先日、データ分析の第一人者、大阪ガスのビジネスアナリシスセンターの河本所長の講演を聞きました。ビッグデータという言葉が流行する昨今、データ分析への注目が高まっているように思います。河本様の講演は、価値あるデータ分析を実行する上で、大変示唆に富む内容でしたので、読者の皆様にご紹介したいと思います。
「」内が河本様の講演内容です。

「データ分析の価値とは、そもそも何なのだろうか。この重要な問いかけへの答えを、長い時間かけて探してきた。その過程で、我々は、データ量・高度な統計分析・大規模な分析モデルへのこだわりから決別することにした。そして、分析の価値とは、意思決定への寄与度と意思決定の重要性の掛け算である、と考えることにした。」

「一般的に、分析力というと、分析問題をデータと分析手法を駆使して解くことを指す。多くの方と同じく、我々もこの分析力を身につければいいと思っていた。しかし、この分析力だけでは、ビジネスを変えることはできなかった。その経験から、我々は分析力に加えて、データ分析をビジネスにつなげる力が必要なことを悟った。」

「KKD(勘と経験と度胸)を侮ってはいけない。現場で培われた知識には、ビジネスに対する深い理解に基づく優れたものが存在する。また、我々の分析がKKDとかなり近い、というフィードバックが現場から得られたことが、現場の信頼を獲得するきっかけになったこともある。データ分析 or KKDではなく、データ分析 and KKDである。」

河本様は、15年前からデータ分析に携わるようになり、米国ローレンスバークレー国立研究所勤務等を経て、現在は大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンターの所長を務めています。ビジネスアナリシスセンターは、従来は大阪ガス本体とグループ各社に分析ソリューションを提供していましたが、高まるニーズを背景に、大阪ガスグループのオージス総研を通じて、グループ外へもサービスを提供しています。

ビジネスアナリシスセンターが提供するサービスは、大阪ガス社内が相手でも、利用部門に費用を課金する独立採算制になっています。社内ですから、分析が役に立たない、という評判がもしも立ってしまうと、すぐに噂が広がり依頼が途絶えてしまうかもしれません。河本所長がデータ分析の本質的な価値を探究するきっかけは、このような厳しい仕組みにもあったようです。

講演は、分析者はどうあるべきか、に続きました。
「フォワード型分析者になろう。問題発見力があり意思決定後の実行力まで備えているのが、フォワード型分析者である。対して、与えられた分析問題を解き、知識を得るまでをこなすのが、バックオフィス型分析者である。」

「バックオフィス型分析者が備えている『解く力』に加えて、フォワード型分析者は、『見つける力』と『使わせる力』を備えている必要がある。最も重要なのが、データ分析でビジネス課題を解決できる機会を『見つける力』、即ち、問題発見力だ。そのためには、社内外のデータに関する幅広い見識が必要であり、データ側からではなく、ビジネス側から発想することが求められる。そして、『見つける力』には、ビジネス現場とのコミュニケーション力が欠かせない。」

「でも、そうやって見つけた機会の多くは筋が悪い。そんな筋の悪い分析機会に捕まれらないために、事前にサクセスストーリーを描く。ビジネス価値を生み出すために越えなければならない壁は、4つある。データが得られるかというデータの壁、分析から知識が得られるかという分析の壁、KKDだけに頼らない意思決定が出来るかというKKDの壁、妥当な費用で実現できるかという費用対効果の壁である。この4つの壁を超えるサクセスストーリーを描こう。」

「『解く力』とは、仮説力である。仮説力とは、数学力ではなく、コミュニケーション力+洞察力である。解く鍵は、現場にある。従って、現場の洞察・利用者の視点を共有できるかが重要だ。残念ながら、分析者が論理的思考力しか持っていないと、私の経験からは、うまくいかない。」

「最後に、『使わせる力』が無ければ、成果を実現することができない。
我々の仕事は、報告して終わりではない。現場では、今までの取り組みを、なかなか変えたがらないものである。『俺たちが長年培ってきた勘と経験を否定するんか?』と言われることもある。このような心理的な壁は、コミュニケーション力で超えなければならない。『面倒くさい』という壁は、IT力で超える。」

「データ分析プロジェクトは、うまくいくか分からないことに挑戦することであり、システム開発プロジェクトが、やるべきことを確実にやることであるのと対照的である。特に重要なのは、コミュニケーション力だ。数学力は、不可欠ではない。」

「企業の全組織、全業務、全サービスにおいてデータ分析の活用機会を発掘し、分析力で新たな価値を創造したい。」

以上が河本様の講演の要旨です。いかがでしたでしょうか?

河本様は、別の講演(注1)で「データ分析においては、データを素材に、分析手法を調理方法にたとえることができる。素材の量や質・調理方法にこだわることは重要ではなく、相手が欲している料理を作れることが真の価値である。」と述べています。まさにその通り、と膝を打つ思いです。

このコラムを書いているところに、河本様の著作出版のお知らせをいただきました。
「会社を変える分析の力」河本 薫 著 (講談社現代新書) 2013年7月18日発行
http://www.amazon.co.jp/dp/4062882183
目次を拝見したところ、今回の講演内容をより詳しく説明しているようです。私は早速購入し、届くのを待っているところです。河本様のご講演内容に関心を持たれましたら、是非ご一読をお勧めいたします。

インテグラートでは分析ツールを開発・販売していますが、ソフトウエアだけではうまく行かないことを痛感してコンサルティング・研修を強化してきました。現在では、コンサルティング部門の売り上げが、ソフトウエア部門を上回るようになっています。ここに至るまでは、ソフトウエアだけでは何が足りないのか、悩み続けた長い歴史があり、河本様の講演には、大いに共感するものがありました。

データ分析は、時間軸で考えると、主に過去から現在に基づく意思決定を対象にしています。従って、もしも将来こんなことがあったら、という場合の意思決定支援はあまり得意ではないようでした。一方で、インテグラートは、もしも、という将来のシミュレーションに基づく意思決定支援を得意にしています。インテグラートのソリューションと、データ分析を組み合わせると、過去からの学習を、未来を見据えた意思決定に活用する、より顧客に役立つソリューションになるのではないかと思いました。

最後になりますが、本講演は、さくら情報システム様主催の金融・リスク関連ソリューション社長会で拝聴しました。企画いただいたさくら情報システム様に感謝申し上げます。

(小川 康)

注1:大阪ガス 河本薫氏が語る、“分析力を武器とするIT部門“になるための4つのポイント■ガートナー「 ビジネス・インテリジェンス&情報活用サミット 2013」レポート
http://enterprisezine.jp/iti/detail/4893
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