。このように、シミュレーションソフトを活用して自分で答えを考える講義を実施している大学・ビジネススクールの先生方と、ビジネスシミュレーションソフトを実務に活用している企業の方々による講演が行われます。

大学・ビジネススクールの方向けのセミナーですが、企業の方も歓迎いたしますので、是非皆様お誘い合わせの上、ご参加ください。特に、9月2日の大阪会場へのご参加をお待ち申し上げております。

セミナー詳細・申し込みページ
http://www.integratto.co.jp/bi/seminar/ds201109.html

(小川 康)