プロ野球のペナントレースも終盤を迎えています。パ・リーグはソフトバンクがリーグ優勝を決めましたが、日本のプロ野球では2007年から「クライマックスシリーズ(CS)」という名前でポストシーズンゲーム(順位決定トーナメント)が行われています。各リーグでレギュラーシーズンの上位3球団が、まず2位球団と3位球団で戦い(ファーストステージ)、その勝者と1位球団が戦う(ファイナルステージ)という2段階のトーナメントになっています。したがって、レギュラーシーズン2位、3位の球団もCSで勝ち上がれば日本シリーズに出場することができる制度になっています。
 とはいえ、2007年から2014年までの8年間で、セ・リーグ、パ・リーグ合わせて計16回のCSの中で、2位のチームが日本シリーズ進出を決めたのは2回(進出確率約13%)あり、3位の球団が日本シリーズに進出したのは1回(同確率約6%)のみです。やはり下位球団が勝ち上がるのは狭き門のようですね。CSはペナントレース1位の重みを低下させるとの批判の声もありますが、「下剋上」と呼ばれるように、2位以下のチームが勝ち上がるのもまた面白みを増すことになるとも言えます。
 過去の実績からの勝ち上がる確率は上記の通りですが、理論的に2位以下の下位球団がCSで勝ち上がる確率はどの程度になるのでしょうか?今回のコラムではデシジョンツリーを使ってCSの勝ち負けのシナリオを洗い出した上で下位球団が勝ち抜ける期待値を算出し、下位球団が勝ち上がるための道筋を考えてみたいと思います。

 まず、CSのファーストステージとファイナルステージのルールをお示しします。
*ファーストステージ
2位球団と3位球団が、2位球団の本拠地にて3試合制で対戦します。勝利数が多い球団が勝者となり、ファイナルステージへ進出します。引き分け試合が発生し、3試合終了時点での対戦成績が「1勝1敗1分」もしくは「0勝0敗3分」と同じ勝敗数になった場合は、2位球団が勝者となります。2試合終了の時点で勝者が決定した場合(「どちらかの球団の2勝」もしくは「2位球団の1勝1分」)、3試合目は実施しません。

*ファイナルステージ
1位球団とファーストステージの勝者が、1位球団の本拠地にて6試合制で対戦します。1位球団にはレギュラーシーズンの成績を反映し、1勝のアドバンテージが与えられます。このアドバンテージによる1勝を含め、先に4勝した球団が「クライマックスシリーズ優勝球団」となり、日本シリーズに出場できます。ファーストステージ同様、引き分けて同じ勝ち数になった場合は、1位球団が日本シリーズ進出となります。1位球団の五分以上もしくは負け越しのいずれかが決定した時点で終了し、残りの試合は実施しません。

 このように、いずれのステージも上位球団に有利なルールとなっており、これが下位球団の勝ち上がる確率を低くしている要因とも言えます。このルールにしたがってまずデシジョンツリーを使って各試合を勝ち、負け、引き分けに分けて全てのシナリオを洗い出しました。この結果、3試合制のファーストステージは19通りのシナリオがあり、このうち3位球団が勝ち抜けるシナリオは6通り(32%)あります。6試合制のファイナルステージは321通りのシナリオがあり、このうち下位球団(ファーストステージの勝者)が勝ち抜けるシナリオは122通り(38%)あります。

 次にデシジョンツリーに設定する勝ち、負け、引き分けの確率を設定します。設定に当たっては次の2点を考慮しました。
(1)引き分けの発生確率
レギュラーシーズンでも発生の頻度が少ない引き分けについて、過去データから発生確率を設定しました。
2012年から2014年までの3年間の、セ・パ両リーグレギュラーシーズン全試合2592試合のうち、引き分けが109試合だったので、これを基に引き分けの発生確率を4%と置きました。
(2)上位球団本拠地での開催による下位球団負け確率の増加
ファーストステージ、ファイナルステージとも、上位球団の本拠地(ホーム)で開催されます。野球以外の多くのスポーツでも一般的にホームゲームが有利と言われますので、この点についても過去データから発生確率を設定しました。2012年から2014年までの3年間の、セ・パ両リーグの、CSでのホームチームとなる球団であるレギュラーシーズン1位と2位の球団のホームゲーム数864試合のうち勝ち試合が512あるので、ホームチームの勝率を59%と置きました。

この結果、下位球団の勝ち、負け、引き分けの確率を次のように設定しました。
・下位球団が勝つ確率 :37%
・下位球団が負ける確率:59%
・引き分けの確率   : 4%

この設定を使って、下位球団がCSを勝ち抜く=100%とした場合の、下位球団の勝ち抜き期待確率を算出しました。

*ファーストステージ
ファーストステージで3位球団が勝ち抜く期待確率は31%と出ました。つまり、3.3回に1回は勝ち抜くことが可能ということです。過去の実績では、ファーストステージで3位球団が勝ち抜いたのは16回中9回(56%)もあるので、期待確率はこれよりも低くなりました。ファイナルステージと異なり、上位球団へのアドバンテージもなく、また3試合制(先に2勝したら勝ち抜け)という極めて短期決戦なので、2位球団のアドバンテージはホームゲームである点くらいでしょう。シナリオ別の期待確率を確認すると、短期決戦であることから先勝すると非常に有利になります。3位球団でも先勝すると期待確率は60%まで上がりますが、逆に初戦で負けると3位球団の期待確率は14%(約7回に1回)まで下がり、勝ち抜けがかなり厳しい状態になります。

*ファイナルステージ
ファイナルステージで下位球団が勝ち抜く期待確率は14%と出ました。ほぼ7回に1回程度しか勝ち抜くことが期待できないことになります。また、過去の実績値とほぼ同じ期待確率でもあります。ファーストステージと比べると、1位球団に1勝のアドバンテージがあること、またファーストステージの倍の試合数がある点が異なることから、1位球団にかなり有利なステージになっています。シナリオ別の期待確率を確認すると、ファーストステージと同様、やはり初戦が非常に重要で、下位球団が初戦に勝つ(1勝1敗)と、勝ち抜き期待確率は27%まで上がりますので、初戦に勝って初めてファーストステージの開始前の期待確率と同等になります。さらに第2戦も勝って連勝すると、期待確率は48%まで上がり、ほぼ1位球団と互角の期待確率になります。また、第4戦までに下位球団が3勝(アドバンテージを除くと1敗もしくは1引き分け)していれば、いずれのシナリオも期待確率は60%を超えます。逆に、初戦で下位球団が負けると期待確率は7%まで下がり、ほとんど勝ち抜けが望めない程度になります。過去の実績でも、下位球団が初戦を落とした場合、勝ち抜けたケースは一度もありません。

 以上をまとめると、3位球団が日本シリーズに進出する期待確率は、ファーストステージ勝ち抜け確率31%×ファイナルステージ勝ち抜け確率14%で4%となります。ちなみに、2位球団が日本シリーズに進出する期待確率はファーストステージ勝ち抜け確率69%×ファイナルステージで勝ち抜ける確率14%で10%となり、1位球団が日本シリーズに進出する確率は上記2つの確率の余事象で86%となります。
 下位球団が下剋上を達成するには、いずれのステージでも先勝を取るためにも第1戦に全力を尽くすこと、さらにはファイナルステージでは第1戦を勝ってから、第2戦から第4戦までの3試合を2勝1敗で乗り切れば、勝ち抜けの可能性が高まると言えます。

(井上 淳)

参考Webサイト:日本野球機構(NPB)オフィシャルサイト
http://www.npb.or.jp/