多くの皆様、初めまして。今回初めてコラムを担当します春原(すのはら)と申します。
 インテグラートは、優れた経営理論を土台として、ソフトウェアを活用し、お客様の事業計画立案と意思決定の支援をさせて頂いております。弊社ソフトウェアの基本理論として採用されている経営理論は、「仮説指向計画法」と「戦略的意思決定法」の2つですが、今回のコラムでは、「仮説指向計画法」を身近なテーマに沿ってご紹介したいと思います。

 現在、非常に多くの方がダイエットをされていますが、今回はダイエットで「仮説指向計画法」を活用してみたいと思います。ダイエットの目的を「健康な身体の維持」と定義して、手段として「体重の管理」を行いたいと思います。具体的な方法としては、指標を設定して、目的を満たす数値へと改善していきます。指標としては、一般的に肥満の評価で使用されているボディマス指数(BMI)を採用します。日本肥満学会が決めた判定基準では、統計的にもっとも病気にかかりにくいBMI 22を標準とし、25以上を肥満として、肥満度を4つの段階に分けています(注1)。BMIは、(体重[kg])/(身長[m])2で算出されます。ここで仮想の人物を設定して分析を行ってみたいと思います。身長は日本人男性の平均の1.72m、体重は日本人男性の平均より10kg多い77.5kgとするとBMIは26.2となります。この男性がBMI22になるには、身長が変わらないとすると体重が65.1kgになる必要があるので、12.4kgの減量が必要になります。

 ここで「仮説指向計画法」についてご説明します。「仮説指向計画法」は、「逆損益計算法」と「マイルストン計画法」の2つの方法論で構成されています。「逆損益計算法」は、指標の因数分解と仮説の洗い出しを行います。ビジネスでは利益やNPV(事業の価値)を指標としてよく利用されます。利益は収入と費用の差分であり、収入は売上単価×契約数、費用は開発費、製造原価、販管費、初期投資の和といった形で、指標を因数分解していき、分解した先の項目に変動幅を持たせて仮説を想定します。「マイルストン計画法」は、先ほど想定した仮説を、いつ・どのように確認するかをあらかじめ計画します。ビジネスでは、仮説を早く、安く確認するようにマイルストン・確認方法・改善行動を計画します。そうすることで現状が計画から大きく離れる前に、環境の変化に対応して早く、安く次の一手を打つことが可能になります。

 それでは最初に「逆損益計算法」によってBMIを因数分解し、末端の項目に数値を想定します。BMIの因数分解の構造としては、以下の形になります。

BMI=(体重)/(身長)2
体重=初期体重-減量重量
減量重量=変換係数×(消費カロリー-摂取カロリー)
消費カロリー=個人係数×(基礎代謝量×生活活動強度+平日運動量+休日運動量)
摂取カロリー=朝食+昼食+夕食+間食

 末端の項目について、身長(1.72m)や初期体重(77.5kg)、変換係数(0.0001389kg/kcal)、基礎代謝量(1700kcal)、生活活動強度(1.3)、朝食(600kcal)、昼食(600kcal)のカロリーは普段大きく変化しないので基準値のみとして、平日(0~80~160kcal)・休日(0~300~600kcal)の運動量や夕食(500~600~1000kcal)、間食(0~100~500kcal)のカロリーは基準値の他に最小値と最大値を想定します。また筋肉量や心肺機能によって、消費カロリーは個人毎に大きく異なるので「個人係数」(0.8~1~1.2)を設定して、消費カロリーを計算します。各項目の数字は(最小値~基準値~最大値)で記載してあります。そして、基準値で1年間体重管理をした場合のBMIを確認し、平日・休日に運動をしなかった場合や、夕食、間食の接種カロリーが多かった場合といったシナリオを考え、その際のBMIを確認します。(弊社ソフトウェア「デシジョンシェア」を用いると簡単に変動幅の設定やシナリオの分析が行えます。)1年間ダイエットしたシナリオ分析の結果を次に纏めます。

【基準値の場合】BMI:18.5,体重54.6
【運動しない場合】BMI:20.9,体重61.8
【摂取カロリーを基準値から208kcal増加した場合】BMI:22.0,体重65.1

 次に「マイルストン計画法」によって、変動幅を設けた仮説の項目が想定したシナリオとどの程度乖離があるかをマイルストン毎に確認して、その後の行動に反映していきます。計画を実行して行く途中で、平日・休日の運動量や夕食、間食のカロリーを日々記録していきます。具体的には、1週間の食事のカロリーを記録して、その数値が想定していた値よりも大きかった場合、その増加分の摂取カロリーと同等のカロリーを休日の運動によって消費することで、計画からの乖離を早く、簡単に現状を改善する行動を行うことが出来ます。あるいは、休日に運動量を増やすのが難しいようであれば、カロリーの増加分は翌週の摂取カロリーを減らすことで対応が可能です。そして自身の行動の管理を正しく行ったとしても、計画されたBMIと実際のBMIが異なることが生じると思われます。それは個人によって筋肉量や心肺機能が異なることから、消費カロリーは大きく変わってくるので、計画と実際のBMIが違ってきます。そこで計画と実際のBMIが一致するように「個人係数」を修正することで分析の精度を向上させ、より早く計画を変更し具体的な改善を行っていくことが出来ます。

 「仮説指向計画法」を用いることで、目的を達成するために必要な行動を明らかにし、いつ・どのように確認するかも事前に計画に織り込んでおくことで、最初に想定していたことが外れてきた時に、マイルストン毎に行動あるいは計画自体を修正することが可能になります。ダイエットをしたけれども、なかなかうまくいかないという方は、「仮説指向計画法」でダイエットの成功のための要因を洗い出し、ダイエット中の行動管理も行われては如何でしょうか。この「仮説指向計画法」が皆様にとって、より身近なものとなれば幸いです。

(春原 易典)

(注1)肥満について. 厚生労働省.
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/himan/about.html