夢を力に夢を育てる意思決定
Vol.93「夢こそ重要」を受けて、夢について更に考えてみたいと思います。「夢を力に」本田宗一郎は小学校2,3年生のときに初めて自動車を見て「僕もいつかは自動車を作ってみたいな」という夢が力になったようです。
「夢を育てる」松下幸之助は昭和31年、一企業体で将来の目標を外部に堂々と発表するようなところはなかった時代において、向こう5か年で売上高を4倍にする方針を発表しました。
企業の成長は企業家の夢の大きさまでということが多くの研究でも裏付けられており、「夢こそ重要」はそのとおりだと思います。その夢に対して、夢に向かった意思決定について、本田宗一郎が22歳で「アート商会浜松支店」として独立し、松下幸之助が「電気事業は将来非常に有望だ」と決心し24歳で企業するという夢に向かった意思決定について関心を持っています。
時宜にかなってHarvard Business Review March2014で「意思決定を極める」特集が組まれており、ライフネット生命代表取締役会長兼CEO出口治明氏は「100年後に世界一の生命保険会社になる」というビジョンを掲げて起業したとの記述が目に留まりました。これからも「夢を力に夢を育て、その夢に向かって意思決定をする」ことが重要であり、このような意思決定を支援していくことが社会全体に求められているのではと思います。
夢を組織の意思決定に
そのような重要な意思決定をどのように行うかについて、出口氏は、良い意思決定は「自分自身」「歴史」「周囲の人間」という3つの鏡を良く見ることで生まれると述べています。「周囲の人間」というキーワードが出てきますが、同特集で神経科学者藤井直敬氏の論稿はとても興味深く、「人は自分一人の意思で行動を決めることはなく、置かれた状況が異なれば、同じ人がまったく反対の判断を下すことも珍しくない」と述べています。「個人の夢を力に組織の夢として育て、その実現に向けて意思決定していくこと」、組織の中における意思決定について更に考えてみたいと思います。
意思決定への群衆の知恵
あなたが考える2000年間の人類最大の発明は何になりますか。
2000年1月1日に「2000年間で最大の発明は何か」(ジョン・ブロックマン)が発刊されました。ヨハネス・グーテンベルグの活版印刷技術等とても重要な発明がいくつもあり、どれか一つを最大とすることは難しいですが、認知言語学者ジョージレイコフの「ある考えについての考え」 に最も興味を持ちました。「自分が積極的、意識的に新しい考えを作り上げられる」という概念で、実は人間に生まれ持った自然なものでないということに驚きましたが、そうであれば、「あらゆる発明の原因として必要欠くべからずのもの」との指摘はまさにそのとおりだと思います。
「ウィズダム・オブ・クラウズ(群衆の叡智)」の著者ジェームズ・スロウィッキーらにより、少数の専門家の予測よりも、その事象に関わる多様で多数の個人が参加する予測の方が高精度だということが最近明らかになってきました。しかしながら、驚くべきことに、既に1951年に松下幸之助は、「衆智こそは、人間の最高の知恵、英知であり、いわば神の意志を代弁する知恵」とPHP研究所で述べているようです。
意思決定に向けて衆智としてのシナリオ
世界の潮流として、1970年頃から超長期の将来の起こり得る可能性や予測をシナリオとして分析する手法が広まってきています。世界的ベストセラーで世界に衝撃をもたらした1972年発刊「成長の限界ローマ・クラブ人類の危機レポート」が代表的ですが、その序論図1.「人間の視野」(人々の関心の時間=空間グラフ)において、大多数の人々の関心は家族や職場に対する短期的な事柄に限られ、「ごく少数の人々だけが遠い未来に広がる世界的な関心を抱いている」との核心を突いた指摘は今でも当てはまるのではないでしょうか。
その後も近年、将来シナリオに関して下記を代表的な著書として続々発刊されています。
・2007年12月発刊 「シナリオ2019」宮川公男~日本と世界の近未来を読む~
