アメリカのコンサルティング会社マラコン社のマイケル・C・マンキンス氏とリチャード・スティール氏は、ハーバードビジネスビュー誌に発表した論稿「戦略と業績を乖離させない7つの法則(Turning Great Strategy into Great Performance)」で、「多くの企業が膨大な時間とエネルギーをかけて戦略を構築するが、努力に見合った実績を上げる企業は少ない(両氏の調査では、戦略ならびに予想業績の達成度は平均63%にすぎません。)」としています。今月のコラムでは、多くの企業が課題として抱えていると考えらえる戦略と実績のギャップについて、その問題点と克服するために重要となるルールについてご紹介いたします。

両氏は、「戦略と実績がギャップする原因を把握できず、判断を誤るからであり、逆に言えば、この溝を埋められれば、業績達成の可能性は大きく高まる。」と述べています。更に、「シスコシステムズ、ダウ・ケミカル、バークレーズ・キャピタル、3M等の高業績企業は、戦略と実績の溝を埋めるプロセスを構築し、リスクを最小限に抑え、高業績を継続している」とし、それらの企業が実践する取り組みを整理し、戦略を業績に結びつける「7つのルール」として解説しています。様々なプレッシャーの中、本質的な取り組みが求められている日本企業にとってもこの論稿はヒントになると思います。

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本論稿は(1)戦略と業績が乖離する原因となる問題点を挙げ、(2)その対処策として、戦略を業績に結びつける「7つのルール」を紹介する、という構成になっています。

(1)両氏は、2004年に実施したアンケート調査を基に、戦略と業績が乖離する原因を整理して、以下の5つの問題点を挙げています。

問題点1.予想業績と実績を比較しない
 予想業績に基づいて投資やポートフォリオ戦略を意思決定するにもかかわらず、結果がどう推移しているか検証していない。

問題点2.中期実績は常に予想を下回る
 初年度は横ばいだが次年度以降業績が大きく伸びるという計画を毎年立てていくと、常に実績は予想業績を下回る。これは、次に述べるような別の問題を併発する。(1)経営陣は予想業績を信頼できず、中期戦略が陳腐化し、年度の事業計画や予算によって、長期の投資や戦略を決めることになる。(2)予想業績が信頼できなければ、経営陣は事業の将来見通しが持てず、ポートフォリオ管理が崩壊する。(3)不正確な予想業績は証券アナリストや投資家の不信を招く。

問題点3.戦略の価値が実践段階で損なわれる
 ずさんな計画、資源配分のミス、不十分なコミュニケーション、あいまいな責任の所在等により、当初想定していた戦略の価値が損なわれていく。

問題点4.トップが業績低迷の原因を把握していない
 業績が予想を下回り、低迷を続ける時、そこに至る経緯や理由を示す正確な情報がなければ、経営陣は適切な対策を講じることなどできない。

問題点5.予想業績の未達成が恒常化する
 誰が見ても非現実的な計画が立案され、予想通り未達が続けば、それを当然と感じるようになり、業績目標はもはや陳腐化し、約束ではなくなる。そうすると、ミドルマネージャーたちも無責任になり、業績の向上よりも、責任を回避する方法を探し始める。こうして醸成された企業文化を変えるのは至難の業である。

(2)両氏は、5つの問題点を挙げた後に、戦略と業績のギャップを埋め、高業績を維持している企業の取り組みを整理し、戦略を業績に結びつける「7つのルール」として紹介しています。

ルール1.単純かつ明快な目的
 多くの戦略は実に抽象的である。ビジョンや抱負と混同されることも少なくない。このように戦略の説明があいまいなため、具体的な行動に発展しにくい。戦略が組織に浸透するには、社員一人ひとりが全社の目指す方向性とその理由を理解していなければならない。

ルール2.仮説を検証する
 予想業績とその前提となる仮定を別々に検討すれば、各事業部門と本社部門は経済実態に即して議論できる。すると事業部門は、従来のように専門的な説明で本社部門を煙に巻くことはできない。かたや経営陣も、非現実的な目標を事業部門に押しつけられなくなる。

ルール3.フレームワークを共有する
 予想業績の前提となる仮説や市況について、本社部門と事業部門が建設的に議論するには、何らかのフレームワークが欠かせない。重要なのは、本社部門と事業部門が共通言語で話し合うことだ。

ルール4.資源配分の初期決定
 より現実的な予想業績、より実現性の高い計画立案には、欠かせない資源の配分と投入タイミングを早い段階で話し合う必要がある。

ルール5.優先事項を明確にする
 戦略を成功させるには、意思決定と行動への落とし込みが必要だが、戦術の実行には、優先順位がある。予想業績を達成するための戦術は、適時かつ的確に実行されなければならない。

ルール6.業績を監視する
 計画に基づいて資源の配分状況と業績を継続的に監視し、フィードバック情報を得ることで計画の変更や資源の再配分を実施する。フィードバック情報をリアルタイムで得られれば、計画や実践に問題が生じた時、経営陣は瞬時に対策を立て、軌道修正ができる。計画段階と実践段階のいずれに問題があったのかも即座にわかる。不確実性の高い業界では、業績の継続的な監視が一層重要である。

ルール7.実行力の醸成とインセンティブ
 戦略は、社員のモチベーションと能力を抜きには実現しえない。社員たちの能力を向上させるのは容易ではなく、年数もかかる。しかし、彼ら彼女らのケイパビリティは、何十年にもわたって戦略の立案と実行の推進力となる。
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筆者は、インテグラートが繰り返し主張している「情報共有不足」の問題が、共通して根底にあるのではないかと思いながら、本論稿を読みました。組織として何かを為す為には、同じベクトルを向いていなければなりません。共通言語を持ち、コミュニケーションを取ることは、当たり前のことであると誰もが認識しているにもかかわらず、非常に難しく、多くの企業でできていないのが現状ではないでしょうか。また、それは組織が大きければ大きいほど難しくなり、しかも大きな問題として現れます。この論稿には、そうした企業が抱える問題と、それら問題への対処策が簡潔に書かれており、非常に実践的な内容です。インテグラートの基礎とする理論、「仮説指向計画法(Discovery Driven Planning)」や「戦略意思決定手法(Strategic Decision Management)」とも親和性があり、我々がみなさんのお手伝いをする際にも考えるべきポイントがまとまった論稿でした。

今回のコラムでは「戦略と業績を乖離させない7つの法則(Turning Great Strategy into Great Performance)」より、5つの問題点と「7つのルール」を要約してご紹介しました。本論稿は、「戦略と実績のギャップを解消するメリットは、業績だけにとどまらず、企業文化を変え、組織能力、戦略、競争力に長期的な発展をもたらすのだ。」と締めくくられており、2005年の論稿ながら、中長期的な成長への取り組みを要請する時代の流れにもかなっています。まさにこうした問題に取り組んでおり、道を模索中であるという方は、是非弊社との意見交換をお願いできればと思います。

(松下 航)

参考文献
・マイケル・C・マンキンス、リチャード・スティール著、Diamondハーバード・ビジネス・レビュー2005年12月号p112-123「戦略と業績を乖離させない7つの法則(Turning Great Strategy into Great Performance)」