今月上旬、シリコンバレーに出張してきました。ジェトロ(日本貿易振興機構)が主催するシリコンバレー・イノベーション・プログラムの第二期企業にインテグラートが採択され、現地での事業展開支援プログラムに参加しました。

シリコンバレーでの数々の支援プログラムの中で、9月8日(月)から10日(水)までは、「TechCrunch Disrupt SF 2014」へ参加しました。「TechCrunch Disrupt SF 2014」は、直訳すると、「技術をバリバリと噛み砕く、破壊的イベント サンフランシスコ2014年」という、常軌を逸した感に溢れた名称の3日間のイベントです。この3日間のイベントは、70名以上のITベンチャー関係著名人による講演と、ベンチャー企業が競うコンテスト、参加企業による展示で構成されていました。

インテグラートは、ジェトロパビリオンの一角で展示ブースを設置していましたが、残念ながら展示ブースへはそれほど多くの来訪者はありませんでした。イベント全体とは異なり、平和な3日間でした。しかし、そのおかげで、インテグラートブースの真正面に置かれた大型モニターで刻一刻と中継される会場内の主な出来事を3日間じっくりと観察できた、という予想外の収穫がありました。

観察した中で、最も印象に残ったのは、ベンチャー企業が競うコンテストです。その名も、「Battlefield(戦場)」。名前からして参加する意欲を削ぎそうな気もするのですが、実は世界各国の800社以上が応募したそうです。この応募数から、世界中のITベンチャーが米国市場を目指している大きな流れが感じられます。その中から選ばれたわずか28社がこの3日間で優勝を競いました。具体的には、各社が6分以内のプレゼンテーションを行います。そのプレゼンテーションをモニターで次から次へと見て、一部のプレゼンテーションを実際に発表会場内で直接見たりしますと、なかなか言葉では表せない強烈な緊張感が肌に伝わってきました。

その強烈な緊張感の源は、発表するベンチャー企業のレベルの高さです。
まず、話が分かりやすいのです。選抜された28社は、誰でもできるような事業ではなく、新たな独自技術・高度な知識に基づく新事業を計画しており、素人にはわかりにくさを伴います。その技術や知識を説明するのではなく、どのような問題を解決するのかを非常に明確に説明していることが実に素晴らしいと感じました。最終選考に進む6社が発表され、最終的に1社が優勝するまで、ベンチャー企業のチームの若さとエネルギー、発表会場にぎっしりと詰まった1,000人を優に超える聴衆の熱気、ヤフーのCEOメリッサ・メイヤー等の著名人による発表者への遠慮のない質問など、世界レベルの競争を目の当たりにしました。

このコンテストへの参加条件は、「設立後、間もないこと」で、初公開の内容が優先されます。つまり、実績がないことを前提にしているところが、また驚きです。実績がない若者たちの提案が世界中から争うように届けられ、これほどまでの注目を集めている現場に立ち会い、全く新しい次元を見た気がしました。

なぜ米国でこのようなことが起きているのか、その背景について、大変参考になる記事がありましたのでご紹介します。

「”馬の骨”に投資する米国、無視する日本」
中央研究所なき後のイノベーション・モデル
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20140826/372600/
片岡 義博氏(フリー編集者)による京都大学大学院総合生存学館(思修館)の山口栄一教授へのインタビュー
出所:日経テクノロジーonline

この記事で、山口教授は「米国は中央研究所モデルがなくなった後、大学発ベンチャーこそが国を再生させるエンジンになると考え、毎年2000億円もの予算を投じて無名の科学者たちをイノベーターにすべく支援してきた。その結果、30年間で4万人もの若き優秀な技術起業家が誕生した。」と述べています。
山口教授が「海のものとも山のものとも分からない若き科学者たち」を「馬の骨」と呼んで、「馬の骨に託す、そこが大事ですね。」と述べている点が、実績のない若者たちが集まっていた「TechCrunch Disrupt SF 2014」におけるベンチャー企業のコンテストの活況とつながると思います。

山口教授は「要するに、国を栄えさせる根本思想が違う」と指摘し、米国のように新たな科学技術を重視するのか、日本のように実績を重視するのか、と問題を提起しています。大変興味深い内容ですので、是非、リンク先の記事をご覧ください。

インテグラートは、日本では実績を積んできましたが、シリコンバレーでは「馬の骨」どころか、人の目に留まる場にもまだまだ出ていない状況です。
世界レベルの競争を目の当たりにした今回の学びを、次のステップの事業展開に生かそうと思います。

末尾となり恐縮ですが、このような貴重な機会をくださったジェトロ様に心から感謝申し上げます。

(小川 康)