・2012年8月発刊 「2050年の世界」The Economist~英エコノミスト誌は予測する
・2013年1月発刊 「2052年」ヨルゲン・ランダース~今後40年のグローバル予測~
・2013年4月発刊 「2030年世界はこう変わる」The National Intelligence Council
宮川公男氏は意思決定理論を学ぶ上での必読書「意思決定論」の著者ですが、「シナリオにより未来を考えることは単に一つの未来を予測しようとすることではない。将来の人間社会について我々がどう考えたら良いかを探求することである」と論じています。
英エコノミスト誌予測の中で、日本にとって最大の挑戦は「シュンペーターと英語」と指摘しており、前述の「夢を力に夢を育て、その夢に向かって意思決定をする」必要性について改めて感じます。
ヨルゲン・ランダースは、「我々は未来の為に資源枯渇・環境破壊回避の予防的投資とダメージ修復の事後的投資という大きな投資の意思決定をしなければならない」とし、The National Intelligence Councilは、「未来予測は外れることが多いから、どういう条件下でどういう可能性があるかをしっかりつかまないと誤読する可能性が大きい。最悪シナリオと最善シナリオでは全く違う世界が生まれる」としており、各著書のシナリオの内容も気になるところですが、これらを通読するとシナリオとは何かという本質が見えてきます。
意思決定に向けて振れ幅を考えるシナリオ
このような世界の潮流に対して、日経ビジネス徹底予測2014でボストンコンサルティンググループ木村亮示氏は、日本企業ではシナリオプランニングの活用は黎明期であるとの現状認識もそうですが、その原因と解決策の中で「トレンドが現実になった時の事業への影響を具体的な数字で示す」という点にとても共感を覚えます。
2014年2月15日、関東甲信地方は記録的な大雪に襲われました。
甲府市で観測史上最多となる114㎝の積雪を観測する等、気象庁の予想を大きく超えたことに対して、気象庁は「予想より気温が下がった」と釈明に追われているようです。
15日の東京都心の最低気温を「1℃として予想したが、実際は氷点下0.2°となり」これにより上空からの雪が解けずに積雪が増えたことが原因であると説明しているそうです。
このような釈明だけで終わるのではなく、未来に向けて改善を考えることは出来ないでしょうか。前述のようにシナリオを用いた予測が世界で広がってきていることを視野に入れて考えれば、「気象予想もシナリオを用いて振れ幅で予想する」という新たな概念を気象予想分野にも生かすことが出来るのではないかと考えます。例えば、最低気温の予想は「2℃~氷点下2℃」、「この幅にて考えられる積雪量はMin○㎝~Max○㎝になります」と表すことで、「リスクシナリオとして○㎝の降雪があり得るので備えをして下さい」等の注意喚起により、自治体や住民も最大積雪量のリスクに備えることが出来るのではないかと提案したいと思います。
因みに、株式市場に大きな影響を与える企業の業績予想開示分野においても、2011年7月の日本証券経済研究所「上場会社における業績予想開示の在り方に関する研究会報告書」を受けて、東京証券取引所より「業績予想開示に関する実務上の取扱いについて」が公表され、業績予想数値については特定の数値による業績予想を「原則的な取扱い」とすることを廃止して自由記載形式の様式選択が可能となり、業績予想をレンジ=振れ幅で開示する方法も明確に認容されるようになりました。またその試算の前提条件や根拠を分かり易く説明することも重要になってきています。
夢を支援する企業
前述の本田宗一郎の夢は更に大きく、「初めて飛行機というものを実際に見、ナイルス・スミス号の飛行ぶりに感激した」と述べられています。
インテグラート社は、夢を力にし、夢の実現に向けたシナリオによる意思決定を支援することで、夢を育てる企業だと感じています。
次の機会には、夢を実現するフレーミングからのシナリオプランニングについて述べてみたいと思います。
(長谷川 浩司 株式会社ランドコンピュータ 取締役)